アラン王カケズリマワル
「アラン王、ジ・レン国より援軍一千名、フジナミ国よりイディアフ王子を先頭に援軍三千名到着しました」
「・・・・・・兵力は4万を超えたな」
「はい、ただいま到着した援軍を含めて約4万4千名です」
「よしっ、保管してある食料は使い切ってもかまわん。戦いが終わるまで全兵士に食料だけはしっかり配るんだ」
ハッ!
「数の上ではそれなりに集まってくれそうではあるが、手練が足りない。出来ればあと10人。集まらなければ一気にカタがついてしまう可能性もある。うちの師団長4名とビアンカ、わたしを含めても魔帝十指には敵わんだろう。貴重な戦力を各国出し惜しみしている事も考えられるな・・・・・・」
アラン王の焦りも募る。
「これがうちだけではなく、人間と魔物の一大決戦であるという事が分からないのか・・・・・・」
日夜、アイ王国では幹部が集まり対策本部が置かれ検討会が開かれていた。
この時には、ドン・マッジョから届く知らせで、ケンジ達4人で大魔王ネオバーンに挑む作戦が進んでいることはアラン王の耳にも届いていた。
アラン王はその作戦の成功を信じ、ケンジ達が自らの戦いに集中できるよう、アイ王国に攻め入る魔物を自分達だけで撃退。最悪でも足留め出来るよう万全の準備を進めていた。
「まだ間に合うかもしれん、もう一度ここに載る者には使者を出すんだ。事の重要性をもっと真剣に伝えるのだ。大魔王ネオバーンを倒す機会などこの先何百年も訪れないかもしれないんだぞ、行け」
ハッ!
もう魔物達が攻めてくるまで2日しかない。アイ王国国内は兵士だけではなく、全住民が慌ただしく動き回っている。アラン王の呼びかけで国内の動ける者は皆、戦の準備に掛かるよう指示が出たのだ。
赤ん坊を背負った母親が鎧を磨き、矢尻を研ぐのは老人で、研ぎ終わった矢の束を持って走るのは子供達。まさに総動員で魔物を迎え討つ準備を進めていた。
「ベガルード!」
アラン王は師団長の古株ベガルードを呼んだ。
「はい、王」
「すまんが1日皆の指揮を任せる」
「ハッ!お任せを。お休みになられますか」
「いや、しばし国を出る」
「???、今ですか?何故」
「今のままでは埒があかない。わたしが直談判してくる。よいな、ここはお主にまかせるぞ」
アラン王はそう言い残し、すぐに会議室を出て北に向かって馬を走らせた。馬足が遅くなると言って、護衛兵も連れずただ独りで行ってしまった。
一方、ケンジたちもサンポーレルの郊外で大魔王ネオバーンとの戦いに向けて特訓を行っていた。
「違う!ネオバーンの一撃をケンジが防いだその隙にタージが脇腹に向かって打ち込むのよ」
「・・・・・・!」
「イヂチ、あんたは黙ってなさいよ!わたしにしか聞こえないんだから、ぶつぶつ言うのやめてよ!あっほら、今度はショウの番でしょ!」
「あー、もうダメだ。もう一回始めからー」
「こんなんじゃ、ネオバーンを倒すどころか、一瞬で全滅するわよ」
「時間がないー、あー」
「・・・・・・」
「しるかっ!」
身になっているのか・・・・・・、とにかく4人は体を動かした。じっとはしていられない。
アイ王国へ報告に行っているドン・マッジョの使いの者が帰って来るたび国の様子を聞いた。
「父上も母上も頑張ってる。ケンジ、分かっているわね」
「うん、僕たちがネオバーンを倒せるように他の敵を一手に引き付けようとしてくれてる」
「これじゃ、私達ヘタ打てないわ」
「そうだね!」
魔物達が動き出すとされる期日まで1日を切った。ドン・マッジョから4人へお呼びが掛かった。
「お忙しいところ、集まってもらって申し訳ないです」
ドン・マッジョは、ソファに座るように勧めた。
「直前に余計な話はしない方が良いという事は分かっているのですが、作戦の最終確認と、現在分かっている限りの情報だけは、手短にお伝えさせてください」
4人はお互いの顔を見合って「ええ、分かったわ」と、代表してショウが言った。
ドン・マッジョが一つ頷いて話を始めた。
「私の指示で内密に魔物達の動きを監視している者がいます。彼らから先ほど届いた情報によると、どうやら予想していた魔物の頭数、5万体を大きく上回る7万体ちかい魔物達が現在集結を完了しているようです」
「2万も増えて、7万・・・・・・」
「これは、想定を遥かに上回りました。私の考えが甘かった。申し訳ない。これについてはすでにアイ王国にも使いを出して知らせるところです」
「うちの兵力はどうなんです?」
ケンジが身を乗り出して聞く。
「はい、今届いている最新の情報ではアイ王国所属の3万兵に加え、近隣をはじめ各国からの援軍を合わせて11万を超える兵士が集結しているようです」
「えっ、11万!」
「はい、これにも驚きました。どうやらアラン王自ら足を運び、様々な場所で呼びかけを行っているそうです」
「父上が・・・・・・」
「皆さんと同じくジッと待ってられないのでしょうね」
「数の面では互角以上。ただ相手は魔物です。決して簡単にはいかないでしょうが、ただ戦い方次第では十分迎え討つ事が出来るでしょう。それから、アラン王は十指に対抗するための個の戦力も考えて、北のイジポジという小国に身を寄せていた、セイラという魔導士。彼女は名こそ世に知られていませんが、実力は確かです。実はわたしもこっそりとマークしていたんですよ」
「イジポジのセイラ?聞いたこともないわ」
ショウは首を傾げた。
「次は皆さんも名前は耳にした事があるかもしれません、茶月教の筆頭頭のシン。言わずと知れた刀の使い手ですね」
「茶月教っていえば、刀術の名門よね。門下生だけで5千人はいるんじゃない」
ショウは意外と世俗に詳しいところがある。
「そうです。そのトップを仲間に付けたんです。門下生の多くも戦いに参加するでしょうね。さらに、う〜ん、アラン王の子供の前で言うのも気が引けますが、大盗賊団ゼロのお頭、イッ・キュウ。彼は殺しも掠奪も何とも思わない根っからの極悪人・・・・・・、確かに戦闘能力で言えばピカイチでしょうが性格が・・・・・・」
「ゼロって、前にフィードにも乗りこんで来たことがあったわ。確かに手強かったけど、私とおやじで追い返してやったわ」
「それは、ゼロの本隊じゃなくて別働隊でしょうね。そこにイッ・キュウがいれば、手こずるはずです」
「そんなに強い奴はいなかったなー。そんなに強いのそいつは」
「魔法も体術もどちらも一級品の上、相手を殺す事になんの躊躇いもない男なんです。試合開始の鐘が鳴る前に、相手と審判を殺すような、ある意味では魔物よりも厄介な奴です。私も仕事の上で、何度もこいつには危ない目に遭わせられているんです」
「そんな奴に声を掛けて大丈夫なのかしら」
「アラン王としては、苦渋だったでしょう。それでもそうしたのは魔物に勝つという意味では賢明な判断だったんじゃないですか」
「父上がよくそんな危ない奴に声を掛けたわね。信じられないわ・・・・・・」
「アラン王は、最後にレポリエイス四世の宮殿に足を運んでいます」
「レポリエイスって、この世界で現存する最古の都イリジールの王よね」
「その通りです。イリジール国です」
「でも待って地理的におかしくない?。数日で行ける距離じゃないわよね。アイ王国からなら、片道だけでも7日は掛かるけど・・・・・・」
「ええ、わたしにも全くの謎なんです。アラン王の行動範囲は明らかに常軌を逸しています。おそらく何かしらの魔法を使ったんだと思いますが・・・・・・、それにしてもすごい行動力だ」
「父上は、イリジールに何をするために寄ったの?」
「アラン王は、ポンという軍師を連れ出す事に成功しています」
「軍師?わざわざその為に」
「それは分かりません。わたしもそのポンと言う人物は聞いた事がありません。ただイリジールには、この世界の歴史、グリコ史が詳しく記録され、日夜研究が行われているという事は知られています。魔物との度重なる戦いの記録も詳しく書かれ何かこの度の戦いの助けになるかもしれないと考えられたのかもしれません。アラン王は、ポン軍師と一緒にアイ王国に戻っているようです」
「急造の軍師で大丈夫かしら・・・・・・、ベガルードあたりが怒りそうだけど」
ショウの心配をよそにドン・マッジョは話を進める。
「アラン王の活躍は凄まじいですよ。驚きました。とにかくアイ王国は王自ら先頭に立って魔物を迎え討つ準備を進めています。第一波とされるエックス、ゼットの攻撃を見事に防げれば、希望の光はかなり強く光るでしょうね」
「頑張りすぎな父上が心配だけど、ここまで来たら信じるしかない」
ケンジはドン・マッジョを見つめてそう言った。
「そう。あとは皆さんの状況です。大魔王を相手どった模擬戦を繰り返しているようですが、いかがですか?」
4人は下を向いて押し黙る。
「模擬戦はあくまでも模擬戦です。何百年か前の大魔王と現在の大魔王でも違いはあるだろうし、実際に戦ってみないとなんとも」
「ええ、そうですよ。はっきり言って大魔王が年老いて全盛期の半分以下の力しかない事だって考えられる」
「・・・・・・!」
「えっ?あぁ、はいはい。その逆も考えなければならない。と彼は言っています」
「ええ、その通り。二百年前がまだ子供で今ちょうど成人を迎えたなんて事になるとその強さは測り得ない。そんな事は考えたくもないですがね」
ドン・マッジョは咳払いをした。
「それから偵察隊からの報告があり、作戦の中で変更点があります」
「どんな?」
タージが間をおかず責め立てる。
「大魔王は、近衛兵と移動用のトーチカに乗ってアイ王国に向かうとされていましたが、このトーチカが全く別のものに作り変えられていました」
「乗り物が変わっただけで、大きく変更しなきゃならない訳じゃないわよね?」
「それが、新しいトーチカは、最早、トーチカと言っていいかわかりませんが、それはそれは巨大な物に生まれ変わっていたそうです。先の見立てでは300体の魔物が運搬すると思われていましたが、その規模から見積もって1000体。1000体もの魔物が周りに付く見立てに変わりました」
「1000体って、大群じゃないですか」
ケンジが驚く。
「わたしが出せる私設兵もなんとか1100名がやっと。近衛兵100体を合わせると、数では互角。ただ魔物も精鋭揃いでしょうからかなり厳しい戦いになる事が予想されるようになりました」
「・・・・・・まあ、そうよね」
「イヂチの魔法で私たちと大魔王をどこかに飛ばして戦うのはどう?」
タージが机を叩いて声を上げた。
「それで、速攻大魔王を倒して冥界門に戻って残りの魔物達を殲滅するの。そうすれば、大魔王だけに集中して戦えるでしょ!ねっ、ねっ」
「確かに大魔王だけと戦えるならそれは願ってもない状況だけど・・・・・・。大魔王よ。そんな簡単にイヂチの魔法で飛ばす事なんて出来るのかしら?隙が生まれてとんでもない一撃を喰らったら大変よ。それに飛ばす先だって、人間が暮らしている地域に移動しちゃったら、巻き添えが出てしまうわ。豪魔地帯なら、兵士だけに気をつければ思いっきり戦えるわ」
「うーん。それもそうね」
「わたしも幾つか考えましたけど如何に敵が増えようとも、そのままその場所で戦闘に移った方が良い気がします。わたしの兵には、なるべく魔物や近衛兵を大魔王から引き剥がすようにと指示しておきます」
「・・・・・・たしかにそうね、分かったわ」
「後は・・・・・・、いや、もうやめておきましょう。不安が募るばかりだ」
「そこまで言って言わないのは気になるけど、まあ聞いたところで作戦が煩雑になる一方ね。私たちはネオバーンを一刻も早く倒して、魔物の恐怖から怯える事のない未来を作るの。ね、みんな」
ショウの言葉に、3人が頷く。
「頼もしい限りです」
ドン・マッジョは、手を叩いてそう言った。
作戦決行まで20時間。時間になったら正面玄関に集まるようにとだけ言われ、自由な時間が与えられた。
部屋を出る時、ケンジがドン・マッジョに呼び止められた。
「ケンジ、私たちは部屋へ戻るわー。くれぐれも寝坊はしないように」
ショウはそう言って、ケンジを気にも止めず扉を閉めて行ってしまった。
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