ドン・マッジョ
眠らない街、サンパーレルはアイ王国の東方の端に隣接し、小国ガハラン領に属す。
ただし、その周囲には大小合わせて複数の国が隣接し、表向きにも裏向きにも交易都市として賑わう。
ガハラン国領であるにも関わらず、実質サンパーレルは、大商人ドン・マッジョが支配する独立国家の形成をなしている。
ドン・マッジョといえばどこの国のトップにも顔が効く大物で昔からこの地を生業として事業を拡大させ、現ドン・マッジョは実に18代目として君臨しているのであった。
「ドン、ネザイク国王が急な要件で取り次いでくれと連絡が入っていますが」
「フン、かまわん放っておけ」
「ミツカンの件はいかがしますか?」
「適当に金を掴ませろ。まだ利用価値がありそうなら・・・・・・そうだな、2億。もう底が見えてるなら、切り捨てだ」
「かしこまりました。では、早速」
サンパーレル街の中心には、見上げると首が折れるくらい高い建物が聳え立つ。ドン・マッジョの根城だ。
ドン・マッジョはこの建物の最上階にいる。
ふぅー。と大きく息を吐く。
「ご覧の通りやる事が多くてね、なかなかここを離れる事ができなくてね」
マッジョは、椅子の向きを変えて言った。
「そうでしょうねぇー、如何にも大変そうです。はいー」
少し離れたところのソファに座る、小さな男と大柄な女。男は手を擦り合わせて頷いている。
「あなた方の国の言い方に変えて話すと、時代も波と一緒です。押しては返す波。きっと今は魔物達が押している場面、その波の程度はまだ見えてこない。全容が見えるのにはある程度の時間と実被害が必要です」
ドン・マッジョは、淡々と話をする。
ソファの男は小刻みに頷く。
女は太い脚を組んで睨むようにマッジョを見ている。
「この時代1番高価で取引されるのは『情報』です。フィード海賊団が先日ゴゴ大国の艦隊をやりくるめ、魔王十指のハン・ゾッドを撃退した事実には正直驚きました。ねっ、タージさん」
そう、ソファに座っているのはフィード海賊団の頭首タージとお付きのマケロニだった。
ドン・マッジョは、動かないタージに向かって微笑みかける。
「・・・・・・」
「実は強い女性はわたしの好みなんです。肉体的にも精神的にも貴女は類稀な女性だ。だから声を掛けてここまで来て頂いた。少しは私と話をしませんか?」
マケロニは、ふたりの顔を交互にキョロキョロと見回す。
「タージ様どうなさったんです。お腹でも痛いんですか?」
マケロニに頭に大きなゲンコツが落とされる。
タージは立ち上がった。
「サンパーレルのドン・マッジョについては、耳にしたことがあった。どんな男か興味があったからここまで来たけど、あたしが思ってた男とは随分違うようだね。こっちは魔物退治で忙しいんだ。あんたとゆっくり話してる時間はとれないよ」
マケロニに向かって、いくよ!と言って部屋を出ようと歩き出した。
「タージさん」
ドン・マッジョの声が響いた。
「大事な話は、ここからです」
タージは、横目にマッジョを見る。
ほら、と言わんばかりに目でソファに座るように促す。
タージは腕組みをして振り返る。
「あなたにお伝えしたいことがふたつ」
ドン・マッジョは、今まで見せなかったほど冷たい顔をして話を続けた。
「ひとつは、話というかお願いです」
「・・・・・・」
「あなたが、ハン・ゾッドを倒したちょうど同じ時期に、魔王十指のうちのもう二体別の場所で倒した者たちがいます」
「ええっー!」
マケロニは声を上げて驚いたが、タージは眉間に深くシワを寄せた。
「一体は、十指の中でも古株のジャネス。こいつは、フジナミを襲いかかったところを返り討ちにされた。戦ったのは、大国の王子と王女のふたり。アイ王国のケンジ王子とショウ王女」
「フジナミで戦ったのは、自国のイディアフ王子じゃないの?」
「もちろん、イディアフ王子も戦いには参加していましたよ。活躍もしている。ただね、魔物の率いたジャネスを返り討ちにしたのは隣の国から助けにやってきた王子と王女である事は間違えなさそうですよ」
「そうだったんだ・・・・・・」
タージは考え込むように下を向いた。
「ドン・マッジョ様ー。私達はちょうどフジナミのイディアフ王子を訪ねるところだったんですー。てっきり、ジャネスをやっつけたのはイディアフ王子だとばかり考えていたので」
「ええ、分かっています。だから、あなた達がフジナミにつく前に声を掛けたのです」
「はへぇー」
マケロニは、変な声で頷いていた。
「もう一体を倒したのは?」
タージが聞いた。
「もう一体は、カイオーという荒くれ者。こいつは、大陸の東の端、大砂漠地帯で戦闘が行われて、ひとりの賢者によって倒されたそうです」
「賢者・・・・・・」
タージは、ちらっとマケロニに目線を落とすと、またマケロニもタージを見上げてお互い目が合った。
賢者?ふたりにはあまり聞き慣れない言葉だ。
察したマッジョが、補足する。
「ああ、賢者とは簡単に言ってしまえば魔法に長けた人という事です。魔法を駆使してカイオーを倒したとか。ただね。こちらの方に関しては、辺境の地故に情報が少なく、真偽の程も怪しい部分はあります。例えば、賢者の名はイヂチという事。このイヂチは口数が少なく、耳が聞こえないだとか。まあ、わたしも情報収集は続けて行なっているところです」
「それで?」
「それで?ああ、お願いの件。実は、このイヂチに特徴の似た男が、北西の都ギンジムに現れたのです。タージさんにその男が本物の賢者であるか確かめてきて欲しいのです。そして、出来れば彼をここまで連れてきて欲しい。いかがですか?」
ドン・マッジョは、上目遣いに言った。
タージはしばらく黙っていた。
「タージ様ー?」
マケロニが、肘でこつく。
「まあ、いい。分かった。そいつのところへ行ってこようじゃないか」
「・・・・・・そう言ってくれると思っていました」
「それから、あんたもう一つ話があるって言ったわよね?」
「はい、もう一つあります」
「それは?」
「それは、あなたがイヂチをここまで連れてきた時にお話ししましょう。かなり重要で急を要する話、故なるべく早い方がいい。情報の価値が下がってしまう」
フンっと鼻を鳴らすとタージは部屋を出た。
扉を閉める間際に、
「この建物の中なら、女の悲鳴が聞こえるよ。そんな奴まるっきり信用できないって事は覚えておきな」
と言い残して部屋を後にした。
ドン・マッジョは、目を見開いて閉まった扉を眺めた。
「クックックっ・・・・・・。地獄耳の噂は、本当だったな」
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