泡沫の記憶

数多の星は目を瞑ってしまうような輝きを放ち生きとし生きるを見守る。

そんな事を裏付けるように星々は魂の、目を見張るような輝きを放つ街を淡い泡沫で包み込んだ。


──ガチャ


「…ただいま」

絲が残した熱が髪から抜けるのを肌に感じながら、玲於は小さく掠れた声でドアの音が響くひんやりとした家にそっと呟いた。


「……あぁ、この“モノガタリ”は私にこんな事を教えてくれるのか…」

酷く哀しくなるような暖かみで玲於を包むそれは彼女の髪から抜け落ちた熱をもう一度灯らせるように、そっと瓶の中で水面のような輝きを放った。

何処か懐かしいでも違うそんな気配に玲於はまた1つ心に渦巻く気持ちを知った。

どことなく部屋はほんの少しだけ温かくなった。


「スキル・“鑑定”」


[個体名:キメラ・天使(セイレーン)の灰(残骸)

記憶情報及び個体セイレーンの感情を記録]


「…君はどんな条件を満たさないといけないのだろうか…」

ほんの少しだけ眉を顰め、考えに浸る。



どのぐらい時間が経ったのだろう。

だが湯気が揺れていた珈琲が冷たくなって不味くなるほどの時間はたっていた。


思考を揺らすほどの旋律で集中を解かれた玲於は小さく音を響かせるスマホに目を向けた。


八雲絲


「もしもし、」

スマホを手に取り耳に当てた。


《もしもし…レオ、もう夜は食ったか?》

蜂蜜のように甘く低い心地の良い声が耳を震わせる。


「ん、まだだ」

本当は食べずに過ごそうとしていたが、それを言うと面倒な事になるのは目に見えていた。


《なら、ウチに来い》

《どうせ、また食わないつもりだろ》

実際はお見通しである。


「…嗚呼…」

ほんの少しだけ瞳を泳がせ、間を空け小さく頷いて絞り出すように返事をした。



──ガチャ


少しだけ気まずそうにでも八雲家に向かって足を速め、風が緩く頬を一撫でした

その、ほんの少し耳を赤くした家主をじんわりとした暖かさを持った家がドアの閉まる音をそっと奏でながら見送った。

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