気狂い、配信をする

魔法医師ウォッチドクターの沙織だよ〜」

魔法使いメイジの伶於」

死刑執行人エグセキューショナーの絲だ」

3人が自己紹介をする


【きちゃーーー】

【声良】

【耳がー】

【ウォッチドクターがガトリング砲使ってたの????】

【メイジ???でも刀使ってたじゃん???】

【エグセキューショナー???】

【疑問の多いコメ欄ですね(白目)】


「今日は政府の依頼で初心者ダンジョン井之川に来てるよ〜」

カメラに向かって手を振る。


「初心者にわかりやすく井之川の説明をしてほしいと言われた」

カメラを掴んで、あたりを映す。


「まぁ、井之川は各ダンジョンの雑魚を集めただけなんだがな…」

「雑魚は雑魚でも瓦妓の雑魚は豚頭将軍オークジェネラルで荒実の雑魚はキングミノタウロスだからな…」


【さすが底なしダンジョン】

【A級ダンジョンの雑魚は雑魚ではないと思うんだけど…】

【わー、後ろのなんだろうな】

【誰も言わなかったことを…】

消失しかけている魔物モンスターが散らばっている


「今いるところは、井之川ダンジョン中層だよ。」

「ここは基本的に魔物モンスターよりトラップ系が多いんだよね〜」

沙織が説明する後ろで伶於が壁に向かって近づく


「例えば、を押すと…」

伶於が壁の一部分を押す

豚頭将軍オークジェネラルが現れる。」

壁に穴があいて豚頭将軍オークジェネラルが現れる。


【わざわざトラップ引っ掛かるんだ…】

【何か普通の豚頭将軍オークジェネラルと違くない??】


「ブヒィー?!」

豚頭将軍オークジェネラルは驚いて固まっていたが

絲に襲いかかろうとした…


首が、ズレる

「ブヒ?」


「む、この豚頭将軍オークジェネラル…」

伶於が豚頭将軍オークジェネラルに近づく

混沌の博士キメラ狂い獲物ターゲットか…」


「…面倒になったな…」

眉を顰め辺りに気配を巡らす絲


「この様子だと、今いる感じだね……」

沙織が豚頭将軍オークジェネラルを見て話す。


【キメラ狂い…なにそれ】

【まさか混沌の博士じゃないよね!?】

【まって??】

【もちつけよ】

【お前がな】


「レオは前にに会ったことあるの?」

沙織は伶於を心配そうに見た。


「?には会っていない」

意味が分からず首を傾げる。


「……なァ、レオ…その言い方、関連する物には会ったということか?ん?」

絲は伶於に顔を近づけ、ニコリと笑い問い詰める。

笑みで細められた瞳の奥は暗かった。


「……博士の改造人形失敗作

気まずそうに目を伏せる。


「ねぇ……まさか」

沙織の口角が、僅かにひくついた。


「やってない…絲にも沙織にも散々言われたから……」

小さく首を振り、絲と沙織を見る。


「……本音は?」

沙織は目を細めて伶於に聞いた。


「バラしたい……」

伶於はぷいっと顔を背けた。


「はぁ…やってなければいい…でも会ったことは言わなきゃ駄目だろ」

指先で額をつんと突く。

叱る口調とは裏腹に、指の動きはどこか柔らかい。


「レオさぁ……もう」

沙織は呆れたように長い長い溜息をつく、

でもその顔には何故か笑みを浮かべていた。


「……すまない……」

伶於は突かれた額を手で抑え、一瞬目を逸らし絲を見上げる。


【やっぱり博士って、博士って言ったよね!??】

【……あのバケモノいるのか……】

【わぁなんてすてきなほしなのかしら……】

【現実逃避者多いいな……】

【そうでなきゃ、無理だろこの情報量は】


───ドォーン

遠くから轟音が鳴り響き、地が震え、壁を揺らす。


「……なァ、これ」

絲と沙織が目を合わせる。


「やっぱり?」

嫌な予感があって欲しくない沙織は自身が“見た”情報が間違っていて欲しかった。


「あぁ、博士付近に人間がいる」

だかその情報を裏付けするように伶於が同意する。

「約80%博士のターゲットにされてる可能性がある」

博士の傑作人形キメラがいないとはかぎら……」

そこまで言って伶於は表情を動かし、目を見開いた。


とても不味いことになった。

にはいないで欲しいと思っていた気配が存在していた。


「少しスピード上げるぞ」

カメラに向かって声をかける絲。


沙織がカメラを手に持ち、3人ともスピードを上げていく。


【はやっ】

【すげー】

【そういえば博士にターゲットにされるってかなりヤバくない?】

【それはそう】

【というかキメラって言ったよね……】


───パチパチ…


紫電がある一点に向かって走る。

「…みつけた」

視線がに向く。



“影”が何かを求める様に揺らめく。

「あぁ、いる」

首を傾げ鋭い目つきでを見る。


───ボチャン……


水の、堕ちる音がする。

「…負傷者発見」

眉を顰めてを見続ける。


【あ、いた】

【おー、博士だねぇ】

【え、なんかきこえる】

【なにあれ、え】


セイレーンの上半身、グリフィンの羽、の四肢

美しい天使醜い偽物がそこに、いた。




全てが

視界が白く濁る。


───♪¿♪♩♯✧☩☼◁♬〜

聴こえる、声が…聴こえる

不気味な声が、空気を震わせ何かを訴えてくる。


助けて助けて助けてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてにげてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてころすたすけてたすけてたすけてころすたすけてたすけてたすけてたすけてはいじょたすけてたすけてにげてたすけてたすけてころすたすけてころすたすけてたすけてたすけてたすけてにげてたすけてたすけてにげてたすけてたすけてたすけてころすたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてちょうだいちょうだいたすけてにげてたすけてたすけてたすけてもうにげられないたすけてからだをちょうだいころすたすけてきずつけたくないちょうだいたすけてちょうたすけてだいちょうだいちょうだいにげてちょうだいころすちょうだいにげてたすけてちょうだいちょうだいたすけてちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいたすけてにげてたすけてたすけてたすけてたすけてわたしがきずつけるまえにたすけてたすけてたすけてたすけて


息が、つまる。

それ聴こえない。




【なにこれ】

【きもちわるいたすけて】

【なにこれなにこれ】

【みんな大丈夫!?】

【どうしたの!?】

【何事?】

【え】

【やばいもしかして精神汚染】

【やばいじゃん、えちょ、これ基本的に返事できてない人がそうだよね!?】

【やばいかも、同居人がやばい、どうすればいい??!?】

【回復ポーションある奴は遠慮なく割れ!】

【こんな時に法律とか関係ないわ!すまん、勝手に住所調べる】


──雷流五式 崩玉一刀

美しきモノキメラが倒れる。



───ポチャン……

「Blasyi feliz,Curat,惑わされないで、目を醒まして」



声が聞こえる。

呼び覚ます声が…



「絲、沙織」

絲と沙織を呼ぶ伶於。


「あァ、任せろ」

絲は伶於の頭を軽く撫で、口角を上げた。


「もっちろん!」

意識のない冒険者に治癒魔法ヒールをかける。


稲妻が走る


ダンジョンの壁がゆっくりと崩れ、奥から鼻の奥をツンと刺激する薬品の匂いが風に乗って漂ってきた。


「……“スキル 記録”」

伶於は研究室の壁に手を付きスキルを発動する。


「絲、その博士はだ」

「スキルで


「あァ?……だから手応えがねぇのか」

絲が博士分身体の背後に回り双剣がその首目掛けて振るわれる。

博士分身体は嘲笑うような表情をしたが段々と焦り、恐怖の表情が浮かび上がる。

そしてそれは墜ちた。


「ッ!!」

沙織は頭部の痛みで眉を顰める。


「「沙織!」」

2人の声が重なる。


「だいじょぶ……ただの…精、しんかんしょー」

少しふらついている。


「なら私は無効だな」「スキル ・“精神干渉無効化”」

伶於は沙織の頭に手を置きスキルを発動する。


「俺はこの程度なら無事だ」





がこちらを視る。

黒く濁った瞳を持つを通してわたしを見つめる。


わたしはに……

「目を醒まして!」

誰かがわたしを呼んでいる。

でもわたしはに会わなければ……

「おい!」

何の音……?


───パリン……


何かが割れる音がする


視界が黒く、染まった…


「早く!病院に運べ!」




【……もうダウンしてる人居ないよね】

【大丈夫なはずだ】

【一応スピーカー越しでも治癒魔法って使えるんだ……】

【確かに】

【なにこれ、僕が講座受けてる間になんでこんなことになってるの……】


「Ah… se–liin’thaa–ra… e–vieeel…」

彼女セイレーンが涙を流す。

けれど彼女は笑っていた。

「Sorelia……」

黒く濁っていた瞳に光が宿る。

たった一瞬でもそれは全てを魅了するそのものに戻れた。


「あぁ、そうだ君はもう解放された…」

伶於は軽く彼女の枯れた美しかった髪を撫でる。


彼女は柔らかな暖まりのある歌を静かに口ずさんだ。それは過去を懐かしむ様な優しくて哀しい旋律だった。

満足そうに彼女はゆっくりと瞳を閉じていった。

まるで湖のような美しい瞳はもう何も写しはしてくれない。


「もう、大丈夫だよ」

沙織は優しい音色で彼女の未来を祈った。


「……俺に感謝されても少し困るぞ……」

絲は沙織と伶於の頭を慰めるように軽く撫でた。


彼女の体は少しづつ砕けていった。

薄い群青色のキラキラ光る灰だけが遺されていた。




「……なァ、レオ」

絲は視線をじっと向け、伶於の手元の動きを追いながら、静かに尋ねた。


「む? どうかしたのか?」

伶於は灰をかき集めている


「……何してるの?レオ」

沙織がいいづらそうにしているの代わりに言った。


「研究に使える!“鑑定眼”がそう言ってる!」

伶於は目を輝かせながら2人を見て言った。


「……そうか」

「そう……」

もはや何も言えない2人


【……なんか濃ゆい】

【やめろやめろ、現実見るな】

【これは見なきゃダメだろ】

【うぁ……これは政府とギルドの方々の胃がやばくなりそう】

【現在進行形で死んでるが????】

【ア゙ア゙ア゙仕事の癒しとして見ようと思ってただけなのに……なんで仕事ふえるの……】

【HAHAHAはァ】

【なんかそれっぽい方々が出没してるね……】

【うん、なんかお疲れ様です……】

【……わぁ、俺の部署もやばくなりそ】

【何それ、え?ただの灰だよね?それドロップ品なの???】

【見たってなに?ねぇ見たって何????】


「レオ、うちドロップ品をギルドに売りに行ってくるから兄さんと帰ってね」

ドロップ品を集めながら伶於に言う。


「わかった…ぁコレとそれは持っていくな」

よく分からないドロップ品をいくつか指差す。


「りょーかい」

ひと足先にダンジョンを出ていく。


「何に使うんだ?」

伶於の頭を撫でながら聞く。


「薬」

撫でられて目を細めながら答えている。


「薬かァ……」

何かを思い出し遠い目をしている。


【……薬と書いてヤクと読む……?】

【やめろやめろ、変な想像しちまったじゃねぇか】

【えっ、どんな想像だよw】

【薬って何に使うの??】


「ポーションや毒になる」

「かなり面白いぞ」

瞳を輝かせている。

「灰はの為だ、ただそれだけ」

灰の入った瓶を軽く撫でる。


【モノガタリ?何それ】

【また新情報出ちゃったよ……】

【徹夜確定じゃねえか……】

【お疲れ様です……】


「まぁなんというかここ数ヶ月は出ないと思うぞ」

「あれだ、月ボスと一緒だ」


【えぇ、それでいいの……】

【ゲームじゃん……】

【(白目)】

【何だろうな……この言いようが無い感情は……】


「でも他の博士分身体は出るぞ?」

淡い希望を壊すように言ってしまった。


【え】

【え】

【え】


「言っただろ?あれは分身体だと」

首を傾げる。


「まぁ、そういうことだ」

「じゃあ」

そんな伶於を口元を緩ませながら見つめ、配信を切った。

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