49.エルフ種とアマチアス
エルフの女アニーを連れて、レオとスズは当初の目的であるスズの隠れ家に向かい郊外に出た。
スズ曰く、「隠れ家の場所? 結界みたいなもんがあるからアニーは近づけんからへーきへーき」とのことである。レオも「まあスズが言うならそうだろう」と何も考えずスズの意見に同意した。
街を離れ、森に入り山へ向かう道中。
「なあレオっち。うちらを囲もうと動いとる奴らおるみたいやけど」
スズが怪しい動きをしている連中の動向をスキルで掴む。まだ相当に離れているにも拘わらずである。
「野盗?」
「動き的にちゃう気がするなあ。ここを根城にしとる、にしては動きが悪いし冒険者っぽいわ。捲く?」
「そいつらが狙ってきてる理由が知りたいかなあ。何人?」
「五人パーティーやな。うちらを捕捉しとるシーフが先行しとって前衛二人に魔法職一人、その後衛にまた前衛職が一人って感じで動いとるな。後衛職を疎かにせんと、ちゃーんと基本を守っとる野盗なんかがせーへん動きやね」
「……まともなパーティーが『白獅子』を狙うか? んー。あ、アニーさんか」
「わ、私ですか」
「アマスチアでエルフの死体は高額で買い取られるらしいから冒険者なら狙う」
「あー……。それで私達に対してヒト族の方々殺意高いんですか……」
「ま、狙いがエルフの死体じゃなくて『白獅子』の可能性もあるけど、それにしちゃ相手が普通の冒険者過ぎるっぽいし。っていうか俺達が一緒にいることを知ってなのか知らないのか。うん、確認したいかな。スズ、俺が迎え撃つ丁度良さげな場所ある?」
そもそも何故、自分達を捕捉出来ているのだろうかとレオも左眼の魔眼を使ってみる。アニーのマントにアニーのものではない魔力が付いているのを確認する。シーフのマーキングかとレオが当たりをつけた。
「んー、あっちやな。ごちゃごちゃしとる場所のほうがええやろ」
「助かる。あ、そうだアニーさん。マント貸して。フード被って相手の様子伺うから」
「え、あ、はい。分かりました」
何故付けられたか、ということはレオは黙っておくことにした。
◆
「なんだ?」
エルフのマントに付けていたマーキングを頼りに、スキルによる知覚でレオ達を追っていた冒険者達だったが、鬱蒼と生い茂る雑木林の中に佇むフードを深く被る一人の男を見つけ困惑した。
「エルフの女って話だったろ?」
「仲間と合流したってことだろ。エルフの死体が増える。美味しい話じゃねえか」
「話は後だ。やるぞ」
リーダー格の冒険者らしいマントと軽装備を身に付けた男が剣を抜いた。続いて共に先行していた同じく前衛の男も剣を抜く。
「『戦闘準備』!」
戦士系自己強化スキルを使い、二人が所狭しと生える木々を避けながらレオに向かって駆け出した。魔導士の女は杖を構え、その前にシーフと戦士の男が守るように立つ。
レオが飛んだ。木を蹴り飛ばして次の木へ飛び、更に次の木を蹴り加速し空中を天狗の如く戦士二人の頭上を飛び回った。
「なんだこいつ!?」
「冷静になれ、合わせろ!」
戦士の攻撃スキルの必要条件は構えることとスキルを叫ぶこと。つまり狙いを定めタイミングを合わせなければならない。二人は背を合わせ構えを取り後方の死角を消した。飛び回ると言っても相手は遠距離からの攻撃を行ってこないのであれば、接近時に合わせるまでと判断したのである。
シーフが空中を高速機動するレオに向けナイフを投げる。投擲スキルを用いられたナイフは高速で飛び若干の追尾を見せるもレオの機動に付いていく程ではない。だが構わずシーフはナイフを右へ左へ連投する。
初投にてナイフをレオに意識させ、連投にてレオの機動を限定していく。
「今だ!」
「『鎌鼬』!」
シーフにより狙いやすい位置に誘導されたレオに向け風魔導による風の刃が複数放たれた。木々を切り裂きマントを切り裂く。自由を奪われ落下した場所にいつの間にか待ち構えていた戦士の二人。
「『大切断』!!」
同時に放たれた戦士系スキルがマントを縦に切り裂いた。
マントのみである。
「いいパーティーだ」
戦士二人の頭上から拍手と共に無傷のレオの言葉が響いた。
「エルフじゃない……。白髪……まさか『白獅子』!?」
「おいおい、まさか天下の『白獅子』様がエルフと組んだってのか? 冗談キツいぜ」
「ホスグルブの『五龍』の一角がエルフと組む。まさかアマチアスを再び戦乱の時代に戻すつもりか!」
いやいや飛躍し過ぎだろとレオは思う。
「どうする!?」
「……『白獅子』は一人では無能。仲間がいないと並以下と聞く。なら今なら俺達でやれる! 『白獅子』に恨みを持つ奴になら、『白獅子』の死体はエルフの死体より高く売れる!」
「そりゃそうだ!」
アマチアスでそう呼ばれていると初めて聞いたレオの頭にいくつかの疑問が出たが、ともかく戦闘は続行らしい。彼らの言うことは間違ってもいない。戦闘職に自己強化スキルを使われてしまえば身体能力は間違いなく劣るし、スキル自体がそもそも使えないのだから。
「ま、敵ならしゃーないな」
「させない! 『鎌鼬』!」
魔導士が再び風魔導を放つ。レオが飛び回るつもりだった木々を先に切り倒しレオの機動力を奪った。そしてレオが登っていた木も倒されレオも地に降りる。そこに待ち構えていた二人。
「『大せ……!?』」
一人が『大切断』を使う為に上段に剣を構えた瞬間、レオが蹴り飛ばした石が一人の顎を砕いた。
「『大切断』、便利だよね。上段に構えて思いっきり振り下ろすだけ。こんな雑木林の中なら、そりゃそれを選択するわ」
レオは顎を砕かれた男の背後に素早く回り込み、膝裏を蹴り跪かせて上に構えていた剣を奪い剣の柄で頭部を強打、逆手に持ち直しそのまま背に深く突き刺した。
「『大切断』!」
「おっと」
レオの背に向け、仲間もろとも真っ二つになる威力がある『大切断』を躊躇無くリーダー格の男が放つ。が、レオは剣を突き刺した男の襟首を掴みスキル発動直前にリーダー格の男にぶつけて体勢を崩し、ただの上段斬りとなった剣を横に転がりながら避けた。
「動きに無駄が一切ない……! こいつ本当にスキル使ってないのか!?」
「どーも無能で有名な『白獅子』です」
「クソが! ……なにっ!?」
自身にぶつけられた仲間を放り投げ、レオに向け剣を構えようとしたリーダー格の男がバランスを崩した。仲間の男と自身のマントが、いつの間にかレオが拾っていたシーフのナイフによって共に地面に固定されていたのだ。
体勢を崩したその瞬間、レオの投げたナイフがブスブスっと軽い音と共にナイフがリーダー格の男の胸に突き刺さった。
「ぐっ……。貴様……それでも戦士……か」
「死ななきゃなんでもいいんだよ戦いなんて」
レオが残りの人間に眼を向ける。二人がやられたのを見て逃走を開始していた。
「判断は合ってる。でも悪いね」
逃がせば「エルフ種と『白獅子』が手を組んだ」と間違いなく噂が回る。それはどうでも良いのだが、仲間に危険が及ぶ可能性が高いというのはレオにとって見逃せない。
レオが再び地を蹴り、木を蹴り木々の間を跳んだ。あっという間に追いつきすれ違いざまにまだ持っていたシーフのナイフで戦士の男の首を切り裂いた。戦士の男は傷口を押さえるも吹き出す鮮血が収まらず情けない悲鳴を上げながらへたり込んだ。
それを見た魔導士が急いで腰に巻いたベルトからポーションを引き抜こうとしたが、アイテムを付けていたはずのベルトがない。
「なんで!?」
「これをお探し?」
レオがベルトを片手に持っていた。戦士職の男の首を斬り付けた勢いのまま魔導士を斬り付けようとしたが、勢いが足りず動脈部に刃が届きそうになかったので代わりにアイテムを付けてあるベルトを斬った。魔導士に見せつけた後に、レオは自分の後方にベルトを雑に投げた。
「ま、後衛職がアイテム持ちなのは基本よね」
「……化け物め!」
「一般人なんだが?」
「お前のような一般人がいるか!」
杖を構えた魔導士に向けて、すでに気を失っていた戦士の男を放り投げる。
「えっ……」
「甘いね」
それに怯んでしまった魔導士を、戦士の男ごとレオは自身の剣で串刺しにした。
「なん……で……あなた……はエルフなんか……と……」
「俺は俺の敵と戦っただけなんだけどね」
串刺しにした剣はそのままにし、戦士の男から剣を奪ったレオは少し離れた茂みに向けて駆け出し剣をまた深く突き刺した。血が迸る。その茂みに潜んでいたシーフがうごめく。
「な、なぜ分かった」
「擬態は上手かった。気配も無かった。でもさっきまでそこに茂みなかったし」
「クソ……」
戦闘中にそこまで周りが見えている奴なんていない、と目で語りながらシーフは息絶えた。
「ほんとは魔力が見えただけなんだ。運が悪かったね」
とレオは左眼を赤く輝かせながら呟いた。
「思ってたより、この国とエルフの関係は根深いんだな」
マジクをこの国に連れてきたことは無かったが、レオは心底連れてこなくて良かったと改めて思ったのだった。そして。
「つーかこれ、売りやがったなヒョットコの野郎」
レオは馬鹿にしたような顔のヒョットコを思い浮かべていた。
自分に自信がない最強パーティーメンバーが辞めたがる件 白石基山 @shiraishi1207
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。自分に自信がない最強パーティーメンバーが辞めたがる件の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます