47.南へ
〜前回までのあらすじ!〜
何にも解決してません! レオが攫われて帰ってきただけです! 以上!
シルはリィナ、アークとの攻防の後、力の制御が出来なくなっていた。
どさくさ紛れで遠隔状態回復という荒技を手に入れたは良いものの、自身から溢れ出る魔力が以前より明らかに強大となってしまったのだ。いつもならリィナを頼りにするところだが、リィナがシルに繋いでいたテレパシーみたいなものが途切れ連絡もつかずシルは途方に暮れていた。
一番の問題はレオに付与する魔導が安定しないことだ。付与効果は更に強くなったものの、持続時間が一日の時もあれば数秒で切れてしまう時もある。
話を聞きつけたクルスがシルに、その強力過ぎる魔力のコントロールを教えると名乗り出た。
レオも最適解だろうなと思ったが問題が発生する。二人とも完全に感覚派で、なんとなーく力を使っていた為に説明が出来ないのだ。レオはそのうち二人の感覚が噛み合うのを期待することにした。
そんな中、スズからレオに一つ提案が出た。
アマチアスにある、スズの倉庫に行きたいと。アマチアスはホスグルブの南に位置する複雑な事情を内包する国。更に南に位置する魔国との国境に防衛壁を構える国だ。そんなアマチアスにある、スズの隠れ家的なその倉庫の中にはいつかは使えるかも? と用途不明の魔道具も適当に放り込んであるのだ。
つまり、ロサリアの女体化をどうにか出来そうなアイテムがないか捜しに行こうということである。
ちなみにロサリアとレイラは現在パーティーハウスには不在。二人も自分達の情報ルートからセルキスを追ってみるとのこと。レイラは格闘の師匠筋や一人旅をしていた時の独自の情報ルートがあるらしい。ロサリアは……あの人、正体隠さなきゃいけないから色々無理じゃないかなあと『白獅子』面々は思ったが口には出さなかった。
「なんかよう盛り上がっとるなあ」
シルとクルスはパーティーハウスで魔力コントロールの練習。何かあった時の為にマジクにシルの護衛を任せてレオとスズの二人旅である。マジクの張り切っていた様子を見たレオは「最悪、街消えるかもな」と思ったが、何もなければ問題無いから良しとすることにした。
「ギャラリーだらけだな」
という訳で現在二人で国境を越えて南下中。国境の付近の街アヤガムクにて人だかりを見つけた二人は興味を持ち覗いてみる。
「さあ! 次のお客さんはいないのかい! この砂時計が落ちるまでならいくらでも殴りかかっていいんだよ!」
「よし、次は俺だ!」
金を払い、拳に保護用のグローブを付けて男が殴り掛かる。それをひょいひょいっと器用に避ける。
「殴られ屋だ。珍しい……ってヒョットコじゃん」
「ほんまや、ひっさしぶりに見たわ。レオっちの友達やん」
ひょっとこのお面そのままな顔の殴られ屋の男、ヒョットコ。レオがまだ一人で冒険者をやっていた時の悪友みたいな男である。その顔が丁度、普通にしていても煽っているようなむかつく顔なので、殴りたい衝動を煽るのにピッタリなのである。
「ほらほらーもう時間ないよー」
「くっ。むかつく顔しやがって!」
ひょいひょいひょいひょいっと器用に避ける避ける避ける避ける。客の男が肩で息をし出して体力が切れたところで時間切れである。
「まいどありー。ほら、もう次はいないのかい?」
「なら俺がやろうか?」
「へへ、どうぞどうぞ……ってレオじゃねえか。冗談キツいぜ」
「久しぶりじゃん。元気に生きてるか?」
「おう、ボチボチだぜ。そっちは元気に英雄やってんじゃんか」
「それこそ冗談キツいぜ。英雄ってガラじゃないのは知ってるだろうに」
「へっへっへ。そういうことにしといてやるよ」
レオとヒョットコは嬉しそうに握手を交わした。そんな二人をスズは笑顔で眺めていた。レオの旧友は、今のレオのパーティーハウスを知ってはいても尋ねてこない。『白獅子』とダチにしちゃ脛に傷が有り過ぎる、と皆が口を揃えて言うのだ。出世したレオを気遣ってのことだったがレオにしてみればそれこそ余計なお世話である。
「あれ『白獅子』じゃない?」
「ほんとだ。ホスグルブの英雄だ」
「……っと、ギャラリーがざわつき始めたな。場所変えるか」
「だな」
ヒョットコは荷物をさっさと片付けてレオとスズにこっちだと促し、二人はヒョットコに付いていく。
「しっかし、相変わらず人気者だなー」
「気にしないことにしてる」
「それが出来るメンタル、大したもんよ」
「そうかな?」
「そういうもんよ」
レオとヒョットコの会話を少し後ろで聞きながら付いてきていたスズの耳に、激しい息づかいと駆け足の音が聞こえた。
「レオっち、そこの角から人来るで」
「ん?」
ヒョットコとの話に夢中で、スズが指摘したにも拘わらず建物の角から飛び出してきたローブの人物とレオがぶつかってしまった。
「きゃっ」
可愛らしい悲鳴を上げ倒れそうになった深く被ったフードから茶色のウェーブ掛かった長髪が垂れるローブの女性を見たレオは、フードの中に一瞬見えた長耳から咄嗟にマジクを連想して倒れないよう腰を支えた。
「大丈夫か?」
「も……もう……駄目……」
「おいおい、本当に大丈夫か?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「え、ちょ待」
接吻。
不意打ちの接吻。
唇と唇の接触。
レオが倒れそうになっている相手の腰を抱いている体勢の為、避ける間もなく繰り出された一撃。
「……は?」
それを見たスズの口から出た絶対零度の疑問符。そして、その場から即座に逃げ出したヒョットコ。
「ん、んっー」
構わずに口吻を、いや明らかに相手の口の中に舌を捻じ込んでいる女性とパニックで固まっているレオ。
「いつまでやっとるかー!」
怒りの表情でレオの襟首を掴んで後ろに引っ張り、レオの顔を相手の顔からスズが引き離した。本当なら叩きたかったところを舌を噛むかも知れないと我慢したのはスズ生来の優しさ故である。
「おう、ウチの前で(好きな男の唇を)盗むとは良い度胸しとるやんかおお!?」
「ご、ごめんなさい、緊急事態で……って、あれ? 魔力、回復してない……?」
凄んだスズに平謝りしながら、自身の両手を見て不思議そうにするローブの女性はレオの顔を見て青ざめた。
「そんな!? 殺すつもりなんてなかったのに!? 本当ですほんの少しだけ魔力を貰うつもりだったんですまさか全部奪ってしまうなんてこんなはずじゃ」
「いや生きてる生きてるから」
レオの顔を見るなり慌てて泣き出した女性にレオは落ち着くように促した。
「せやな、たっくさん堪能しとったもんなーレオっち」
「あ、いや死んでる死んでる」
そしてそれがスズの怒りを更に買ってしまうのであった。なお一発軽く小突いただけでスズは許した。
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