48. 失踪
ぼくの耳学問の「先生」は、
そしてそのひとは、本の話をする相手を、いつも
で、ややこしい話になってしまうのだけれど、その芸人――
たとえ恋をしている相手ではなくても、親しくしているひとに恋人がいることを知ると、少しだけ見る目が変わってきてしまう。
角中さんは、現役の大学生で、夏鈴さんと同じキャンパスで学んでいるというし、お笑いライブで一緒になることもあるらしいし、仲が深まるというのは、ありえなくもない。
ぼくは、
それなのに、ムスコさんは、
「
卯月――というのは、里歩さんの名字だ。
「まだなにも来てないですけど……なにかあったんですか?」
ムスコさんが言うには、昨日、里歩さんは《無噤》に顔を見せなかったのだという。それも、なんの連絡もなく。そこで、家を知っているという源弁慶大納言さん――角中さんが、舞台終わりに訪ねてみたのだけれど、そこにはいなかったらしい。
なにか
だけど、今日の午前中の舞台にも姿を見せなかった。今度は、角中さんだけではなく、ムスコさんたち芸人仲間も、いそうなところを探してみたり、連絡を試してみたりしたが、なんの
「今日の午後から予選なのに、ごめんな。こっちのことは気にしなくていいから、がんばれよ。じゃあまた」
角中さんは、ぼくと里歩さんが、仲がいいことを知っていたけれど、連絡先は交換していなかったため、ムスコさんに電話をかけてもらったとのこと。交友関係の広い里歩さん。しかしだれも里歩さんの
ムスコさんは「気にしなくていい」と言うけれど、ぼくの脳裏によぎるのは、あの約束のことだ。今回のことは、きっと、あの件とかかわりあいがあるに違いない。
ぼくは震える手で里歩さんの連絡先を探しだし、電話をかけた。なかなか繋がらなかった。もう手遅れになっているんじゃないか。そんな不安に
「里歩さん? ムスコさんから事情を聞いて連絡しました。なにかあったんですか?」
出し抜けにそう
音符のない五線譜の上を
「いま、どこにいるか、教えてくれませんか?」
ぼくは冷静を
「…………」
「もし差し支えがあるのなら、だれにも言いません。ぼくにだけ、教えてくださると――」
「家」
「家……ですか?」
「うん、わたしの家」
「でも、角中さんが行ったときには……」
「無視した。電気を消して、押入れに……押し入れのなかに、ずっといる」
例のストーカーが、なにかしでかしたのだろうか。だとしたら、ムスコさんに連絡をして、警察にまで走ってもらわないと――と思ったら、里歩さんは、ぼくの想像とは違う「解答」を震えた声で伝えてきた。
「わたし、もうだれも信じられなくなった。どんなに親しいひとでも、わたしの敵のように見える。昨日の朝、ふと、そう思ってしまって……」
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