第14話 正義の優しさの向こう側へ
(おかしい………なぜじゃ………なぜ、我は生きておる?)
サーリャは全力を出しており、必死に抗っている。
一見互角の攻防だが、サーリャには余裕がない。
敵の技量が余りにも上故に、サーリャからは敵の技量が見えない。
しかし、なんとなくわかる。
こいつは全力を出しているフリをしている。
その演技が美味すぎる故に、サーリャの感覚が麻痺している。
しかし、そんな中でも白い床や壁、そこに2人の血で芸術的な壁がが出来上がっている。
そんな芸当が奇跡的に出来上がるだろうか?
四方の壁に血の四聖獣画、床にはサーリャの絵が描かれている。
「はぁ…はぁ…、まさか………」
同じ顔をしたサーリャ?から笑みが溢れる。
「あっはっはっはっは、どう? あなたにそっくりじゃない?」
気がつけば、ボロボロの自分に気がつく、そう、互角だと感じていた。
負傷も軽傷だと勘違いしていた。
心の底で初めて完全な敗北を味合わせられてしまった。
サーリャは、その場に大の字になって倒れてしまう。
「我を殺すか………ふふ、好きにせよ………」
サーリャ?は喜んで答える。
「そうさせてもらおう………」
サーリャは刃だけを隠し持っている。
しかし、それを見きれない相手とは思えない。
サーリャ?がサーリャの首を掴み上げる。
絶体絶命の中で不意打ちを試みたが、サーリャ?はそれを許さない。
「あっはっは、素敵なアプローチだね!!」
最後の抵抗も虚しく、剣で刃は弾かれてしまう。
「大好き………また遊ぼうね………」
決着が着く刻、血しぶきが舞うと同時に、アテリオスが目覚める。
「くッ!!? さ、サーリャ………!!」
激痛の中でなんとか立ち上がり、偽物のサーリャを追いかける。
手がかりは禍々しい気、それを辿るだけ、なんでもない300mの距離が千里にも感じられた。
「さ、サーリャ………い、生きているのか………」
扉を開くと最悪の光景が飛び込んでくる。
「な、なんということだ………」
白い部屋は、赤い芸術的壁画となり、死体が飾られているかのようである。
「あれ? 生きてたのか?」
そこに最悪の声が聞こえた。
「貴様~~~ッ!!」
アテリオスは感情というものを封じ込めてきた。
ラバルドアが葬られてから、穏やかな精神を取り戻していた。
それも、サーリャたちのおかげだろう。
つまり、アテリオスにとって、サーリャは命の恩人、それを殺した狂気の殺人者が目の前に現れた。
しかも、尊敬する師匠も殺している。
「許さねぇ………殺してやる!!」
サーリャ?は持ってきたカメラでサーリャのアートを保存した。
「どうだい? 僕の芸術、君にもわかると嬉しいな~。」
そう言うと、そこにはすべての被害者が美しい死を遂げている。
しかし、飛び込んでくるのはかつて、師匠だった男の死体、それを目の当たりにしたとき、アテリオスが激情する。
「うわぁああぁぁぁあああああ!!!!」
アテリオスの髪が白く染まる。
それを見たサーリャ?が感想を思わず漏らす。
「う、美しい………」
誰かのために、戦い、己のみを犠牲にしてきた。
そんな彼が、欲望を解き放つ、その押さえつけられてきた殺戮衝動が解き放た。
アテリオスの動きに、一切の迷いがない。
サーリャ?が華麗に受け流して反撃を決めるも受け流す前に、腕を切られてしまう。
「………え!?」
サーリャ?は己が切られたことに気付かず、反撃をしていた。
お互いに斬撃は浅かった。
だが、その鋭い技の切れ、そして、力強さにサーリャ?は驚いてしまう。
サーリャ?の目つきが変わった。
へらへらしていた表情は存在しない。
アテリオスを強敵と認めたのだ。
数合打ち合うも鮮やかで芸術的な動きに暴力を踊らせる。
アテリオスの猛攻を見事に捌きながら攻撃している。
「がはッ!!?」
しかし、サーリャ?も受けるのが精一杯、息が乱れている。
「はぁ………はぁ………」
アテリオスがブチギレる。
「くっそ~~~!!!」
落ちていたサーリャの剣を手に取り、二刀流!!
死に物狂いで激しく攻め立てた。
流石のサーリャ?も二刀流は捌ききれなかった。
「ぐッ!!?」
しかし、サーリャ?が剣を片手で逆手に持ち、防御に専念、空いた片手で相手の斬撃を受け流した。
サーリャ?の手が赤く染まる中で、致命傷を避けながらも見事に剣を捌き、アテリオスに蹴りを数発、血の滑りで斬撃を加速させ、大ぶりにし、己の血を相手の目に飛ばす。
「ぐはッ!!?」
蹴りが足首を捉えた。
カーフキックが綺麗に決まったのである。
アテリオスが悶絶しながらも地べたに這いつくばる中で二刀流はサーリャ?を襲う。
サーリャ?は跳躍してアテリオスから距離を取った。
「―――ッ!!?」
己の手が尋常でないほどに切り刻まれている。
「この私をここまで追い詰めるとは………流石に負傷が激しいので、三十六計、逃げるにしかず………あなたとの因縁はいずれ断ち切りましょう。」
なんとか退けることに成功したアテリオスだが、サーリャの方へと歩み寄る。
「さ、サーリャ………死んだのか………?」
アテリオスがなんとか這いつくばって前進するも返事は返ってこない。
そう思っていた。
「ふふッ、奴は我を生かした。貴様が来ることに感づいて、トドメの攻撃が反れたのじゃ………感謝するぞ………」
そう言って、サーリャはアテリオスの足を見るに骨に異常はなかった。
アテリオスの猛攻が相手の蹴りを鈍らせたのである。
サーリャはなんとかして、アテリオスの応急処置を済ませた。
その後で、気絶した。
目が覚めれば、アテリオスが火を炊いて横に鍋が置かれていた。
運良く亀が通ったのだろう。
臭みはあるがとても美味しかった。
酷い負傷を負ったが故に、たくさん食べることもできず、すぐに寝てしまった。
目覚めれば、アテリオスは回復していた。
サーリャも綺麗に切り傷が治っていた。
「フン、鮮やかな芸当故に、治りも早いか………どこまでもにくい奴め………」
アテリオスはサーリャの言葉に同感した。
「とりあえず、今は休息を取ろう。俺が見張る。そろそろ奴も回復しただろう。」
そういうと、サーリャはそれを無視して狩りに出かけた。
「今は何でもいいから食べなければならない。葡萄はしばらく我慢じゃな………」
そう言って、野兎を捕まえて捌き、鍋に入れた。
兎の肉はとても柔らかくおいしい。
「ありがたい………食べやすかったよ。」
アテリオスとサーリャは空腹を満たした。
己の臭い体を清潔にし、コンディションはまずまずとなる。
アテリオスが相談してくる。
「やつが攻めてこないが姿をころころと変える。正直、いつ襲ってくるかも予想がつかない。どうする?」
その懸念に、サーリャは答えた。
「変幻自在、神出鬼没、そんな奴を見つける方法が………我にはあるぞ?」
アテリオスは『聞くだけ無駄か』とため息を付いていた。
「………え?」
サーリャは指を指した。
「あの方向に奴はいる。なぜわかると思う?」
アテリオスはその方向を向く。
しかし、そんな人影はどこにもない。
サーリャはきょとんとしてアテリオスに問う。
「お主、本当にわからぬのか?」
アテリオスは正直に頷いた。
「つまり、お主の功績じゃな!!」
そう言って、アテリオスを手招きして指先が示す方向へと向かっていった。
するとそこにたどり着いたとき、全てを理解したのである。
「なるほど、流石はサーリャだ………」
サーリャの捜索術とは一体、何だったのか?
そして、サーリャとサーリャ?の決着を果たすことはできるのだろうか?
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