第17話 最初で最後のデート①

 

 クリスマス当日を迎えた。私はバイトに駆り出されていた。しかも十八時までのフルタイムのバイト。


 「サンタさん!」


 スーパーのバイトはみんなサンタ帽子をかぶっているため、よく小さい子供たちにサンタさんだ! とよく指をさされる。

 それにしても今日は休日のクリスマスだからか、昼間から客が絶えない。品出しもなかなかに切羽詰まった状況だ。

 私がため息混じりに野菜の箱を開けていると、とんとんと後ろから軽く肩を叩かれた。


 「どうかしましたか〜?」

 

 私は手慣れた営業スマイルで後ろを振り返る。

 

 「————し・み・ず・さ・ん」

 

 私は営業スマイルを使って振り返ったことをちょっと後悔した。

 

 「ぅえ!? 朝一さん……」


 朝一さんが仕事着姿の私の背後に立っていたのだ。


 「そんな笑顔もできるんだね清水さん! ってかこんなところでバイトしてたんだ」

 

 「そうですけど……何か御用ですか?」


 「特にないよ♡ お昼ご飯買いに来ただけ」


 特に意味もないのに語尾にハートをつけないで欲しい。

 

 「用事がないなら、お昼ご飯でもさっさと買ってお帰りください、こっちは仕事中なんです!」


 やってしまった。全く関係ない朝一さんにバイトの鬱憤をぶつけてしまった。


 「えーっ、せっかく今夜はデートなのに〜」


 「なっ……!!」


 その発言に私の顔と握り拳がじわじわと熱くなっていく。

 周りの照りつけるような視線も気になってきた。そりゃそうだ。店員と客がこんな会話してたら大抵の人はじっと見てしまうだろう。


 「じゃあ、清水さん、バイト頑張ってね」

 

 そう言って流れるように朝一さんは私のかぶったサンタ帽子にチュッとキスを落とした。


 「………………は!?」

 

 それからの数時間は他のバイトの人や、お客さんからの視線がだいぶ痛かった。

 

  ◇ ◇ ◇


 十八時、ようやくフルタイムのバイトが終わった。半日立ちっぱなしで足が棒のようになっている。

 それでも、今日で結構稼げたんじゃないかなと、来月の給料のことを考えて少し心が前向きになる。

 バイトの仕事着のエプロンをハンガーにかけて、タイムカードを押していつも通り寒い従業員出入口から外に出る。

 ガチャンとドアが閉まる。

 店の外はもうすでに真っ暗で、街灯の灯りが点々と道沿いに灯っている。

 でも、いつもと少し違って冷たそうな手でスマホを握る朝一さんがそこにはいた。


 「お、バイト終わったみたいだね」

 

 スマホを持った手をひらひら振って、朝一さんは私に声をかける。

 

 「まさか……ずっとここで待ってたんですか?」

 

 「うん! 寒かったけど、だって清水さんとすれ違ったら嫌じゃん?」


 ずっと外で待っていたであろう朝一さんの手の指先は、氷水に突っ込んだかのような痛々しいくらいの赤い肌色になっていた。ってかなんで朝一さん、従業員出入り口の場所知ってるんだろう。

 

 「はぁ……お店の中で待っててくれれば迎えに行ったのに……」

 

 「ん?清水さんなんか言った?」


 前を行く朝一さんがこっちに振り返る。

 

 「なんでもないです!」


 「うん、じゃあ行こっか!」


 そう言って朝一さんは冷たい手で私の手を握った。

 

 「え……? どこに?」


 私が訊ねると朝一さんは当然のように、私の手を引いて笑顔で言った。

 

 「駅前のイルミネーション! 見にいくんでしょ!」

 

 「え、ちょ、今からですかぁぁ〜〜〜!?」


 今日はデートだからって気合い入れようって思っていたのも束の間、私は仕事終わりのジーパンに、古いコートという服装のまま、ろくなメイクもせずに、夜の駅前に向かって二人で駆け出した。

 これで私たちは最初で最後のデートに、一歩足を踏み出した。

 これが二人にとって本当に最後でも、正真正銘人生の一歩だと思いながら。


————————————次回「最初で最後のデート②」


※次回タイトルは変わる可能性があります…ご了承ください


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