第5話 一位陥落(沙月編)

 恋人を作るために、いろいろな男に交際してやろうかといった。沙月はエリート、相手はポンコツなので、上から目線でちょうどいい。


 結果は全滅。誰一人とて、恋人になりたいというものはいなかった。見た目は完璧、頭脳明晰の女のどこに不満を持つというのか。何のとりえのない、男たちのひがみとしか考えられなかった。


 沙月の告白ラッシュは、学校内に瞬く間に広がっていく。男たちからは距離を取られ、女たちからは憐みの目を向けられるようになった。天よりすべてを与えられたものにとって、耐えがたい屈辱を味わっている。


 隆三の姿を発見。沙月と交際していたときは一人だった男は、五人の男女と楽しくおしゃべりをしていた。友達すら作れないかわいそうな男は、別人のようにキラキラと輝いている。


 男の恋愛感情は、長期に残り続けるといわれている。前回はあんな言い方だったけど、好きという思いはあるはず。沙月は一人になった瞬間を狙い、もう一度告白しようと考えるも、頭の中で打ち消す。エリートから二度もお願いするなんて、プライドが許さなかった。


 中間テストの結果が、廊下に張り出されていた。一位と分かりきっているので、順位の確認すらしなかった。落ちこぼればかりの学校に、沙月にかなう脳を持つ人間などいるわけがない。三流の頭、一流の頭は根本が異なる。沙月は教科書を一度見ただけで、三カ月以上は内容を記憶できる脳を持っている。


 沙月の耳の中に、絶対にありえない言葉が聞こえた。


「早希、今回トップじゃないか。すごいぞ」


「ありがとう。今回はたまたまだよ」


 沙月は鬼さながらの形相で、テストの順位を確認する。一位には井本早希の名前が記されていた。点数は8教科で750点だった。


 沙月はこれまで、全教科で100点満点を取っていた。今回についても、それは変わっていないはず。それなのにどうして、1位から転落するのか。


 40くらいの中背の担任が目の前に現れる。沙月はすぐに近づいていくと、理由を問いただす。

 

「私の名前はどこにいったんですか?」


 中背の担任はあくびをしたあと、


「おまえの名前はここにあるだろ」


 と指さす。沙月の得点は700点となっていた。


「私は全教科、100点のはずですが・・・・・・」


 教師は大きな欠伸をする。 


「数学Bのテストにおいて、名前を書き忘れていたらしい。当然のことだが、0点として処理されている」


 名前を書き忘れるという、初歩的なミスを犯した。いいや、そんなはずはない。教師もしくは生徒に名前を消されたのだ。絶対に犯人を探し当てて、徹底的に追い詰めてやるんだから。


 

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