シェルター商法

「この鎧を着れば、龍の息吹など赤子のくしゃみ同然です」


商人は街行く人らに、そんな謳い文句を述べてみせた。


「この剣であれば、龍の鱗など熟れたキウイも同然です」


「この盾は、龍の爪を逆にへし折ります。爪楊枝のようにね」


その商人はそこそこ儲かっているようだ。腕自慢の強者たちが、こぞって道具を買い揃え、我こそはと龍の住まう山へと向かう。


「ほら! ご覧ください!」


商人が指さす先には、龍が馬車で運ばれていく、まさにその最中の粛々とした凱旋があった。


皆一目散に、我先にと冒険へと出かけていった。



「ふぅ」


一仕事終えた商人は、裏路地で一服していた。

そこに、先ほどの凱旋を率いる勇者が現れた。


「これはどうも。今月分です」


商人は金貨百枚入りの小袋を手渡した。


「ありがとう」


勇者は礼を言い、去っていく。

背中越しに、商人に言葉をかけた。


「あの勇者達から、クレームは来ないんですか?」

「いやね、思いついたんですよ。龍の息吹で平気な家ってのを売ってる商人に”平気かい”って聞いたら、死人はクレームが言えない、って」


それを背中で聞いた勇者は、手を振ってそのまま去っていく。


「じゃ、今月分です」


勇者はそう言って、龍を討伐した者に金貨30枚入りの小袋を手渡した。


「まいど……こういうの、大丈夫かい?」


討伐者は尋ねた。勇者は口を開いた。


「いやね、思いついたんですよ」

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