異世界フォーマット☆スクリュー

聖☆本井

素晴らしい設計

 小さく、ひもで無数に縛られたような幼児の手が、今にも水晶に触れようとしている。物理的な針が時計回りに動く。教卓、あるいは公演台みたいな台の上に置かれている。職員一人が赤ちゃんを抱きかかえ、補助員二人が左右で見守る。我々監察員は彼らとは一段低いところで、バインダーを惰性に肩掛けながら見ていた。

 水晶が淡く光った。あの小さい手が、水晶を隔ててピンク色に光り始めた。それと同時に、計測の針が動き始めた。ゆっくりと、ゆっくりと。時計の針が一秒一秒を刻むように。


 止まらないな。止まる気配がない。そして、遅い。二十秒程度は経ったろう。まだ100kmnキロマナ。この時点で幼児平均の70kmnは超えている。……針は止まらない。1kmn単位のメモリを、100mn/sくらいのスピードで歩んでいる。

 あまりにも長いから、左右をキョロキョロ見回した。私はまだ二年目のペーペーで、観察員の先輩諸々、笑顔でじっとを見ているようだ。尊敬する。私は毎回、長い長いと愚痴をこぼしそうになる。


 まだ、止まらないのか―――また頭の中で愚痴をつぶやこうとすると、針の進みが緩やかになって、止まり始めてきた。130kmn。バインダーにとじられた監察基準用紙によれば、この子は「B⁺相当(一般魔導レベル)」になるらしい。

 きっと、立派な公務員が関の山になるんだろうな。そう思いながら、監察基準用紙に詳細なマナ総量の記入、第一監察責任を負うチェックをし、私のサインを書いた。右の現場長に渡した。

 左の副長から回ってきた。今すぐ泣きじゃくりそうになっている、あの子の名前が書かれたマナ手帳。開いて、第一回マナ測定の欄を見、相違ないことを確認して、現場長に渡した。


 現場長が部屋の窓口の事務員へ用紙を渡すと、雰囲気も落ち着いて、職員三名に連れられて退出した赤ちゃん。尻目に、次の赤ちゃんを迎える準備をした。測定値をリセットし、水晶を消毒、浄化した。

 ついでに、気になっていることを現場長、あるいは副長に聞いた。どうして、こんなにも針は牛歩なのか。


「昔のはかりはねェ、技術者も育ってなくてねェ、今の形になる前は、真空管で数字を表示してみたり、重量計を改造したような形にしたりしてたのよ。真空管表示はねェ、表示する処理が追い付かず、本来の値じゃない値が表示されて。重量計スタイルはさ、1000kmn以下の赤ちゃんならいいんだけど、超えてみたら―――」

 現場長は生き生きと答えてくれた。うん、うん、と私はことのいきさつを聞く姿勢をとる。

「針のスピードが振り切っちゃって何周目なのか分からなくなることが多くて。『本当は賢者級の赤ちゃんでも、一般人並みのように扱っちゃう』みたいなケースがあったから。今のはかりこそ、針はすっごいゆっくりだけれど、測定の間違いがなくなるから、時間がかかるけれどこれで安定しちゃったんだよねェ。」現場長は言う。


「マナ測定基準法・マナ測定器作成基準項にもありますよね。『マナ測定器は、特定の場合をのぞくが、一般マナ測定所に置かれるもの、規定に従った測定器に限る。』みたいな文章。1000kmn超の赤ちゃんは確か、高等測定所に行くことになるんです。県一つずつでしか建てられてないからここからじゃ都市までは遠くて。紹介状書くのもかったるいし。」副長も言う。


 そうそう、が出たら処理も面倒だしね―――そう談笑に花を咲かせ始めてしまったから、私は聞いてうなずくしかなくなってしまった。私の一年目では、高等送りになった子はいない。地方の測定所は、都市部の測定所と比べて、貴族だったりの血筋が薄いために、あまり特例が出ないらしい。それはそれで、楽でいい。


 マナの除去が終わったことを、水晶表面のマナ濃度を測って確認した。はかりの針も0を指す。

 次の方―――どうぞ―――、赤ちゃんを呼ぶ。扉が開いて、また神妙な顔が来た。

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異世界フォーマット☆スクリュー 聖☆本井 @jinji_peppe

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