第2話 誘拐された?!

「…ん、ん?!」


何処だここ?!


俺は気がつけば全く知らない部屋で、椅子に縛り付けられていた。

何故こうなったのかはわからないが、糸を使えば簡単に逃げられるし、そこまで焦ってはいない。


いや、俺をここに連れてきた奴の正体と目的を知ってからの方がいいな。


部屋は暗くて良く見えないが、極々普通のリビングの様にテレビや机があるのがわかった。


目的がわからん。

俺がとんでもない美少女とかなら誘拐されてもおかしくは無いけど、わざわざアルバイターの男を誘拐って…


「起きた?」

「…!」


背後から声が聞こえた。

声の感じから同年代ぐらいの女性だろう、まさかモテ期が…!


…それは無いな。


「ごめんね、今電気つけるから。」


電気が付いて誘拐犯の姿が見える。


「ワーオ…」


すんごい美人、テレビですら…いや、テレビで見た事がある人だ、少し前にも見た。

縛り付けられている俺の手を握ってくる。


「久しぶり、恭助きょうすけ。」

「あ、うん…」


誘拐犯はあの日からお互いの道を歩み出した幼馴染、須本祐美加すもとゆみかだった。


「あれ?もしかして私のこと忘れちゃった?」

「いや、久しぶりだね。

ゆ、須本すもとさん。」

「昔と同じ、ゆみちゃんって呼んでほしいな。」


おかしい、俺ゆみちゃんって呼んだ覚えないんだけどな。

小学生の頃はゆみかちゃん、中学になってからはゆみかさんって呼んでた気がする。


「呼んでくれないの?」

「あぁ、ゆみちゃんねゆみちゃん!

本当に久しぶりだね、時間ある?よかったら今からご飯行かない?」


眼に光が無い状態でめちゃめちゃ怖い圧が出ており、思わずナンパみたいな話し方になっちゃった。


恭助きょうすけが言うならご飯行ってもいいんだけど、今は外に出られないから私の手作りご飯でもいい?」

「あぁ勿論さ!いやぁ楽しみだなぁ。」


なんだろうか、昔関わってた時はこんなに怖いオーラを出す子じゃ無かったはずなのにな…

俺の必死の媚びが効いたのか、100人いれば100人が惚れてしまう笑顔で抱きついてきた。


ナニがとは言わないが柔らかい。


「…私に魅力ないのかな?」ボソ


ドコを見ながら言ってるんですかね。


熱が冷めた時に一種の悟りを開いたのか、俺は自らの欲を完全に制御する事ができる。

昔の俺だったら間違いなく大変な事になっていた。


「そうだ!

いくつか聞きたい事があるんだけど、いい?」

「もちろんさ。」


昔馴染みと会ったせいか、昔の喋り方に近づいてる気がする。


「なんで迎えに来てくれなかったの?」

「?」


迎えとは?


「私はずっと待ってたのに…」


えっと〜…

ヤバイ、思い出さないと絶対にヤバイことになる!俺の勘がそう言ってる。


というか俺ってそこまで好かれてたのか?

そこそこ仲の良い幼馴染止まりだと思ってたんだけど?!


「あの鑑定の日、恭助も着いてきてくれると思ってた。守るって言ってくれるって…」


答えが出ないところで悩んでても仕方ない、現実をみろ俺。

仮に好かれていた、と考えよう。


「あれから怖かった…

何度もダンジョンに入って、怪我して血だらけの人を治して、少し前まで夜は眠れなかったの。」


まぁ回復系の能力だから、仕方ない感じはするんだけど…


そうか、俺に王子様的な立ち位置を求めていたんだろう…いや、なんか違う気がする、わからん…


「小さい頃に恭助きょうすけが守ってくれるって言ってくれた思い出だけを心の支えにして頑張ったんだよ?

でも恭助は全然きょうすけ来てくれないし、会いにも来てくれないし、そのうち変な男に付き纏われて、私のこと忘れちゃったのかなって思って、もうどうしようかなって思って……」


ん〜、この少し支離滅裂な感じは間違いない。


病んでるわ。


ラノベ系の作品から離れてたこともあって気付くのが遅れてしまった。


「だからね!迎えに来たんだぁ!」


なるほど…


「これから一緒に居てね。」


俺はどうするべきなのだろう。

正直、過去の俺のやらかしが今の須本すもとさんに繋がってしまっているとすれば責任は取らざるを得ない。


責任…俗っぽいけど結婚とか?

だけど須本すもとさんは聖女として、強力な能力者の婚約者が居る。他に責任の取り方としては…


「何も言ってくれないんだね…

まぁいいや、これ見て。」


須本さんは先ほどまでの魅了する笑顔ではなく怪しく笑っている、考え事をしていたら事態が悪化してしまった。


『速報です。』


テレビが付いて、リアルタイムのニュースで速報が流れ始めた。


『日本の聖女である須本祐美加すもとゆみかさんが何者かに誘拐されました。』


はぁ?!


『昨晩から昔の友達に会ってくると家を出てから連絡が取れないとのことです、詳しい情報が入り次第お伝え致します。』


誘拐?!それに昔の友達?

というか待て、誘拐って決めつけるの早いだろ!


「私、恭助きょうすけくんに誘拐されちゃった…」


冤罪生み出そうとしてる、ヤベェェェ!


と、取り敢えず事情を聞き出して説得を…


「えっと…帰りたくはないのか?」

「ない、だって私アイツと結婚したくないんだもん。恭助きょうすけより弱いくせに調子乗ってて本当にキモい。」

「ランキング1位なのにか?」

「昔私を助けてくれた時の動きをアイツが真似できるとは思わない。」


助けたとき、何故かクソ強い魔物が街中に現れたときのことだ。

その魔物は人の言葉も喋ってて何人も能力者がやられた、当時の俺はそれをチャンスとしか思っておらず神様にもらったフル装備で戦った。


体が大人になったのはビビったけど最高に気分が良かったのだけは覚えてる。


戦いの最中、須本すもとさんが逃げ遅れてて助けたときのことを言ってるんだろう。


全力で戦ったのはあの時だけだったけど、今思えばあの状況で気分が良くなるなんて人として終わってるな。


ん?


「待った、なんで俺が戦ったのを知って…」

「まだ小さかったけど、私が恭助きょうすけに気づかないわけないじゃん!」


バレてるわ。

言われて気づいたけど、須本すもとさんとの距離が近づいたのはそれからだったな。


「一緒に過ごしてくれるよね?」


そう言いながらスマホの画面を見せてくる。

どうやって撮ったかはわからないけど、俺が縄に縛られた涙目の須本すもとさんに座ってる画像、それを何処かへと送信するボタンに指を掛けてた。


「あ、あぁ、もちろん。」


俺は折れたのだった。

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