(4)

「え? そんな話、もう少し早く言って下さいよ」

「仕方ないだろ」

 ギルドの情報部員は他人事ひとごとのような表情かおで、そう言った。

 冗談じゃない。

 僕のパーティーとシャロルのパーティーの殺害対象ターゲット合わせて8人が、ある場所に集る事が判った。

 この都市まちの名士一家の結婚式だ。

 しかし……冒険者ギルドの上層部から僕たちにその話が伝わったのは……その結婚式の朝。

 作戦を練る時間も、準備の時間も、ほとんど無い。

「爆弾有ります? 出来れば、他の都市まちで作られたとかの……足が付きにくい奴」

 僕たちのパーティーと同じく、冒険者ギルドの「裏仕事」を積極的に受けているパーティーのリーダーである「光の剣士」シャロルはギルドの情報部員に、そう訊いた。

「有るけど……無料ただじゃない」

「へっ?」

「報酬から天引きね」

「ちょ……ちょっと待って、シャロル姐さん」

「あんたより齢下って設定アングルなんだから『姐さん』とか呼ぶなッ‼」

「でも、ギルドの規則では、ランキングが±2の範囲内なら、年長者の方が偉いって事に……」

「だから、あんたの方が年長者って設定アングルでしょッ‼ ファンに知られたら大炎上だよッ‼」

 いや、もう、冒険者ギルドは物理的に町を大炎上させて、しかも、これから「ファンに知られたら大炎上」な真似を山程やろうとして……。

「うわああああああッ‼」

 その時、何故か、シュネが絶叫。

「いやぁッ‼ いやぁッ‼ 炎はいやあああああ〜ッ‼ 、死ぬなんて、いやあああああ〜ッ‼」

「お姉様、しっかりして下さい。あたしが付いてますからぁ〜ッ‼」

 そう言って、シュネを抱き締めるローア。

 シュネはローアの胸に顔をうずめ……そして、何故か、息が荒く、頬は真っ赤に……いつしか、ウルウルした目で互いを見つめ合ってる2人。

 あれ?

 この2人って……。

「あの……シュネとローアって、そう言う関係だったっけ?」

 僕が、そう訊いた瞬間、2人は「あ、しまった」的な表情かおになり……。

 ……。

 …………。

 ……………………。

「あのさ、前から何度も言ってるけど、ファンにはバレないようにしてね。バレたとしても『遊び』だとか『人気取りの為の百合営業』だって、言い訳出来る範囲内で頼むよ」

 僕は、シュネとローアに、そう注意した。

 同じパーティーの女の子2人が、レズ関係だってのは、大好物のファンと、その逆のファンの間で対立が起きかねない設定アングルだ。

 いや、この2人は、前々から本気の関係だったんで「設定アングル」じゃないんだけどさ……。

「あとさぁ……シュネって、いつ炎が苦手になったんだっけ?」

「うわああああッ‼」

「お姉様、落ち着いてぇ〜ッ‼」

「え……えっと、何か変だよ、だって、シュネの得意技は火炎系の魔法……」

「うわああああッ‼」

「やめろ、ボケナスがぁ〜ッ‼ あたしのお姉様をいじめるんじゃねえぇぇぇぇ〜ッ‼ あ、そうだ……お……お姉様……あの……」

 ……。

 …………。

 ……………………。

 あ、しまった。シュネが炎が大の苦手って事を、うっかり忘れて炎に関する単語をバンバン言っちゃった。

 そりゃ「吹雪シュネーシュトゥルム」なんてなんだから、炎は苦手に決ってる。

「じゃあ、今回は殺害対象ターゲットを爆殺するんで……」

「うわあああああ〜ッ‼」

「馬鹿野郎どもがぁッ‼ お姉様の前で……えっと、そう云うもんに関する単語を迂闊に口に出すんじゃねえッ‼ 全員、殺すぞッ‼」

「あ……あ……ああ、ごめん。今回は、シュネが苦手な方法で殺害対象ターゲットるんで、シュネは自宅待機しててね。あ、念の為、余っ程の事が無い限り、現場には近付かないで……」

 ん?

 あれ?

 何で、シャロルと同じパーティーのメンバー一同とギルドの情報部員の顔色が真っ青なんだろ?

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