167
Nora_
01
緩い坂を上っていくと一本の大きい木がある。
それ以上でもそれ以下でもなく、ただそこに木が存在しているだけだけどいくのは好きだった。
上ったことで少し高めなのもいいのかもしれない、街が見渡せるほどではないから凄く地味な場所なんだけどね。
「あれ」
いつもと違ったのは小さい男の子が一人でいたことだ、なんか心配になったから話しかけてみることにした。
「下った先にお家があるの」
「なんだ、それなら大丈夫だね」
ここによくいく身としては羨ましかった、何故なら僕の家からは二キロぐらい距離があるからだ。
意味もないのに引っ越しできたらなんて妄想をする、が、近くにあったら僕の性格的にいっていなかった可能性があるから結局はそれなりに距離があってよかったという答えになるんだ。
「でも、お家にいるのがつまらないんだ、だからそういうときはここに来るんだよ」
「そうなんだ」
「お兄ちゃんは?」
「たまにいきたくなっていっている、ここに来ているだけかな」
「そっか」
男の子は「それでももう帰らなきゃ、ばいばい」と走っていった、少し申し訳ない気持ちになった。
それでも帰ったところで意味はないからベンチに座って木を見ていると本当に落ち着ける、クラスメイトの子達だけではなくて僕が通っている高校の全員にいってみてほしいところだ。
「おい」
「うわあ」
聞き慣れた声が聞こえてきたと思ったら友達がいた。
そもそも仮にいくとしても最初から集まっていなければ面倒くさくて仕方がないだろうに変なことをする子だ。
あと目つきが怖い、顔も怖い、にこりと笑うことも少ない子だった。
「一人でいて気になったからってあんまり小さい子どもに話しかけるなよ、最近だと通報されるぞ」
「家が近いんだって」
「で、こんな退屈なところにいくのか? すげえなお前もあの子も」
「そんなことを言いつつ来てしまう日比谷さんはどうなってしまうんですか?」
「どうにもならねえよ、いいから帰るぞ」
彼は少し歩いてから「寒いだろ」と、やはりそれでも来てしまうのが面白いとしか言いようがない。
「なにか嫌なことでもあったのかよ?」
「ううん、いきたくなっただけ」
「なんだそりゃ」
たまに呼ばれたようにそうしたくなるときがあるんだ。
無理やり抑え込もうとして体調を崩したことがあるから強くそう感じたときはちゃんといくようにしていた。
実際、あそこにいけば落ち着けるうえになんかすっきりするから無駄な時間とはならない。
「裕二、おでん食べよ」
「じゃあ奢りな」
「いいよ、大根と卵とウインナーでいいよね?」
「は? 牛筋もくれよ」
「はは、ならそれも追加で」
お金を払えば待たずにすぐに食べられるのがいいね。
食べられる場所があるのに外で食べたいと言い出したときは呆れたけどまあ温かい食べ物を食べられるからマシだと片付けた。
食べ終えたら家に帰るつもりが何故か彼の家にいくことになって、何故かゲームをやることになった。
「ん? これって発売したばっかりのゲームじゃん」
「お前が興味持っていたから買ってみた、まあ面白いな」
「ええ!? あ、まあ楽しめているならいいんだけど……」
一緒にテレビを見ていたときに少し面白そうだったから面白そうだねと言っただけなんだけど……。
そのときの彼は「前のと変わらねえだろ」と冷たかったからまさか買ってしまうとは思わなかった、あと、お金を貯めてあるのが偉いと思った。
僕はさっきみたいにすぐになにかを買ってしまうから貯まっていかない、だから本当に欲しい物が出てきたときに涙を流す羽目になるのに学習して行動をすることができていない人間だ。
「やらせてやるからあんまり遠くにはいくな」
「でもさ、誘ったところで――」
「誘われたことがねえからわかんねえよ」
「なら今度から誘うね、それで満足できた後にゲームをやるよ」
気になっていたのは確かだからこれはありがたいことだった。
僕はゲームをやらせてもらうかわりに彼のしたいことに付き合えばいい、動いてもらうだけの関係は嫌だからこれからもそうやって繰り返していくんだ。
言いたいこともちゃんと言えて、やりたいこともちゃんとできて、僕らの関係は正に理想のそれに近いような気がした。
何回も言うけど顔とかは本当に怖いけどね。
「欲張り人間かよ」
「はは、そうだよ」
前々から一緒にいる彼ならそれをわかっているはずだ。
そのうえでこうして付き合ってくれているんだから彼は本当にいい人だった。
あとは表情が柔らかくなれば最強だった。
学校までの距離もそれなりにあって登下校をするだけでそれなりに大変だった。
やっと学校に着いてじっとしているとすぐにわかる、我が親友の周りには沢山の子がいる。
男の子だけじゃなくて女の子まで、格好いい子から可愛い、奇麗な子まで本当に色々な子達が仲良くしたいと考えて近づいているんだ。
でも、何故か自分のことのように嬉しかった、しつこくて申し訳ないけど顔だけはなんとかした方がいいと思っているけどね。
「よいしょ――あれ、まさかこんなに近くにいたとは」
後ろの席どころかこの教室内に彼女の席はないから驚いた。
もし彼女が暗殺者で僕が対象だったらあっという間に殺されていることになる。
「日比谷は今日も人気ね、いきたくても参加しづらいわ」
「気にしなくていいと思うよ、それにどうせ――」
「来ていたのか丹野」
と、すぐに彼なら来るから。
中学生のときぐらいから一緒にいるようになったけど彼は彼女のことを気にしているっぽいんだよね、だけどそのことを言うと怒られるから内で盛り上がるだけにしている。
彼女もまた彼に会うために毎朝来ているわけだからお似合いだと思う、一人になっても文句は言わないから本当に仲良くしたい子といてほしいところだ。
「ええ、おはよ」
「こいつに、あ、俺に用があったのか、じゃあ教室から出ようぜ」
「そうね」
ほら、こうしてすぐに連れ出たりするからただの妄想じゃ終わらない。
高校にも朝読書の時間があってそのための本を出した瞬間にぶるっときたからそそくさトイレへと移動、出すものを出せたらすっきりしたから教室に戻った。
「
「いいよ、だけどあれだよね、裕二に興味があるんだよね?」
「え、なんでわかったの?」
「勘かな、よしいこう」
学校ではこんなことを繰り返してばかりいる、そして親友も告白をされては振るのを繰り返していた。
なのにあれだけ集まるのは自分こそはと自信を持てているからだろうか? でも、マイナス思考でいるよりもよっぽどいいか。
あの二人は割と近いところで話してくれていたから彼女のことを話して少し待つ、空気の読めない存在でも「もういいよ」と言われるまでは戻れない。
ただ、そうすることで明石
「もう予鈴か、はええな」
「早いよね」
「ま、今日も頑張ろうぜ」
「そうね」「そうだね」
意外なのは「余計なことをするなよ」と彼が怒ってきたりはしないことだ。
これはずっと前々からそうだった、連れていっておきながらそのことを謝ると「まあしゃねえだろ」と許してくれる。
実はそういう点で求められているのかもしれない……? 仮にそうでも役に立てているなら嬉しいかな。
「ふぁぁ……授業は嫌いじゃないけど眠たくなるなあ」
「心、ちょっと来い」
休み時間になった瞬間にこれか。
「ちょっと頭が痛くなってきたから寝る、予鈴前に起こしてくれ」
「え、大丈夫? 保健室に連れていってあげるよ」
身長差は約五センチほど、体重差はあるけど背負って歩けるから任せてほしい。
こういうこともできてこそ友達だろう、あとは彼のためならできることはしていきたいというそれが強くある。
「そこまでじゃないしせっかく来ているのに授業に出ないなんて嫌だろ」
「わかった、だけど無理そうだと判断したら連れていくからね」
「それでいい、頼むぞ」
くぅ、眠たいときに寝ている子を見るのは中々に厳しい。
でも、だらけているわけじゃないんだ、起き続けてちゃんと約束を守らなければいけない。
「あ、そうだ、今日みたいに頼まれたら全員連れてきてくれ、断って心が悪く言われても嫌だからな」
「うん、じゃあ連れていくね」
「じゃ、今度こそ寝るわ」
眠たいときは言葉遣いが柔らかくなるのも彼の面白いところだった。
中々できないから寝ている彼の顔をじっと見ていたら「見すぎだ」と怒られてやめた。
「十分休みじゃ寝れねえな」
「大丈夫そう?」
「ま、体育があるわけじゃないしじっとしていればなんとかなるだろ」
爆音というわけじゃなくても教室はいまの彼にとっては騒がしい場所だと思う。
だからってなにができるというわけじゃないけど心配だった、そういうのもあって授業にもあまり集中できなかった。
休み時間になったら連れ出すぐらいが唯一僕にもできたことだ。
「こうじわじわダメージを与えられている感じで気になるんだよな」
「それでももう放課後だからよく頑張ったよ、お疲れ様」
頭が痛くなったら寝転びたくなるから彼は本当にすごかった。
だけどそういうときに我慢をしてばかりだからそこは気になるところではある、頼ってくれた……というか僕が勝手に近くにいただけで彼から求められたのは最初だけなのも影響している。
「お前さ」
「うん?」
「いや、丹野も連れてこいよって言いたくなったんだ」
「ああ!」
こういうときにいてほしいのは仲良くしたい異性だよなあ。
丹野さんも来なかったのも原因ではあるけど全く気が付かなかった、こういうところが足りない。
「ということで友達と話していた丹生さんを連れてきたよ!」
「「は?」」
「だけどもう帰らないとね、三人で帰ろう」
「「はあ……」」
「いいわよ」と言ってくれた彼女がこういう反応をしているのは恥ずかしいからだ。
彼も素直になれていないだけでしかない、つまりなにも問題はないんだ。
集まれば自然とお喋りをしてくれるから黙って付いていくだけでいいのが楽だった。
「あんたね」
「うん」
「いや、連れていってくれてありがたかったわ。でも、理想は午前中の内に教えてくれることだったけど」
「はは、ごめん」
なんで来なかったのかは友達と盛り上がっていたからだという話だったけどそれでも意外だった。
ただ、誰よりも優先するというわけじゃないのは別におかしな話じゃない、これは僕が決めつけてしまっているようなものだから僕が片付ければ終わることだと言える。
「その一時間前ぐらいは普通に元気だったのに急よね」
「うん、だからこそ対応が大変なんだよね」
「実際、私がいっていたところでなにが変わるってわけじゃないからこれでよかったのかもしれないわ」
どうだろうね、絶対なんてことはないからね。
妄想が得意な僕でも勝手に連れてくるようなことはしないから彼女が行動しない限りはわからない、また、彼女が行動をしてもこそこそ付いていくわけじゃないから見られないんだ。
「前もそうだったけどあんたって無駄に力持ちよね、今度私も弱ったら運んでもらおうかしら」
「任せて」
「冗談よ。ま、とにかくありがと、これでもう帰るわね」
こうなったら外にいても寒いだけなので寄り道をせずに帰ることにした。
日課の掃除をする前に課題のことを思い出して終わらせる、掃除の方も毎日やっているのもあってそこまで必死にやらなくていいからすぐに終わった。
だけどこうなってくるとやることがなくてぼけっとしているしかないから親友の家みたいにゲームなんかがあったらいいなとは考える。
「親友と違ってきょうだいがいるわけじゃないしなあ」
あの怖い顔の兄がいることが信じられないほど可愛い弟君がいるんだ。
気になるのは全く会わせてくれないことだ、弟君と最後に会った日に親友と違って可愛いと褒めまくったのが原因だろうか。
まあ? 会ったところでいい影響は与えられないからその方がいいのかもしれないと片付けられていることではる。
「誰か来た!」
なんでもいいから時間を使ってもらいたい。
期待を込めて扉を開けると制服を着た知らない男の子が立っていた。
「久しぶり」
「あー……えっと、わからないかな」
遊んだときに親友の友達がいたことは多かった、これは所謂勘違いというやつだろうか。
それでも気になるから付いてきてと言って家から離れる、本調子じゃないところで悪いけど親友に会わせてみたらなにかわかるかもしれないからだ。
「あれ、もしかして
「そうだよ、薛
「大きくなったなあ、心なんてずっとこのままだぞ」
「個人差があるから仕方がないよ」
うんまあ二人で勝手に前に進められてもそれはそれで気になることを知った。
こうして並んだときにはっきり彼の方が身長が高いことも気になる。いやまあ大きい子はいくらでもいるんだけどさ。
「それよりこいつがアホな顔でいる理由って……」
「うん、覚えていなかったみたいなんだ」
「やっぱりそうか」
待て、同じ制服を着ているということは三角関係になってしまう可能性もあるということだろうこれは。
丹野さんに聞いてみたらあっさり彼のことを知っていたなんてことになりそうだしどっちを応援すればいいのか……。
「まあ、お前は途中で消えたから無理もないのかもな」
「ちょっと悲しいけどね、でも、これからまた知ってもらえればいいよ」
「そういうことか、またよろしくな」
「うん、よろしく」
あれ、そういうわけでもないらしい。
そもそも既に言ってあるように中学生のときに丹野さんと僕らはいるようになったんだ、流石の僕の頭でも中学生まで一緒にいればわかるから泥沼化になることはないのかもしれなかった。
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