第25話シルヴィア、聞かされる

 数日後


 「まぁ、ばあや!」


 シルヴィアは訪問者の姿をみて、走っていき、抱きつく。


 「お久しゅうございます、お嬢様。こんなに大きく、綺麗になられて。こんなふうに飛びついてきて淑女の仮面を忘れたお転婆さんなのも懐かしいかぎりです。」


 「だって、嬉しくてびっくりしちゃって。」


 「所用でお屋敷の近くまで来ていたものですから。お嬢様も屋敷に完全にお戻りになったと伺っておりましたので。お会いしとうございました。

 お嬢様、殿下とは仲良くされてますか?」


 「うん、仲良く・・・・あれ?『殿下とは』?殿下達ではなく?」


 「お嬢様、私はお嬢様が殿下と共に国を率いでくださるのを楽しみにしておりますよ。

私の可愛いお嬢様なら国民の人気者になるでしょう。」


 「ば、ばあや?何を言ってるの?

 とくに、私にそんなお話はないけど・・。」


 屋敷のメイドが空気を読んで公爵夫人を呼びに向かう。


 「あら。私の目からというか、周囲の目からみたら、殿下はお嬢様にだけは昔から雰囲気違ってましたよ。幼馴染の空気の中で隠しきれてない言動が。」

 

 「えっ?」


 「冷静に考えればおわかりでしょう。合う度に挨拶のキスを必ずするなんて仲の良い兄と妹とはいえ、オリヴァー様ともされてなかったでしょう?殿下は毎回必ずお嬢様にしてましたよ。」


 言われてみれば記憶に蘇ってくるシルヴィア。


 「で、でも、きっと子供の頃の殿下はオーバーリアクションでっ!!」


 「殿下は妹姫のマリアンヌ様にさえ毎回はしてませんでしたよ。毎回されていたのはお嬢様です。」


 公爵夫人が姿をみせた。


 「奥様、ご無沙汰しております。」


 ばあやがお辞儀をする。


 「本当にお久しぶりね、エマ。元気そうで何よりだわ。

 ところでね、エマ。その子、まだ聞かされてない事があるの。」


 「まぁ、そうだったのですね。戻られて当時の王家と公爵家の話をお嬢様は聞かされているとばかり・・・。」


 「何の話ですか?お母様。」


 公爵夫人は小さくため息をつく。それから娘にをみつめる。


 「王家は、いいえ、殿下は貴方を希望してるの。本当に貴方に初めて会った時から・・と、言っても貴方は当時赤ん坊だったから覚えてるはずもないけど。最初は可愛い赤ん坊を気に入ってるだけかと思っていたのよね。いえ、実際そうだったのでしょう。成長するにつれ、そんな感情はあっという間に変化したみたい。

 他の女の子に結局興味も持たなかったのだもの。」


 「イーサン兄様からは何も伺ってません。」


 「そりゃあ、一見優しい年上の幼馴染の立ち位置を守っていたからよ。

 私も貴方を殿下から引き離したし。でも引き離したことで殿下は自分の気持ちが何なのか気付いたようだけど。」


 「それが、お祖母様のところへ、行った理由?」


 「王家の打診を何度も退けたの。シルヴィアが自分で考えるようになった時に、殿下をどう見るのかという機会を奪われたくなかった。ましてやあんな幼い頃からの執着心は怖いものがあった。貴方が自由に視野を広げた中で殿下に目が向くなら私は反対しないと条件をだしたわ。王家の条件はそれとなく王妃教育を受けさせること。シルヴィアが殿下を選んだ時のために。

貴方のお祖母様ならば王妃教育だと言わなくても勝手に厳しく王妃教育になってしまうだろうからお祖母様に相談したのよ。」


 「、戻ってきたときにイーサン兄様が説明しない時点で私は理解をしようとは思いません。」


 シルヴィアの中に反抗心が芽生える。

 そんなに自分のことを想ってくれていたのならば、何故説明せず、からかってばかりなのか。


 ショックではない。納得ができない。


 ムカムカムカムカ。あーっもう!


 「だから私は承諾も否認もしません!」


 べーっと舌をだし、走ってシルヴィアは自室に引き籠もる。


 エスコートは嬉しかった、それだけにこの話を聞かされ、逆に腹が立ってきた。


 両親もオリヴァー兄様も話すタイミングを考えていたのかも知れない。寂しくないようお祖母様はいつも私に心配りをして下さっていた。

 お祖母様のところでの生活は充実していた。理由は何であれ、感謝してます。



 でも


 選ぶのは私?


 私はただの一人の女性にすぎない。イーサン兄様相手に選ぶなんてそんな偉そうな・・


 皆が私に気を使ってくれていたのは理解した。それでこんな態度はわがままなのも自覚してる。


 

でもね、でもね、


 


 他に違ったやり方はなかったの?!



 淑女の下のじゃじゃ馬の顔が重い腰をあげ始めた。

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