第9話父の心情

「お父様。お願いがあります。」


 「どうした?お父様の可愛いシルヴィア。」


 「隣国の友人からお手紙が届いたのですが、今度皆で会わないかって。新しく美味しいレストランができたみたいで、ランチをと書いてあるの。お祖母様の屋敷なら国境近くだし、一泊する形で行ってきてもいいですか?勿論、お祖母様の屋敷が都合悪ければ何処か宿をとるか、何とか日帰りをする形を考えます。」


 「その友人って、まさか男性じゃないよね?」


 「手紙は女性です。集まる数名は男女混ざってますが。」


 「みんな友人?」


 「はい。仲良しグループです。」


 トントン。ドアがノックされる。


 「父上。ただいま戻りました。イーサン殿下も一緒です。」


 オリヴァーの声だった。


 「イーサン殿下も?客間か?」


 公爵は嫌な予感を覚え、軽く鳥肌が立つ。


 「はい。父上にがあるとのことです。」


 嫌だ。ぜーったいそのお願い事を知りたくないし、聞きたくない。だって内容が浮かぶ。少なくともまだ陛下から何も言われてない。でも、失礼があってはいけない・・・


 「わかった。客間へ向かう。

 シルヴィア、日にちが決まったら後で父様に教えるように。」


 「はい。お父様。」


 

         *


 

 そして・・・公爵の予想通りのであった。


 「父上。まだ殿下がいるのにその表情。」


 「うるさいぞ。オリヴァー。お前だってあー、やっぱりって顔になってる。」


 話題の主、イーサンはシルヴィアを呼んでほしいとメイドに声をかけていた。


 しばらくしてシルヴィアが姿を見せる。


 「イーサン兄様、こんにちは。父に用事があったと聞いてますが、もう終えたのですか?」


 「やぁ、シルヴィア。こんにちは。そうだね、用事はもう終わったよ。シルヴィアは変わりない?」


 とろけるような笑顔をシルヴィアに向けて話すイーサン。


 

 イ、イーサン兄様?笑顔がいつもと違うような?何ですか、その砂糖大盛りのお菓子みたいな笑顔。おかしいわ私、顔が熱くなってきてしまいます。その笑顔、破壊力ありますよ。


 シルヴィアが少しだけ引いているのをイーサンは見逃さず、距離を一歩縮める。


 「シルヴィア、前みたいにイーサンお兄様!ってハグしてくれないの?」


 「え、いや、流石に今突っ込まれてからそれはちょっと。それよりこの間はエスコートありがとうございました。でも、周りの人から誤解を受けて困っておられませんか?」


 やめろシルヴィア!と公爵は心の中で叫ぶ。

 煽るんじゃない。目の前のお菓子みたいなやつはハンターだぞ。お前は獲物!

 煽ってどうするんだ!


 オリヴァーは父の百面相を観察している。

 面白いから。


 「誤解?大丈夫。から。それより僕はちょっと寂しかったよ?シルヴィアがエスコートを頼みに来てくれるんじゃないかと思っていたから。」


 「え、いくら家族ぐるみの付き合いでも、公式の場となると、王子の立場の人に図々しくお願いするわけには?それに、父も兄もいましたし・・」


 「ふーん。なるほどね。」


 ちょっと低めになったその声色に、何か冷水でも浴びたかのような気分になる父と兄。


 「それより、せっかくシルヴィアが戻ってきたんだし、今度城で前みたいに家族ぐるみでお茶会でもしないか?早いほうが嬉しいなぁ。凄く戻ってくるのを楽しみにしてたんだよね。」


 「本当ですか?」


 嬉しそうにシルヴィアが声をあげるが、ハッと気付く。


 「あ、でも、ちょっと返事をお待ちいただけますか?私、約束が。」


 「約束?」


 「はい。隣国で出来た友人達と今度集まってランチしようという話があるんです。」


 「そうか。シルヴィアの友人ならみんな可愛らしい淑女なんだろうね。楽しんておいで。」


 「ありがとうございます。ふふ。女性の友人はみんな確かに可愛くて素敵な人ばかりなんです。」


 「ん?女性友人?」


 「はい。男性の方はやはり素敵な人達で・・え?」


 「ふーん。そうなんだね。男女の友人が集まるんだね。」


 イーサン兄様?その笑顔初めてみます。何か、お母様みたいに黒い笑顔・・・・・。


 「イ、イーサン兄様?何か怒ってらしゃるの?」



 「僕が?別に怒ってないよ。心配しないでね。」


 いや、だからその背後のゴゴゴと言ってるようなオーラは何なんです?

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