学校にて
時間通りに講義は終えられた……はずだった。
誤算といえばたくさんの質問が寄せられたことだ。
教師が想定していたよりも、宗教について関心がある生徒が多かった。
キリスト教徒は言っても、正式に認められている宗教でもカトリックとプロテスタントがある。
教皇から認められていない宗派というか考え方においてはいくつあることか。
親族がそのどれかということだろうか。
流石、多様性であり、グローバルな考え方を特色としている学校なだけある。
皆が手をあげて質問したがる。この学校にはハーフの子もいるからだろうか。
「次の授業がありますから、落ち着いて」
次の授業の先生に促され、いったん職員室に行く。
「あんなに質問が出るとは思いませんでした」
「ええ、こちらとしても嬉しい悲鳴です。キリスト教に興味を持ってくれるというのは」
「生徒たちも不完全燃焼でしょうから、廊下に質問箱を設置してもいいでしょうか」
「ぜひお願いします。きっと次の授業はあまり熱心に聞いていないでしょう」
学年主任だというその先生は苦笑いでそういった。
「回答はどうしましょうか」
「廊下に一覧展示すればよいでしょう。質問者は匿名にすれば問題ないかと」
「そうですね」
「では、段ボールと画用紙とをそろえませんと」
「ええ」
「このくらいのものでお願いいたします」
「わかりました。後日作って起案するので
今日のところは御暇させていただきます」
「はい。出来上がりましたらご連絡ください」
名刺交換をして学校を後にする。
「さっそく工作ね」
「ええ。百均ではあまりだわ。ホームセンターへ行きましょ」
「ええ? そんなに室に違いがあるの?」
「まぁ。家で3歳くらいの子が工作をするのではないからね。学生ともなればチープさを感じてしまうはずよ。それなりの組織に見せるためにもそれなりモノを使わないと」
「なるほどね。そんなに高いものが売っているかい」
「オーストラリアの物価より高くないので。ご安心ください」
皆でホームセンターに買い物に行ったのだった。
皆もわーきゃーと騒いでいる。中学生向けの意見箱を作るだけなのにこんなに騒いでいてきちんと完成するのかいささか不安になる。
「これも入れていいかしら」
星のシールを持っている。
「いいわよ」
「ありがとう。日本はいろいろなシールが売っているわね。ここで育つ子供た夢を持てるのでしょうね」
「人にも家庭にも寄るかな」
沢山娯楽を与えられる家庭に生まれたらさぞ楽しいものだろうが、日本がそこまで裕福だとは思わない。不満をもつ子供たちとの差がいじめにつながったりするのだろう。どこの国でも基本は弱肉強食だ。
「ここでも夢を追いかけられたらいいとおもうわ」
「そうね。夢を追いかける子供を描きたいわ。あなたみたいな」
「え?」
なにやら皆には共通のテーマがあるらしくまだ教えてはくれない。
「会計だけしてくれればいいから。細かい装飾は任せてね」
佳織は会計を済ませた後も工作には関わらせてもらえなかった。
「佳織は宴会の用意をしてね。工作が終わったら記念した催しをするから会場を押さえておいてね」
背中を押されて人数を告げられる。
「ちょっと人数いるのよね」
メンバーにそういわれても大人数を引き受けてくれる居酒屋がどれだけあるというのか。
「おいしいお店なんてよくわからないよ」
とりあえずお酒の飲める大衆居酒屋を予約した。
「これでみんな楽しく食べられるかしら」
日本食に偏り過ぎないメニューもあるから大丈夫だろうと考える。
スマホに完成したとメールが届いた。
用意した研修室には切り貼りした後の画用紙やセロハンテープが転がっている。
「派手に使ったものね」
そこにあったのは佳織の顔をモチーフにした箱があった。
「これって私?」
「ええ。そうよ。良かったわ。一目でわかって貰えて」
「そりゃ。氏名を入れたらわかるわよ」
「みんなで作ったのよ。ここは日本。佳織の故郷だから」
仲間たちはニコリと笑ってハグをしてくれる。
嬉しいやらありがたいやらだ。
「ふむ。さすがみんなで作ったものだわ。強度も問題なさそうだし。明日には納品できそうね」
支部長に連絡をお願いしてある。
「ああ、いいぞ。生徒たちにも疑問があれば紙に書いておくようにと指導してくださったそうだ」
あとはボックスを届けるだけだ。
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