第4話:クラスメイトが異世界転移しました②

 優香と彩がゲートを潜って出た先は森だった。


 見たことがあるようでその実、現代世界には存在しない植物で構成された森に二人は降り立った。


 幸いなことに、元の世界と同じくらいの気温だ。暑すぎもせず、寒すぎもせず。緑に生い茂ってることを考えると春先くらいだと言える。


 陽の光は木々に遮られているが、隙間から見える太陽の位置から正午に近い時間であることが伺えた。


「それじゃ、まず私が木に登りますね……」

「あたしが登ろうか?」

「いえ、たぶん私の方が早いと思います……周辺警戒をお願いします」


 そう言うと優香はするすると木を登り出す。二〇メートルほどはありそうな大木を、ボルダリングの練習コースを登るよりもスムーズに登っていく。


 優香が木登りが得意なわけではなく、サイコキネシスを使えるからにある。見えない力場で掴みづらい幹のでっぱりを掴んで、自分の足を上に押し上げているのだ。これも、優香が異世界で得た能力だ。


 そもそもなぜ木に登るのか。


 異世界に誰かを探しにきたときの鉄則は二つ。


 一つはまずゲートの位置がわかるようにビーコンを設置すること。


 無線式の単純な構造のものだが、あるかないかで大きく話が変わってくる。


 ビーコンは単純に電波を発信して位置を示すだけのものだが、地図もない異世界で帰り道を示す貴重なものになる。


 電波は当然目に見えないが、結局は灯台のようなものなのでできるだけ高い位置に設置するのが望ましい。森の中では木が適当だ。


 もう一つは遭難者のビーコンを探すこと。


 近年相次いで発生する異世界災害。局所的に既存の基地局などと通信が取れないような空間異常や、今回のように異世界に跳ばされたときのために、携帯電話は全て自分の位置を示すビーコン機能の実装が定められている。


 その電波を受信するにも、結局のところ高い位置が有利になる。


 最初に転移する遭難者と、後から追う捜索者で転移先がズレることはかなり多い。転移者の救助にはこれらが必須だった。


 異世界対策委員会はテレビ等の広報活動で「異世界に遭難した場合はビーコン機能をオンにして、その場から動かず、信じて待て」と口をすっぱくして言っている。水城花音もそのように行動していると信じるしかない。


 遠くまで電波を飛ばすため、電力消費が激しい。そのためおおよそ十五分に一回電波を飛ばすのが標準となっている。


 木の上で待つこと数分。優香の持つ専用のタブレットが電波を受信した。


「よっ……と」


 二〇メートルほどの高さから飛び降り、地面につく直前にふわっと一瞬浮き上がり、着地する。


 その降り方に彩が一瞬だけたじろいだが、お互い対策委員会に所属する身で、異世界帰りの身だ。そういう特殊能力があってもおかしくはない。すぐに納得した。


「電波を拾いました。あっちの方角です」

「おっけー。じゃあ行こっか」


 ビーコンは単純な電波しか出していないので、方角がわかってもどれくらいの距離にいるのかわからない。


 相手が動いていないなら二点あるいは三点で電波測定を行うと距離を測れるが、十五分に一回程度しか測れないのでそんなことをするくらいなら曖昧な距離・方向でいいから歩き出したほうが良い。それに相手が動かないとも限らない。


 二人は揃って歩き出した。

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