第12話 脱出準備

潜水艦は敵の攻撃によって激しく揺さぶられた。

雷獣たちはその衝撃に耐えながら、男に質問を浴びせた。

「天狐様はここにいるのか?」

雷獣は男に詰め寄った。

雷獣は天狐に忠誠を誓っていた。


「天狐・・・ああ、白い尻尾がフサフサした狐さんですね。あの方はもうこの施設にはいませんよ。」

人間は冷静に答えた。

「いない!?」

雷獣は信じられないという表情をした。

前鬼の遠隔透視眼でこの施設に天狐がいると確認した。

「そんなバカな!前鬼の遠隔透視眼ではこの施設が見えたのよ!」

後鬼も雷獣の横で声を荒げる。

後鬼も前鬼と共に千里眼を使って天狐の居場所を探していたからだ。


「2日前までは確かに居たようですよ。昨日、私が別の場所に移動しました。」

男はそう言って肩をすくめた。

「どこに!?」

イズナは怒鳴りながら男に迫った。

そのとき、潜水艦が再び大きく揺れた。

敵の攻撃が激しくなってきている感じだ。


「とりあえず、ここを脱出しませんか?」

男は平然と言った。

相変わらず、彼は自分の命が危ないということを理解していないのだろうか。

「どうやって?」

イズナが吠えた。

雷獣達はこの施設から出る方法を知らない。


「そうですね。ちょうど倉庫が水で満たされてきているのでこの艦を使って脱出するなんてどうです?」

男はそう言った。

「何言ってんだお前、こんなものどうやって動かすんだよ!」

今度は雷獣が大声を出した。

彼らは艦のことなど知らないし、信用できるわけもなかった。

「大丈夫ですよ。私は乗り物の操縦マニアなので大体の乗り物は乗りこなせますから。」

男は自信満々に言った。

雷獣たちは疑心暗鬼だ。


「それに、この計器類に残っている思念を辿れば、ある程度操作が分かるのでは?」

男はそう言って後鬼の方を見た。

後鬼は思念を読む術を持つ。

「!?」

なぜこの男はその能力を知っているのか?

後鬼は驚いて男の細い目を見た。

その目には何か秘密が隠されているような気がした。

この人間、何者なのだ?

だが、今はそんなことを考えている暇はない。

脱出ができて、時間ができればじっくり問いただせばいい。

生死を問わずに。


以前、前鬼と後鬼は人間界で狂ったように暴れまわっていた。

彼らは巨大な身体と力を持つ恐ろしい姿をしている。

自分達の欲望のままに自然を破壊し、他の生き物を殺し、争いごとを起こす。


多くの妖怪退治たちが前鬼と後鬼に挑んだが、彼らは敵ではない。

前鬼と後鬼は妖怪退治たちを軽くあしらった。

彼らは妖怪退治たちの武器や術を鼻で笑う。

彼らは自分達の力の方が絶対だ。


そんなある日、一人の男が現れた。

男は不思議な術を使う者。

男は前鬼と後鬼に戦いを挑んでくる。

最初、前鬼と後鬼は彼を見下していた。

こいつは自分達よりも小さくて細くて弱そうだ。

数秒であの世に行くだろうと。


しかし、彼らは大きく見誤っていた。

術使いは予想以上に強かった。

彼は素早く動き、正確に攻撃してくる。

体術や念を使った術を駆使した息つく暇のない攻撃。

それに術使いはものすごい経験値、知恵、戦略を持っていた。

術使いは前鬼と後鬼の心の隙も見逃さない。

完敗だった。


前鬼と後鬼は改心することを決める。

彼らは自分達の間違いを認めることができた。

彼らは術使いに謝罪し、弟子入りを願い出る。


術使いは快く受け入れてくれた。

師は前鬼と後鬼に体術や念を使った術を教えてくれた。

師は前鬼と後鬼に人間や自然に対する尊敬や愛も教える。

師は前鬼と後鬼に平和や幸せを教えてくれた。


彼らは体術や念を使った術の奥深さに感動した。

生き物や自然の美しさに感謝し、平和や幸せの価値に気づいていく。


前鬼と後鬼は生きがいを見つけた。

彼らは師に尽くした。

しかし、師は人間だった。

人間としての寿命しかない。

師はやがて老いて死んだ。


前鬼と後鬼は悲しみに暮れることになる。

彼らは心の支えを失ってしまったのだ。

彼らは生きる意味を見失う。

そんな時、天狐が現れた。

天狐は白い毛並みと青い目を持つ美しい狐だった・・・・・


後鬼はじっと男を見つめた。

男は気にも留めず、手元の機械を操作し始めた。

「じゃあ、電源を入れますよ。」

男はそう言ってスイッチを入れた。

その3秒後、コントロールルームに明るい光がともりだし、計器類や画面が動き出した。

艦が生き返ったようだった。


右側の大きな画面には、白いロボット兵隊が映っていた。

先ほどまではこちらを追い詰めていたロボット達が、何かに攻撃されている。

画面の奥には、かすんで見えるものがあった。

よく見ないと気づかないほどだった。

そのかすんだ姿のものが、ロボット兵隊を次々と倒していた。


「何がどうなってる?」

イズナがつぶやいた。

状況がわからなかった。

「ああ、新型の戦闘服を着た人間の部隊ですね。あの戦闘服はなかなか画面に映りにくくて厄介です。」

男はボタンを押しながら平然と言った。

男は優雅な素早い動きで計器類をいじっている。


外の音声がコントロールルームのスピーカーから聞こえてきた。

「やつら潜水艦を動かし始めやがった。」

「まさか、操縦できるのか?」

いくつかの声が聞こえた。

それはかすみがかった部隊のものだ。

続いて何の感情もない冷たい声が聞こえた。

「AAチーム、潜水艦にかかる橋を渡って出入り口を捜せ。DDチーム、別の橋から潜水艦の上部に行き、出入り口を捜せ。」

どうやらこいつがこの部隊を率いているみたいだ。

雷獣はそう感じとった。


「だいぶ戦い慣れした方みたいです。いい兆候ではありませんね。」

男は操縦席のレバーの動きを確かめながら言った。

「早くしろ!ここで時間を無駄にするな!」

雷獣は男を急かした。

信用するしかなさそうだ。

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