第23話 国境の町
翌朝。
ラシュリたちは東ラン川河畔の宿場から、国境の町へ向けて飛び立った。
レラン王国の最北。ジュビア王国との国境の町までは、飛竜ならば一時間もかからないほどの距離ではあったが、町としての体裁を保っていた宿場町とは違い、最前線の町はあちこちで建物が半壊しており、人の姿はほとんど見られなかった。
(ひどいものだな……)
突如現れた黒竜がどのような攻撃を仕掛けて来たのかはわからないが、石造りの町が半壊するほどの被害を見れば、住民が残っているはずはない。
おそらく、今この町に残っているのは国境警備隊の兵士たちと、彼らの衣食住をまかなう軍関係者だけだろう。
国境警備隊の詰め所でもある石造りの砦の前には円形の広場があり、ヒューゴ率いる黒竜討伐隊の騎竜に続いて、ラシュリたちが広場に舞い降りてゆくと、砦の中から兵士がわらわらと飛び出して来た。
みな疲れた顔をして、腕や頭に包帯を巻いている者もいたが歓迎してくれているらしい。
そんな兵士らの後ろから、ひときわ立派な軍服をまとった壮年の男が現れた。
「アティカス隊長! 黒竜討伐隊の諸君! 私は国境警備隊隊長のゲイスだ。連絡を受けて心待ちにしていた。竜導師ギルドの支援に感謝する」
国境警備隊の隊長ゲイスと名乗った壮年の男が、ヒューゴと握手を交わしている。
黒竜討伐隊は竜導師ギルドの私設部隊だが、黒竜の攻撃を受けた彼らにとっては待ち焦がれた救援部隊だったのだろう。
ラシュリが彼らの様子を注意深く観察しているのと同じように、国境警備隊の兵士たちは突然現れたラシュリを好奇の目で見つめていた。
兵士たちの視線に気づいたラシュリは、ハッと息を飲んで一歩後ずさった。
「ラシュリ、大丈夫か?」
兵士たちの視線にうろたえていると、察したソーとシシルがラシュリの前に出て盾となってくれた。
男嫌いの発作が治まったとはいえ、長年培った気持ちはそう簡単には変わらない。
男たちから注目されるのは嫌だが、彼らがラシュリに疑問を持つのは当然だった。
男社会の竜導師ギルド。しかも、黒竜討伐の為の部隊に女性がいること自体、理解出来なくても仕方がない。
ラシュリがどうすべきか迷っていると、ヒューゴが手を上げてラシュリを呼んだ。
「巫戦士殿! これから会議をするからあなたも参加して────」
ヒューゴが言い終えぬうちに、広場にサッと影が差した。
冬晴れの空に、影よりも黒い飛竜が飛んでいる。
国境を区切る、高くそびえる石壁をゆうゆうと越えて姿を現したのだ。
うわぁ! と、誰かが叫び声を上げた。
動揺する竜導師ギルドの私兵たちを横目に、国境警備隊の兵士たちが慌ただしく動き出す。
「アティカス隊長、やつらは
「わかった。総員戦闘準備!」
ヒューゴの声で狼狽えていた隊員たちは動き出したが、ラシュリは空を駆ける黒竜から目が離せなかった。
(こんな……
漆黒の体に漆黒の翼。顔周りの突起もたてがみも全てが黒いのだ。
初めて見る黒い飛竜に放心したように目を奪われていると、ガッと腕をつかまれた。
「ラシュリ! 俺たちはどうする?」
ソーだった。
彼も黒い飛竜に目を奪われていたが、自分とシシルの飛竜が心配だったのだろう。縋りつくようにラシュリの腕をつかんできた。
「私たちは戦闘を禁じられている。
「巫戦士殿、砦に入れ! ソー、おまえらの
ヒューゴが大きく手を振って合図をしている。
その間、広場からは黒竜討伐隊の飛竜が次々と飛び立ってゆく。
「わかりました」
ラシュリは大きく深呼吸をすると、ソーとシシルに声をかけて武骨な石造りの砦に向かって走り出した。
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