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「っ!?」


 悲鳴に反応し、コンラートはアルマをかばうように抱き寄せる。

 彼のむないたに頰が押しつけられ、アルマはますますパニックになった。


(な、何!?)


 原因を確かめようと、アルマは彼の腕のすきから周囲の様子をさぐる。

 絨毯の上には先ほどの指輪が転がっており、あしらわれた宝石がぱっくりと二つに割れていた。おまけに色が真っ白に変色している。


(もしかしてあの指輪が?)


 もっと近くで確かめるため、アルマはコンラートから身を離そうとした。

 だが何故か、引きとめるようにぎゅっと力を込められる。


「コンラート様、あの、指輪が」

「―― アルマ」


(……!?)


 はちみつがかかったかのような甘い呼び方に、アルマは思わず体をこわらせた。

 すると顎にそっとコンラートの手が添えられ、くいっと上向きに持ち上げられる。


「ああ……近くで見るとほんとに可愛いね。耳と目と鼻と口すべての配置が完璧だし、髪の毛もごくじょうけんのようなすべらかさだし、自分と同じせっけんを使っているのか疑いたくなるほどかぐわしい香りがする……」

「コ、コンラート様!?」

「ああごめん、少し力を入れすぎたかな。だいじょう? きみはどこもかしこもせんさいだからね。小さくてきゃしゃなのもいいけれど、もう少しふっくらしても絶対いいと思うな。今度シェフにたのんで料理の品数を三倍にしてもらおうか」

「コ、ココ、コンラート様? さっきからいったい何を―― 」


 長い前髪をぐいっとかき上げ、立て板に水のごとくしゃべり始めたコンラートを前に、アルマはだいきょうを感じ始めた。

 そこで彼の瞳が、青から美しい金色に変わっていることに気づく。


(目の色が違う? どうして―― )


 だがアルマが考えを整理する間もなく、コンラートはそのままよいしょとアルマを横向きに抱き上げた。足が宙に浮き、落ちそうになったアルマはたまらず彼の服をつかむ。


「あっ、あの、いったい何を―― 」

「決まってるじゃない。ベッドに行くんだよ」

「はあっ!?」

「こんな可愛い子と夜に二人きり。やることと言ったら一つしかないよね」

「ちょっ、ちょっと待ってください!? あ、あなたは―― 」


 変わったのはこうさいの色だけではない。

 こわいろも。性格も。アルマを見つめるそのまなしさえも今までとは全然違う。

 例えるならそう―― さなぎが蝶になるように、実に多くのこんちゅうが経験する劇的な外見と中身の変化。これはまるで――


(へっ、『変態』だー!!)


 アルマは脳内でぜっきょうしたのち、進んでいく先に目を向ける。

 そこには完璧に整えられたしんだいがあり―― おびえた顔のアルマを見下ろしながら、『変態』したコンラートは嬉しそうに金の両目を細めたのだった。

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