人間味の強いキャラクターや、良く組み立てられたストーリーで、何本も泣いたり笑ったり、楽しませて頂いている、プロのノベルゲームライター様の地下迷宮モノです。
元は「迷宮保険」という、600話を超える長編作品の主人公である美少女「エバ・ライスライト」の、数年後の戦いを扱ったスピンオフ小説、2作目となります。
この女主人公、運悪く迷宮で死亡してしまった契約者を、単身で回収し、その場で蘇生をこなす「迷宮保険屋」なのですが、この2回目の救助対象者のリーダーが、俺様思考の困ったちゃんで、想定外のトラブルを起こしてしまう~という。
そのリーダーを、ただの「ざまぁ」と笑うのではなく「どういう心の闇を背負って生きて来たか」をとても丁寧に描いてくれていて、ある場面では「可哀想に…」と、同情すらしてしまうほど、そのキャラに引き込まれたりします。
職場で働いていて目に付く「優秀だけど自分中心で困らせた挙句、居なくなる」タイプの人が、どういう結末を迎えるのかを「ざまぁ」ではなく「あぁ…」という気持ちで読ませてくれる、残酷だけれど人情味を感じる…そんな作品です。
地下迷宮ゲーム「ウィザードリィ」がお好きな人は、より楽しめると思います。
現代ファンタジーを席巻しているダンジョン配信ものの作品の中でも、これは異色。
まず、作者の既存作品である「迷宮保険」のスピンオフである点がひとつ。
もうひとつは、一人称小説でありながら、主人公(視点の主)と物語的主役が別々であり、前作「推しの子の迷宮 ~迷宮保険員 エバのダンジョン配信~ 世界で唯ひとり蘇生の魔法を授かった最強聖女さまは、全滅した人気Dチューバーを生き返らせて華麗にバズります」の主人公とも別人なのである。
シリーズ物としては、本編「迷宮保険」主人公の「エバ・ライスライト」をスピンオフ主人公の目を通してみているという点は共通しているものの、主人公同士に共通点がない。
この作品、徹底して私たち=視点の主である主人公の目を通して、エバさんを見ているのである。
しかも、厳しいWIZ世界のダンジョンが現代に現れてしまったという世界線。半端じゃなく「死」に近いダンジョンが、私たちの前にその暗い口を開けているのだ――。