第51話 罰ゲームの罠

「で、結局罰ゲームは何にするんだ?」


 ベリアルに、あれをやらせたい、これをやらせたいという話でレイナとアンナと盛り上がっていたら、ついぞ罰ゲームにすら出来なさそうなことまで出てきて、流石に居た堪れなくなった俺は話の方向を元に戻した。俺の問いにベリアルはホッと安堵のため息を零す。言葉に出すのも憚られるようなことまでやらされてたからな、妄想で。女の子たちの想像力って凄い。


「う〜ん、そうですねぇ……やっぱりタケルさん、いい案ないですか?」

「いい案ねぇ……」


 俺はどうするかと考え込む。もう既に罰は受けていそうな感じもするが。精神ダメージは十分食らってそう。だからそこまで重くないほうがいいと思うけど、何があるかなぁ……。あっ、あれはどうだろうか。ふと思いついたことを口に出してみる。


「これから一ヶ月、毎日昼食を振る舞うとかってどうだ?」


 俺が言うとレイナはポンッと手を打った。


「ナイスアイデアです、タケルさん! それいいですね!」

「流石だな〜。よっ、アイデア王〜」


 二人には好評のようだ。チラリとベリアルの方を見ると、彼もホッと胸を撫で下ろしていた。彼的にも安心安全な罰ゲームらしい。これで円満解決か。良かったよかっ──。


「じゃあ今度は夕食調理権をかけたトランプゲームですよ!」

「おお〜」


 …………え? 俺の妙案による円満解決は? せっかくちょうどいい落とし所を用意したんだから、あとはのんびり楽しむって選択肢は? 俺はそう思ったが、どうやら他の三人にはそんな考えはないらしく、ベリアルすらも燃えていた。


「ふっ、この勝負を持ちかけたことを後悔させてやる! 俺はレイナの手料理が食べたい!」


 おい、心の声が漏れてるぞ。まあ確かに、女の子の手料理は魅力的だが。しかし、そんなことを考えて勝負するベリアルが勝つ未来が一切見えないのは、仕方がないことなのだろうか。まあベリアルには是非とも勝ってもらいたいところ。


「タケルさんももちろん強制参加で!」

「…………ほ?」


 あれ、あれれ。さっきまで他人事だと思っていたのに、どうやら俺も参加することになっていたらしい。おっかしいぞ〜、せっかく会話には参加せずに傍観者に徹していたのに、俺の努力が無駄の泡に。


「それじゃあ、第二回、夕食調理権をかけた大富豪、はっじめ〜!」


 てかババ抜きじゃないのかよ。大富豪になったんだ。まあいいけどさ、夕食調理権がかかってるのにそんな適当だなんて。てかいざ自分の身に降り掛かると考えると、一ヶ月調理し続けるってかなりしんどくないか? よくベリアルはあれを許可したな。漢としか言いようがない。


 そして十数分後──。


「ふふふっ! またベリアルさんの負けですね!」

「ぐぬぬっ! なぜ勝てぬ!」


 今回はイカサマしている様子はなかったのに、単純に実力でベリアルは負けていた。不憫すぎる。これで昼夕のご飯をベリアルが作ることになった。……てか、今更だけどベリアルの調理スキルがなかったら一ヶ月地獄なのでは……? マズい、なんだかそんな気がしてきたぞ。不安になった俺は恐る恐るベリアルに尋ねる。


「なあ、ベリアル。料理って、したことあるか……?」

「料理? あるわけないだろう。俺は王子だぞ」


 堂々と言い放った。終わった……。ようやくこの絶望に気がついたレイナとアンナも驚き固まった。


「……美味しい料理を作れる自信の程は?」

「ないない。まあ一ヶ月もあればそこそこできるようになってるだろう」


 ってことは、一ヶ月はマズい飯で我慢しなきゃいけないってことじゃんか! あー、終わった! ようやく事態を飲み込めたレイナとアンナも慌てたように声を出す。


「ちょちょ、ちょっと待ってください! 一旦、罰ゲームの内容を考え直しましょう!」

「そうだな〜! この罰ゲームは罰じゃないな〜!」

「ふははっ! バカめ、ひっかかったな! これが俺のささやかなお返しだよ!」


 こいつ、もしかして俺の罰ゲームを聞いた時に安堵の表情を浮かべたのは、これで反撃ができると思ったからなのか!? なんて狡猾な! 卑怯だ、詐欺だ、悪魔だよこの人!


「さぁて、明日からの食事、楽しみだなぁ……」

「くっ、手を抜くことは許しませんよ! 手抜きだったら罰になりませんからね!」

「もちろんだとも。ただ、全力を出してマズかったら、それは仕方がないよな」


 こうして俺たちはベリアルの罠に嵌められて、明日からメシマズの日々を過ごすことが確定してしまったのだった。

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