第4話 四色目



『ピコンッ』




また、あの電子音だ。だが今回は──全員のSTGが同時に反応した。


教室のあちこちで「またか!」という声と共に、青白い光が浮かび上がる。

STGの右側、メッセージ欄の下に“動画サイト”のアイコンが点滅していた。


通知の内容はこうだった。


【新着動画:宇宙管理者キャンバスからのお知らせ(推奨視聴)】


「うわ、来た。推奨って……なにそれ怖」


「紫吹〜、一緒に観よーぜ」


「こっちで観るー」


御田と西藤が、紫吹の肩越しに覗き込んでくる。

紫吹はやれやれと小さく息を吐くと、STGの動画画面をタップし、再生を押した。


映像は、静かに始まった。



まず映し出されたのは、漆黒の宇宙だった。


光のない闇ではなく、幾千の星がきらめき、色とりどりの光の筋が漂っている。


銀河が渦を巻き、惑星がゆっくりと軌道を描く。


その中には、紫吹たちの知っている天体もあれば、見たことのない異形の惑星も混じっていた。


そして、画面の中央に、人影のようなものがふわりと浮かび上がる。


その姿は、どこかあいまいで、輪郭が定まっていない。

人間のようでもあり、絵筆の筆先が散らばったような抽象的な存在にも見える。


【えー、テステス。映ってるかな〜?】


その存在──キャンバスは、軽い調子で語り始めた。

けれど、その声は不思議と耳に心地よく、すうっと心の奥に染み込んでくる。


【はじめまして。ボクは“キャンバス”。君たちの住む惑星がある“この宇宙”の管理者をやってます。まあ、神様みたいなもんだと思ってくれてOK!】


「えっ、神……?」


教室の数人が小声でつぶやく。だが誰も、動画を止めようとはしない。


キャンバスはそのまま、どこか無邪気な調子で話を続けた。


【でさー、ちょっと前に上司たちの会議があってさ。そこで、なんとボク、昇進したの!位が、上がっちゃったの!えっへん!】


御田が小声で「軽っ」とツッコむ。紫吹も苦笑い。


【で、それにともなってね、ボクの管理してる宇宙にも、ちょ〜っと影響が出ちゃうの。まあ、アップデートみたいなもんかな。】


【地球の皆さんにわかりやすく具体的に言うと……うーん、まず魔物が出ます!それから、世界各地に“ダンジョン”が出現します!それに伴い、現代兵器は……土になります。】


「は?」


教室がざわつく。


キャンバスはそんな視聴者の反応などどこ吹く風で、にこやかに続ける。


【いや〜、だってさぁ、自分の力で強くなってほしいじゃん?道具とか武器とかに頼らず、自分を磨いてこそ、“いい色”になると思うんだよね〜】


世界の軍事国家のお偉いさんたちが、ブチギレた顔で部下を動かす映像が一瞬差し込まれた。

だが、彼らが現場に着いたとき、すでに戦車もミサイルも銃器も──すべて、土と化していた。


「……これが神の理不尽……」

西藤がぽつりとつぶやく。


【ま、そんな感じで、ボクの宇宙はね、ちょっとだけ“自由度”が増えたの!】


【魔物を倒して素材ゲット!ダンジョン探索して宝をゲット!それらは“STGストア”で売買可能。通貨はSTGコイン。使い道は色々あるよ〜。】


動画には、STGストアの画面例や、スキル育成システム、武器クラフトなどのUIがサンプルで表示されていく。


生徒たちは完全に“目を奪われて”いた。

不安よりも、ワクワクが勝っていた。


【新しい素材で、新しい発明をするもよし──】


【ひたすら鍛えて、己の限界に挑むもよし──】


【仲間と旅に出て、世界の謎を追うもよし──】


画面には、世界中の人々が空を見上げ、STGを確認している様子が映る。

サハラ砂漠でも、ロンドンでも、アマゾンの奥地でも。

みんなが“同じもの”を見ていた。


【世界は、またひとつ自由になった。】


【君たちが、“自分のキャンバス”を素敵な色でいっぱいにしてくれることを、心から願ってるよ!】


【みんなのキャンバスが、きらきらで、まばゆいものになりますように──】


【それじゃ、またね! ばいば〜い!】


ふわりと手を振るように、キャンバスの姿がゆらゆらと揺れ、光の粒になって消えていった。


動画が終了し、教室に沈黙が訪れた。


けれどその静けさは、重いものではなかった。

誰もが、いま観た映像の意味を、心の中で反芻していた。


「なに、あの神……」


「強キャラ感あるのにテンションゆるゆるなんだけど……」


「動画サイトっぽい編集だったのも逆に怖いよな……」


各国首脳は緊急会議に追われ、SNSは混乱の嵐、宗教指導者たちが言葉を失い、犬や猫たちは空を見上げて鳴いていた。


紫吹は、もう一度STGを開く。


指先に触れるその画面が、いまや自分の“新しい現実”だと、心の奥で理解していた。


(……まだ見ぬ冒険、か)


どこか遠くを見つめるように、彼は窓の外を見やった。


空は青く、昨日と同じ景色のようでいて、何かが確かに変わっていた。


(この世界で、オレは何者になるんだろう)


胸の奥で、なにかが小さく音を立てて動き出した。






____________________________________



こっから本格的に紫吹たちの冒険が始まっていきます。初心者なので暖かい目で見ていただけると嬉しいです。

誤字脱字や言葉遣いのアドバイスなどいただけると嬉しいです。

これからも応援の方よろしくお願いします!



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