第7話‐指名手配犯ウィータと二人の追手(?)①

※前書き

今話からが『第二章・戦いの寵児編』のスタートです。

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 時刻は、昨晩の鳥竜種ワイバーン騒動から一晩明け、朝の雲雀が鳴き止み始めた時頃。チュン、チュン、という声が鳴り止むと、この場所——ラッセル西区にある十四番街のゴーストエリアに居座る音は、寂れた風の音だけとなっている。


 物音一つない周囲には人の気配がなく、郊外、という言葉がピッタリな様相が広がっているが——。これは、なんでも……ミール川の運河を通じて都市外との貿易が盛んになるにつれ、徐々に港を中心とした中心部へと人の大移動が起きた影響らしい。


 おかげで、旧・中心街跡地となってしまったこの場所には、滅多に人が寄り付かず、現在のシー達が置かれている現状にはピッタリな場所という訳である。


 「すぴぃ~、すぴぃ~……」

 「……なぁ、そろそろ起きてくれないか?」

 「ケケッ、髄太い神経してやがるぜ、この嬢ちゃん……」


 そんなゴーストエリアに佇むボロボロの母屋の一つに、シー達はいた。


 藁束を布団にぐっすり眠りこけるウィータ。


 昨晩あんな事があったと言うのに、いい笑顔で夢の世界の住人となっている彼女の顔を覗き込みながら、シーとテメラリアは呆れ顔で半眼を作る。


 「おぉい、いい加減に起きてくれって相棒!」

 「全くだっ! つつかれてェのかこんの寝坊助ェ!」

 「あうっ、あうっ、あうっ!?」

 ポム、ポム! ツン、ツン! と。


 青筋を立てた二人。シーが肉球でウィータの顔をポムり、テメラリアが嘴でつつく。素っ頓狂な声で嫌がったウィータも流石に無視できなかったのか、眠そうな目を擦りながら、「……なぁにぃ~?」と一言。


 「いたいよ二人ともぉ……?」

 「起きな嬢ちゃん? 朝だぜ」

 「昨日はロクに自己紹介も出来なかったからな。朝っぱらから悪いが、ウィータにはいろいろ話しておかなくちゃいけない事がたくさんあるんだ……。とりあえず起きてくれるか?」

 「……話しておかなくちゃいけないこと……?」


 まだ寝ぼけている様子のウィータだったが、神妙な顔つきのシー達を見て、大事な話だというのを察したのだろう。キョトンとした様子で固まった彼女に、二人はこれからの事……邪神ウルと、シー達の事について話し始めた。


 話した内容はこうだ——。


 シーの正体が、三大英雄のサーガに登場する大英雄ベオウルフの契約精霊——『変身の大精霊シー』。かつて、邪神ウルを討伐する為に、神々が自らの魂を捧げ、とある聖神の神器を模して造り出した最強の精霊であるという事。


 千年前にシーたち三大英雄によって倒されたと思われていた邪神が、実はまだ生きていた事が分かったから、昨夜のシー達は、邪神討伐にどうしても必要な契約者探しに向かわなくちゃいけなかった事。


 しかし……。


 シーの我儘で、ウィータをその邪神討伐の為にどうしても必要な『変身の大精霊シーの契約者』にしてしまった為、ウィータはこれから世界と人類の命運をかけて邪神ウルと戦わなくちゃいけない事。


 この三つの事を中心に、シー達は説明した。


 「……はじめて聞いたよそんなこと! 絶対にイヤだぁぁぁぁぁぁぁ!」

 「「だよな」」


 そして、メッチャ嫌がられた。あまりにも妥当な反応である。


 「ウルって天狼族わたしたちをのろったすっごく強くて悪い神様だよね! わたし知ってるよ! こういうの不当けーやくって言うんだ! マルクスおじさんが言ってた!」

 「……誰だよ、マルクスおじさん」


 ガルルルルルぅ~っ! と。藁束に全身を埋め身を隠したウィータが、獣ように唸り声を上げる。しかし、全く威圧感が無い為か……小動物のようである。


 「わたし、だまされないからね! だいたい伝説の大せいれい様がこんなとこにフツーにいるわけないもん!」

 「いや、精霊なんてどこにでもいるし、大精霊だってどこにでもいるって!」

 「うそだ! じゃあ今ここにつれて来てみてよ!」

 「ホントだって! ホントホント……!? ……あぁ、くそ……どうしたら~……、……! あっ! ほら見ろウィータ!? 丁度あそこにいるぞ!?」


 ウィータを何とか説得しようと、シーは母屋から出て空を指差す。何らかの魔獣のように、ウィータも藁束ごとモソモソ移動して来ると、シーの指先の延長線上——燦々と輝く太陽へと訝し気な視線を向けた。


 「知らないかもしれないけどな……あれは“天輪の大精霊ヹルエム”っていう莫大な熱の精霊の塊で、大精霊って呼ばれるスゴい精霊なんだ! ……な? あんな身近な所にも大精霊はいるんだ! だから伝説の大精霊がそこら辺を歩いてても全く変じゃないんだぞ!」

 「……。……シーちゃん、アレはお日様です。お日様は他のせいれいさんみたいにしゃべったりしないし、とうめいになったりしません」

 「そんな事ないって! 透明にもなるし、めっちゃ喋るぞ! アイツ! なんなら今から喋らせるから待っててくれ!」


 シーの言葉に訝し気に視線を細めたウィータ。彼女を何とか納得させる為に、「——お~い、ヹルエム~~!!」と、シーは空に向かって叫び始める。……当然、その珍妙な行動を見て、ウィータの視線は更に訝し気に細められることになるが、シーは気にせず太陽へ向かって話し掛けた。


 「千年ぶりだなー!! オレのコト覚えてるぅ~~!!?」

 『………………………………………』

 「……」

 「やっぱりウソだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~!!」


 無反応。太陽——もとい、天輪の大精霊ヹルエムから反応が返って来ず、微妙な空気感で固まったシーを見たウィータは、警戒心を露わに母屋の中へと這って行った。


 追い詰められた獣のように「ガルルルルルゥ……!」と、威嚇する彼女を、駄目だこりゃと、シーとテメラリアの二人は顔を見合わせる。


 「ケケッ……まァ、気持ちは分かるが諦めな、嬢ちゃん?」


 そんなウィータの警戒心を解くように、藁束の前に近付いたテメラリア。


 諭すように口調を和らげながら、彼は言葉を続けた。


 「精霊契約は、文字通り死が二人を別つまでの一生もんだ。今のシーと嬢ちゃんは霊体アニマが融合している状態なんだが……物凄く強く結びついてるんだよ。だから、無理矢理に剥がすなんて事も出来ねェ。もしそんな事したら……嬢ちゃんは全身がドロドロに溶けて死ぬ!」

 「やっぱり不当けーやくじゃん!?」


 だまされた! この悪魔めぇ~! と。藁束の中でじたばたと暴れるウィータは、思いつく限りの罵倒を吐き捨てる。……精霊の中には悪魔と呼ばれる者もいる。強ち間違いではないではないが、本人がその事を分かって言ったかどうかは謎だ。


 「うぅぅ……のんさぁ~、のんさぁ~……! 絶対にヤダぁ~……っ」

 「「……」」


 怒りを通り越して恐怖が勝るようになってきたのだろう。


 口癖なのか、良く分からない単語を口にしながら泣き出してしまったウィータ。バツが悪くなってきたシーとテメラリアは、苦虫を噛み潰したような表情で固まった。


 「おい、脅してどうすんだよ……泣いちゃったじゃないか……」

 「俺様のせいかよ。大体、テメェが勝手に嬢ちゃんと契約したのが悪いんだぞ?」

 「うぐっ……それはまぁ、そうだけどよぉー……」


 ぐうの音も出ない正論を言われ、シーは言葉に詰まってしまう。


 あの状況では仕方がないだろうとか、この子には大英雄の素質があるとか、反論したい気持ちはあるが……それでも、シーがウィータを契約者に選んでしまった事が現状を招いてしまっている事に変わりはない。


 「……うぅ、ぐすっ……」

 「……あー、ウィータ。その、だな……」


 シーはテメラリアと入れ替わりに藁束の前に立ち、ウィータを説得した。


 「勝手に契約者に選んだのは悪いと思ってる……スマン。——でも! あの時、闘技場で切った啖呵を聞いて可能性を感じたんだ! コイツは凄い奴になる! って……。だから……だから、その……オレに力を貸してくれないか?」

 「……」

 「あー……そ、そうだ! ウィータが邪神討伐に協力してくれるなら、何だってお願いを聞いてやるぞ! フカフカのベットだって用意するし、豪華な食事・・だって用意しよ——」

 「——(ぴくっ)……」

 「……?」


 思いつく限りの美辞麗句をつらつらと並び立ててみるも、藁束の中から反応は無いところを見るに脈無しという事だろう。……一瞬、食事の部分に反応したようにも見えたが、きっと気のせいだ。

 

 シーは「あぁ~、えぇ~とぉ~!」と、唸り声を上げながら頭を抱えた。


 「……だまされないよ」


 と、その時だった。ピコン! と。


 藁束からケモミミだけを出したウィータが警戒したように口を開く。


 「……そうやって聞こえのいい言葉だけ言ってわたしをだますつもりなんだ」

 「い、いやいや! まさか、まさか! そんな事なんて無いぞ! オレたち精霊は世界の秩序と安寧の守護者……世界を救う為に立ち上がった英雄への対価は惜しまないつもりだ!」

 「……(ぴくっ)。だ、だまされないよ……お魚の塩焼きなんて出されてもわたしはお魚みたいにつれないし、魚醬ガルムを垂らした巻き貝の炭焼きを出して来ても、わたしの心は貝みたいに閉じたままだよ」

 「……」「……」


 いきなり饒舌じょうぜつに喋り始めたウィータを見て、シーとテメラリアは無言で顔を見合わせる。アレ……これ行けるんじゃね? と、シーが目配せで合図を送ると、「うォっほん!」と咳払いを一つしたテメラリアが口を開いた。


 「嬢ちゃん……因みに好きな食べ物は何だ?」

 「エビ~!」


 即答だった。

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