第14話

 剣人が用意したアプリには各ニーズに沿った名前と年齢が設定されていた。そのうちの二つではミク、中学生活に馴染めていない一年生。昨日十三歳になったばかりということだった。

 ミクとのメッセージやりとりが最も多いアカウント名はケン。長崎市に住む三十代の男性。ミクがケンとのLINEトークを始めた経緯は、ケンの誘導だった。二人はもともと、日本語以外の言語でトークが可能なアプリで知りあった。英語が得意というケンが、ミクに初級英語をトーク内で教えていた。それから日本語で個人的な相談を受け付けるという甘言でLINEアカウントを交換。ケンは後に多言語SNSアカウントを削除していた。そのためLINEメッセージでは日本語と英語が混同している。

 小学校時代の友人とミクの学区が異なること、同じ学区の友人が私立中学を受験したことで他県の学生寮に入り中々会えなくなったこと。加えて中学と同時にミクの両親が離婚したことで父親と会えなくなったこと、フルタイム勤務という母親の負担が家族の時間を引き裂いていること。複数の寂しさがミクをアプリの中で滑舌にしていた。ケンはそれを利用して現実世界での逢瀬に誘導していた。その日が今日、場所はグラバー園の夜道。あくまで保護者代理として夜景を見せるという名目だった。

「実際、諸石さんとこのチビたちはこんこの坂の周辺で解散していたけんから。その中に中溝亜可梨と吉田玲央がいた、ここがキースポットばいだぞ

「そこで一気に解決させるってことや。彼女さんと上手いことやっときながら、よぅよく器用に動かしたばい

 剣人と宇門の霞声かすみごえが止んだ。色めきを隠せない足音が近づいてきたからだ。

「ミクちゃん?」

 ミクでいられることが困難になった。宇門の吐息が返り矢化して喉を貫いた。その声を、宇門はしっかりと覚えていた。

「お前は宇門の」

「ずいぶんと禁欲的な色気を纏うようになったたいじゃん宇留美うるみちゃん」

 カラン……とブレスレットのビーズが囁いた。

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