第48話

「……わかりやすく要点を話してくれ。」


一体何がどういうことなのか。


今の状況ではわからない。


私は静かにレベッセンに問いかけた。


するとレベッセンはひどく話しづらそうに歯切れ悪く話し始めた。


「……どこまでどう話してもいいものか……う~ん……。リーリス。ウェイナ王女がお前の事を特別に思っていることを知っているだろう?」


歯切れ悪く紡がれる言葉。


その言葉の内容には覚えがあった。


レベッセンの一人の妹、ウェイナ王女は凛とした人間が好きだ。


だからレベッセンのように食えない飄々とした男を好まない。


故に従兄弟である私を実の兄のように慕っているのだ。


「あぁ、知っている。実の兄ではなく、従兄弟の私を兄として慕っていることはな。」


ウェイナ王女。


彼女は実に可愛らしい子だ。


いつも「お兄様」と私の前に現れ、目を輝かせいろいろな話を聞かせてくれる。


実に可愛らしい存在で、私も実の妹のように思っている。


(そういえばこの間、国王陛下とお茶をした際に用意してくださったクッキーのお返しをしていないな。近く何か贈り物でも……だが、一応婚約者がいる身でそれは良くないか……?)


いくら王族相手とは言え、婚約者がいる”男”として生きている私にとって王女へのプレゼントは軽率だろうか。


そんなことを考えているとレベッセンが苦笑いしながら話しかけてきた。


「お~い、俺の話の途中に考え事しないでくれないかい?」


流石にこれは申し訳ないと思い、私は咳払いをして「失礼した。」と言葉を吐き捨てた。


「で、だ。今日がお前の婚約者を招いてのお茶会だったことは知っているよな?王女がお茶会で……その……。お前の婚約者殿を、だな……。」


酷く歯切れの悪いレベッセン。


その表情を見て流石の私も察した。


(いや、だが、そんな……)


あの王女に限ってそんな事。


そう思ういつつ私は言葉を零した。


「私の婚約者を試す真似をしたとでもいうのか?」


「……だったら、よかったんだけどな。」


驚きながら問いかけるとレベッセンの表情が悲痛なものに変わる。


そして―――――――――――


「――――――――なっ……!!」


信じられない言葉がレベッセンの口から紡がれたのだった。


その言葉を聞いた私は急いで部屋を飛び出した。


急いで待たせていた馬車に乗り込み、屋敷へと急いだ。


そして屋敷につくなり私は―――――――


「リア!!!!大丈夫か!!??」


作法など忘れ、リアの部屋をノックもせずに開けた。


するとそこには心配そうにリアに寄り添うメアリー。


そして寄り添われているリアの何とも痛ましい姿が目に飛び込んできた。


「……あ。お、おかえりなさい。リン……。」


リアは私を見つけるなり笑顔を浮かべた。


無理して繕われた笑顔。


その笑顔が久しぶりに見る婚約者の顔だった。


(……メアリーには弱った姿を見せていたのに……私には見せられないという事なのか?)


笑顔を向けられ、これほど胸が痛いのは初めてだ。


だが今は私のそんな気持ちなどどうでもいい。


私はリアに近づき、ベッドで膝を抱え込んでいる彼の横に腰を下ろした。


「あ、あの、公爵様……。」


メアリーが心配そうに言葉を紡ぐ。


その瞬間私は苦笑いを浮かべた。


「詳細は聞いた……。すまないが少し、二人にしてもらえないか?」


「……はい。」


メアリーは小さく返事をすると静かに部屋を去っていった。


そして残されたリアは詳細を知っていると私が言ったからだろうか。


痛ましい笑顔をやめ、まるで顔を隠すように私に抱き着いた。


「……なんか久しぶりだね。こうやって肌を寄せ合うの……。」


まるで王女のお茶会で何も起きなかったと言いたげ話題に触れようとしないリア。


そんなリアの言葉を聞いて胸が痛くなる。


「……怪我は、無かったのか?」


怪我はなかったようだとレベッセンからは聞いていた。


だがどうしても改めて聞かずにいられなかった私は静かに問いかけた。


「……うん。」


リアは静かに返事をしながら私を抱きしめる腕の力を強める。


リアはだいぶ色が太くなってきたとはいえまだまだ細く、か弱い。


こんな人間に対して―――――


(王女がお茶会のマナーを知らないといびり、お茶をかけたなんて……。)


私の知る彼女はとても心優しい王女だった。


だが……――――――


(なんであれ、彼女は人を傷つける行為をとった。それは許されることではない。)


この先、リアを王女がいる場には連れ出さないほうがいいだろう。


国王陛下やレベッセンもそういった場での欠席は理解してくれるだろう。


が―――――――


(そうなるとリアの肩身が狭くなる。公爵夫人という肩書はセバスチャン曰く、重いものだというからな……。)


リアにとっての幸せが解らない。


リアを救いたいという思いはある。


それはゆるぎない。


ただすべてが終わった時―――――――


(公爵夫人になることがリアにとって、本当に幸せなのだろうか。)


私はリアが好きだ。


リアが幸せならとても嬉しい。


その幸せがもし私の傍にないのなら……―――――――


(全てが終わったら一度、考えてみるとしよう。)


まだファントムの件もラヴェンチェスタ伯爵の件も何一つ片付いてはいない。


片づけるまでによくよく考えよう。


そう思っていた時だった。


「……リン。久しぶりに……したい。俺を慰めてくれる?」


今にも消え入りそうな声で問いかけてくるリア。


そんなリアの言葉を聞き、静かに彼の頭を撫でた。


「あぁ。いくらでも。」


リアが多くを語らないならそれでいい。


リアが望むことをしてあげよう。


そう思い私は久しぶりにリアと身体を重ねるのだった。

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