第31話

「それでは少々失礼いたします。」


国王陛下と王妃殿下とのお茶会が進むと緊張で少しばかりお茶が進んだのだろう。


お花を摘みに行くと席を立った。


私は同行しようかと聞いたが、城の者に場所を聞くから大丈夫だとリアは一人で行ってしまった。


もちろん、リアの事だ。


変な問題を起こしたりすることは心配していない。


(まぁ、さすがにラヴェンチェスタ伯爵が仕掛けてくることもないか……。)


王城は出入りが自由。


それ故に手引きさえあれば多少、族が入り込めたりもする。


が、入り込めるだけですぐ赤薔薇騎士団に捕縛されるだろう。


ブライアンの事は信用していないがブライアンの部下の事は信用している。


私はとりあえずお茶を一口口に含み、呼吸を整えた。


そんな私に恐る恐る国王陛下が話しかけてきた。


「リーリス……大変聞きづらいのだが……」


言い出しづらいことなのだろう。


しかも国王陛下は王妃殿下と顔を見合わせる。


二人そろって何か言いたいことがあるらしい。


「何でも聞いていただいて大丈夫ですよ。それで?何を聞かれたいのですか?」


表情が曇る二人に私は淡々と言葉を投げかけた。


すると意を決したように国王陛下が話を切り出した。


「彼女の家庭環境は……よくないのだろうか?」


国王陛下は恐る恐る問いかけてきた。


確かにこれは聞きづらい内容だろう。


あまり人様の家庭環境に詮索を入れることはマナーとしてよくない。


が、国王陛下にとっては国民がみんな家族のようなもの。


マナー違反など誰が言うだろうか。


それにこれはいい機会でもある。


「処理をすべて私にお任せいただけるのであればお話します。」


私はティーカップをソーサーの上に置き、お二人にまっすぐと視線を向けた。


二人は一瞬、不安げな表情を浮かべるけれどすぐさま頷いてくれた。


「詳細は伏せますが、リアは年の割に痩せていると思われませんでしたか?

あれでも公爵邸でかくまうようになってから幾分ましになった方なんですが……。」


私は二人に問いかけてみた。


すると二人もやはりリアが痩せすぎだとは思っていたのだろう。


二人は静かに頷いた。


そして、国王陛下が静かに言葉を紡ぐ。


「ラヴェンチェスタ伯爵の家はずいぶんと娘を可愛がっていると聞いている。長女に関してはひどく甘く、またカリア嬢に関しては病弱なのもあるが、その美貌に悪い虫がつかぬよう、あまり外出をさせぬと聞いている。」


国王陛下は自分が知っている情報を私に教えてくださる。


その情報を聞き、私はどうしても笑いが込み上げてきてしまい、鼻で小さく笑ってしまった。


「可愛がっているというのは真っ赤な嘘ですよ。可愛がるどころか、ラヴェンチェスタ伯爵は令嬢を高値で売り飛ばそうと。いってしまえば”虐待”を行っていたのです。」


”虐待”による過度な食事制限。


私はそれを国王陛下に伝えた。


愛情深い国王陛下と王妃殿下はひどく腹を立てる。


まるで今すぐにでも王城にラヴェンチェスタ伯爵を呼び出してしまいそうなほどに。


(まぁ、私の妻となる人物の生家となればお二人にとってもラヴェンチェスタ伯爵は親族になるわけだからいっそう気が気じゃない気持ちもわかるが……。)


「どうか怒りをお納めください、国王陛下、王妃殿下。私とて大事な人がそんな扱いをされてきたという事実を過去だと流すつもりはありません。どうもラヴェンチェスタ伯爵はよくないご友人がいるようで。カリア嬢と結婚したのちに相応の罰を受けていただこうかと。」


婚姻式が終わればリアは公爵家の人間。


実家が没落しようが何をしようが、リアは”公爵夫人”だ。


誰も軽んじることなど許されない存在。


しかし結婚前に罪を暴き、没落させてはリアと私との婚姻に異議を唱えだすものが出てくることもあるだろう。


「まだ時間はありますのでゆっくり、追い詰めていこうかと。」


できるだけリアが傷つかないようにラヴェンチェスタ伯爵を処刑台にあげること。


それが私にできる最大限の事だ。


「……助力は……許してもらえるだろうか。」


私の話を聞き終え、国王陛下がひげをなでながら静かにつぶやく。


「助力……ですか?」


突然こぼされた言葉にとっさに問い返してしまう。


そして陛下は私をまっすぐ見つめた。


「そのあたりの事は黒薔薇騎士団が情報を持っていることもあろう。王命で黒薔薇騎士団にはリーリス・ヴァ―ヴェル公爵を助力するよう通達しようと思う。」


陛下はひどくまっすぐな視線で私を見つめる。


これは私だから提案していることではないというのがすぐ理解できた。


表情が”国王”の表情だ。


(確かに王国としても「ファントム」とかかわる貴族を排斥したいという思いはあるだろうからな……。)


しかし、それでも黒薔薇騎士団は王室の兵。


助力を求めていいものかと悩む。


が――――――


「是非、お願いできますでしょうか。」


感情に任せ、一人で動くには相手が相手。


賢い選択ではない。


そう判断した私はありがたく助力を受けることにするのだった。

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