第27話

「と、いうわけでだな。バッカス元侯爵はお前に自分のたくらみを話したのち、絶望させ、その表情で氷像にしようとしていたらしい。もし抵抗されたときの為に兵も用意していたらしいが見た目で集められた寄せ集めだったそうだ。」


ようやく怪我が治り、久しぶりに城へ出勤することを許してもらうと私はすぐさま皇太子の執務室に呼ばれた。


そして私が疲弊していたが為に任せた後の事を色々報告してくれた。


(どうやらリアが男で、自分が嫁にする予定だったなどの話はしていないようだな。)


最悪、レベッセンにリアの事がばれたところでいずれ王になる身。


私の本来の性別の事を明かし、リアとの関係をも話すことになろうと問題はなかった。


が、まだその時ではないと話していないのもあり、バッカス”元”侯爵が口を滑らす前に処刑されたのはひどくありがたい話でもあった。


……とはいえ―――――――


(そのせいでラヴェンチェスタ伯爵とのつながりは明るみに出なかったか……。)


今回の事はおそらくあの食えない狸に繋がる手掛かりは出ないだろう。


リア殿曰く親しい間柄だったというが―――――――


(バッカス侯爵は財力で人を物のように扱うのが好きな男だった。そんな男がはっきり言って”全財産”とリアを引き換えるとは思えない。リアを手に入れた後、どうするつもりだったかはわからないが―――――)


その企みをあの「ファントム」とつながるラヴェンチェスタ伯爵が知らないとも思えない。


ラヴェンチェスタ伯爵がすべてを知ったうえで泳がせ、私を利用しバッカス侯爵を片付けたとも考えられなくもないが――――――


(バッカス侯爵が捕縛され、罪過が認められると財産はすべて国に差し押さえられる。バッカス侯爵の財産を狙っていたのならばそうやすやすとあきらめることをするとは思えない。)


片づけたい人間を一人片づけることはできた。


しかし、残りの食えない狸がどうも気にかかる。


(さて……どう処理したものか……。)


これといった策が浮かばず、深刻な表情を浮かべてしまう私。


そんな私にレベッセンはひどく言い出しづらそうに言葉を切り出した。


「あ~……その、だな。バッカス”元”侯爵は貴族、平民の嘆願があり即刻処刑が執り行われたわけなんだが……。」


酷く歯切れ悪く言葉を切り出すレベッセン。


一体何を言い出そうとしているのかと首をかしげると彼は不快ため息を吐いた後、

一枚の封筒を取り出した。


「陛下が直々にこの事件に関することをお前に聞きたいらしい。それも、カリア嬢も何故か呼ばれているんだよ。」


「…………は?」


レベッセンは視線を私と会わせようとしないまま用件を話す。


その要件に私はひどく驚いた声を漏らした。


(何故リアが呼ばれるんだ?私だけならともかく、リアが呼ばれる理由なんて――――――)


理由はない。


そう思った次の瞬間だった。


私はその”理由”を思いついてしまう。


「…………聞き取りはただの”口実”、というわけか。」


私は国王陛下の意図を理解し、深いため息をつきながら手紙を受け取った。


「本当にすまない!我が父ながらなんというか……お前の事を実の息子とでも思っているのか、これを気に婚約者の顔を見ようと浮足立ってて……止められなかった。」


「止められなかった半分、お前も乗り気の間違いだろう?」


申し訳なさそうに行ってくるレベッセン。


しかしその腹の中は私には見えている。


止められなかったのではなく”止められないことにした”の間違いだ。


「はぁ……気になっているというなら素直にそういえばいいものを。」


私は不快ため息をつきながら前髪をかき上げる。


するとレベッセンはちらりとこちらに視線を向け、かわい子ぶりっ子した表情で問いかけてきた。


「素直にいったら会わせてくれていたか?」


「そんなはずはないだろう、阿呆。」


かわい子ぶりっ子するレベッセンを容赦なく切り捨てる。


するとレベッセンは不快ため息をつきながら苦笑いを浮かべ「だと思ってた。」と吐き捨てる。


そして何故か今度は不敵な笑みを浮かべ、顎を高く上げて私を見下ろすような視線を向けてきた。


まぁ、実際には私のほうが背がでかくて見下ろせないわけだが……。


(自分の策は誤りではなかっただろう?とでも言いたげな顔で腹が立つな。)


今すぐにでも殴ってやりたいが流石にそれはまずいとこらえる。


そして―――――――


(紹介、か…………。)


呼び出しの真の目的が婚約者を紹介してほしいとのことだと話したらリアはどういう表情をするのだろうか。


嫌がるだろうか。


それとも受け入れてくれるのだろうか。


何にせよ―――――――


(少し……気恥ずかしくなってきたな。)


私が緊張する理由はない。


が、しかし、私は今まで大切な人を改めて近しい人に紹介したことが無いため、

辺に気持ちが高ぶって緊張してしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る