第2話 外界からの青年
新宿の内界
その中心部にある『日本第一都市異能者研究及び育成機関』
通称『第一異能機関』と呼ばれており、敷地内には寓話獣の研究を行う研究棟もつ『研究部』と異能に目覚めた者の育成を行う教育棟をもつ『学園部』があり、現在の技術を集結させて作られた機関である。
超能力者として認定された人は15歳になるとここに入り超能力の使い方を学ぶ。
しかし、超能力の関してまだ分かっていないことも多く、基本的に他の学校と変わらない。
そこの2年生のとある教室
そこに一人の青年がいた。
顔はパーツを見てみると整ってはいるのだが、ボサボサ頭に少し隈のある目と細い体が暗い印象を与えていた。
「よーし。今日は
今は今日最後の授業が始まったところであり、教室の前にいる若い男の先生がプリントを配っていた。
だが、刻にはプリントは配られなかった。
刻は予想通りのことだったので視線を向けてみると先生と目が合い、彼は見下した目で刻を見てきた。
そのまま刻はプリントを配られることなく授業が進んでいく。
それを見ていたクラスのみんなもクスクスと笑いながら刻のことを見ている。
いつもの事だ。
なぜなら刻は外界の人間であり、ハズレなのだから。
空想侵略と呼ばれるようになった寓話獣と宵の侵略。
人類が滅亡するかのように思われていたが、超能力者の参戦によって人類の勝利で幕を閉じたが、その被害は著しいものだった。
参戦者は口を揃えて地獄だったと言った寓話獣との戦い
暦が幻想暦と改められた空想侵略後の世界の人口は空想侵略前の三割にまで減少し、生き残った人々は幾つかの地点に集まって防衛基地として都市を作り、その中で生活をし始めた。
さらに多くの都市が滅亡したことにより、技術力も数世代分衰退する結果となり、都市間での連絡も満足に取ることができなくなり、都市の外は寓話獣と宵の領域と化していたことで人々の往来もなく各都市は陸の孤島のような状態になった。
日本にある7つの都市のうちの一つ、日本復興第一都市、通称『新宿』と呼ばれている。
そこは中心部の内界と外縁部の外界の二つのエリアに分けることができる。
『空想侵略』から数年、世界中で停止してきた国の機能もある程度回復した。
しかし、全員を庇護下にできるほどの力はなかった。
そこで政府は選民を行った。
選ばれた者は都市の内部、
内界は政府の庇護下として空想侵略前と似たように安全な暮らしをすることができるのに比べ、外界は寓話獣の襲撃による危険に加えて政府からの庇護はなく、むしろ険悪な対応をとられることが多かった。
明らかに内界と扱いが変わっていた。
そのことに不満を感じていた人たちも多くいたが、それを行動に移すものはいなかった。
それというのも、空想侵略の地獄のような日々と比べると安全なこと、超能力とその家族もろとも内界へと移住し、外界に武力を持った人がいなかったためである。
それに加えて自衛隊が組み替えられてできた超能力者たちで結成された対寓話獣の組織『
それでも異能大隊の外界に対する防衛はおざなりであったため、寓話獣による被害は多かった。
力を持たない外界の住民は寓話獣によって殺されるか、なんとかして内界に暮らせるようになろうと必死に行動を起こすしかない、そう思われていた。
しかし、予想外のことが起きる。
外界で超能力者が爆発的に増えたのだ。
急激に力をつけた外界の人たちに内界の人たちは困惑し、急遽外界の超能力者を内界でも暮らせるようにする政策をとったが、外界の住民は当初助けてくれなかった政府にいい感情を持っておらず反発。
異能大隊を外界から追い出し、内界の人の立ち入りも拒否するようになり独自に発展。
5年も経つと一応法律上は同じ土地、同じ住民となっていたが、内界と外界はほとんど別の領域になっていた。
そして、一応残された外界の超能力者を内界へと誘致する政策も残されてはいたが、これを利用する者など殆ど存在しなかった。
だが、殆どであって全員ではなく何人かはこの政策を利用した者もいた。
黒鉄刻の母親もそうであったそうだ。
そうだと言うのは刻には外界にいた記憶がないから。
当時幼かったとかではなく、刻は一年より前の記憶がないのだ。
いわゆる記憶喪失である。
なぜ記憶を失ったのか刻自身分かっていない。
それでも1年経てば生活に支障がないくらいになっていた。
だが、外界出身の刻にとって内界の環境は住みにくかった。
内界に住んでいる外界の人間はほとんどおらず、第一異能機関には刻一人であった。
そして、内界の人たちは外界の住民を低脳、野蛮と教えられており、特に生まれた時から内界と外界という区別がされていた若年層にとってはそれは常識となっており、外界出身の刻のことを見下しており、彼の超能力の成績が良くないこともそれに拍車をかけていた。
超能力者が集まっている第一異能機関にいるのだから当然刻も超能力を持っている。
その超能力は『硬化』
体を硬くすることができる超能力で硬化させることで拳一つでコンクリートを砕けるほどの硬さになることができる。
だが、刻の超能力はそこまで硬化させることができず、体が硬くなるのに時間が掛かり、更には硬化させると動きが鈍くなるという硬化の超能力の中でも全く有能なものではなかった。
第一異能機関では刻のように役に立たない超能力者のことを『ハズレ』という蔑称で呼んでいた。
そのことから第一異能機関の生徒たちは刻のことを『外界出身の低脳な野蛮人』として蔑んでいた。
だが、刻もそのことは知っていたが殆ど気にすることなく過ごしており、その態度に彼らが癪に触っていることを彼は知らなかった。
チャイムがなり授業が終わり、生徒たちは各々帰り支度を始める。
刻もまた、ことあとに用事があるため手早く帰る準備をして教室を出て行く。
廊下を歩いていると他のクラスの生徒たちも見えてくるが、刻を見掛けるとみんな嫌な顔をしていた。
「うわ。朝からこいつのこと見るなんて運ないわー」
「ねー。さっさっと私たちの目の前から消えてくれればいいのに」
そんな声が刻にわざと届くように大きな声で言う。
声を出していない周りも同調しており、まるで汚物を見るような目で見てくる。
いつもの事だ。
それでも普通の人なら傷つくだろうが彼は表情を一切変えず通り過ぎていく。
その事に周りは不満を覚えるが、刻に執着するのは無駄だと思い、そのまま彼なんていなかったかのような日常が繰り広げられた。
これもいつもの事である。
そのまま刻は廊下を歩いていた。
しかし、今日はいつも通りには進まなかった。
「おい」
刻の前に大柄な男が立ちはだかる。
そのまま通り過ぎても良かったのだが、目の前に立たれて通行できないため刻は立ち止まり、大柄な男の顔を見た。
彼の名前は
現在積極的に彼をいじめているメンバーの主犯格であり、刻と同じ2年生だが、最近刻と同じ硬化の超能力者として目覚め、ここに編入してきたばかりである。
刻と違って硬化の超能力者としての才能をメキメキと表しており、先生からも注目されていた。
そのような超能力者を刻のような『ハズレ』とは逆に『アタリ』と呼ばれて一目置かれている。
それによって彼は調子に乗っており、最近ではとある理由で刻に絡んではいじめを行っていた。
「なに?」
少しめんどくさそうに返事をする刻に対し剛士はさらに苛立ちを募らせたのか顔が真っ赤になっていた。
「あぁ?
「帰れと言われても僕は歴とした
ちなみに
そこから転じて生まれた内界の人間が外界を貶すときに言う言葉である。
「それはお前の親だろ。その親もとっくにくたばっちまってるんだから、いつまでも内界にしがみついてないで下界民は下界民らしく薄汚いところで暮らしてろ!」
「僕も超能力者だからここに通っているんだけど?それに僕が内界で暮らして良いって言ったのは政府だよ?君は政府の決定に意見するのかな?」
「…っこのっ‼︎下界の人間が俺に指図してんじゃねぇ!」
下に見ている刻からの反論にイラついた剛士は彼を思いっきり殴る。
頬を殴られた刻はそのまま後ろに倒れ、尻もちをついてしまう。
「お前のような体が少し硬くなるだけのしょぼい超能力なんて無いようなものだろ」
刻を見るその目には彼に対する蔑みと優越感に満ちていた。
周りの人は止めようとしない。
それどころか剛士に同調している人がほとんどである。
だが、そうで無い者もいる。
ほんの数人だか刻と剛士のやりとりを見て
そして、怒りを表す者が一名。
「なにしてるの!」
そう言いながら一人の女性が二人の間に立ち塞がる。
彼女は腰まで伸びた黒髪と黒目の美しい女性であり、制服を着ていることから彼女も刻や剛士と同じ学生であることが分かる。
彼女の名前は
彼らと同学年の2年生で、西園寺家は空想侵略前から有名な家系であり、空想侵略時多大な貢献をしたとして内界での居住権を得た、今なお大きな影響力のある家である。
そして、その西園寺家の娘である優璃自身も水を出したり操ったたりできる超能力〈ハイドロキネシス〉の優秀な使い手であるアタリでもあるのだ。
「っ!…西園寺か。何ってそいつに立場ってもんを教えてるんだよ」
突然割って入ってきた瑠璃に少し驚いた剛士はすこしよそよそしく、若干声が上擦った声色になる。
そんな剛士に対し瑠璃は毅然とした態度で彼を見ていた。
「学生同士の暴力は禁止されています」
「でもそいつは下界の人間だぞ?」
「彼は内界に暮らす権利が与えられている内界の住民ですし、外界の人間にも暴力を与えることは法律で禁止されています。それに外界の人間も超能力に目覚めればここに通う権利は与えられています。まぁ殆どの人は断っていますが」
「それは全員こいつみたいにしょぼい超能力しか発現しなかったから身を弁えて辞退したんだろう」
「……はぁ」
剛士はなぜ彼女がため息を吐いたのか理解できなかった。
しかし、次の言葉には反論せざるを得なかった。
「外界で暮らしている人の約八割が超常の力を得ていると聞いていますし、内界より扱いが上手い者もいると聞きます。対して内界の超能力者は全体の三割も満たしていません。それに最近の若者が防衛関係の仕事に就いていないことが政府の中で問題視されていましたよ。30年前、私たちは内界、外界と分けていましたが、今やその関係性は意味がないと言ってもいいでしょう。現状、私たち内界の人たちは外界の人たちに守られているのです」
「な!で、でたらめを言うな‼︎そんな筈はない俺は選ばれた人間なんだ!」
「俺、ねぇ。最近超能力に目覚めて優秀だと言われて有頂天になっているのでしょう。実際に防衛の前線に行って見るといいわ。私の言っていることを理解できる筈だがら。行こ、刻君」
そのまま瑠璃は殴られた体勢のまま動かずにいた刻に手を差し伸べて起こし、そのまま教室へと連れて行った。
瑠璃は刻をすぐに連れ出さなかったのは剛士の意見に軽い怒りを持っていたのもあるが、彼の意見に反発することで、自分に意識を向けつつヘイトが刻に向かないようにと言う狙いがあった。
しかし、瑠璃は理解していなかった。
剛士が自分に恋心を抱いていたことを。
その結果、自分にヘイトが向いていなかったことを。
「あの野郎、下界の人間の分際で馴れ馴れしく西園寺さんと手を繋ぎやがって!」
たったそれだけで刻にヘイトが写ってしまったことを。
『…』
そしてそれを見ていたモノがいたことを。
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