一直線に飛んで行ってほしい
気配がしないとわかるとまず思いつくのは単純な外出だ。玄関へ行くと、その予想通りクッキーの靴がなかった。
散歩だろうか? 買い物だろうか? 果たして、私を置いて外出するだろうか?
とにかく、クッキーがどこで何をしているか気がかりだった。昨日の今日だ。
昨日の思いつめた彼女の横顔が頭に浮かぶと、嫌な予感めいた胸のざわつきが抑えられなかった。
こんな形で使いたくはなかったが仕方ないだろう。
覚悟を決める。グっと手に力を込めた。集中して自分の中を巡っている魔力を手元に集める。幸いにもここはクッキーの家だ。クッキーに馴染むように魔力を糸のように編み込む。
どこにいるかはわからないが、クッキーに届くように。
「テ=トレラ・フォ」
魔力を放つ。クッキーに向けて一直線に飛んで行ってほしいと願って、魔力を飛ばした。この家の扉が勢いよく開き、住宅街を颯爽と抜ける。アクアリウムを超えて、クッキーと再会した海岸沿いが脳裏に浮かぶ。
――途端、プツリと糸が切れたような感覚。
「え?」
思わず声が出た。魔法が掻き消されたという事実を受け止めるまで、私はどれほどかかったのだろうか。
ただ私に会いたくない用事に出ているのならいい。が、もし不慮の事故や、昨日の事を一人で完遂しようとしているならあまりにも見過ごすわけにはいかない。
途中までの足取りは今ので掴めた。急がなくては。リビングのペン立てにささっているペンとメモを取り出し、手短に「クッキーへ。外出してます。帰ってきたら連絡欲しい。——ヨウ」とだけ最低限のことを記した。
クッキーを探すべく、私も彼女の家から出た。どこへ行ったかは魔法で途中まで掴めている。
良く晴れていた。これがあと数週間もしないうちに、廃棄される町だなんて到底思えなかった。確かに寂れてはいるかもしれない。だけど、良い町だと思う。
走るなんていつぶりだろう。とにかく、クッキーの居場所までたどり着きたかった。
住宅街のコンクリートを蹴って進む。頭に浮かんだ糸を手繰るように、クッキーの足跡を追いかけた。
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