今日は一日私に付き合ってよ。

 じゅわじゅわと何かの焼ける音で目を覚ました。どうやら、そのままソファーに横になってしまっていたようだ。身体を起こす。しっかりと服を着替えて、寝ぐせのひとつもないクッキーが台所に立っていた。

 

「おはよう」

 

 クッキーは気配で私が起きたことに気が付いたのか、顔も向けずに挨拶をしてきた。フライパンで何かを焼くのに集中している。何かの焼ける匂いとは別に、珈琲の微かな苦味が鼻孔をかすめる。窓から陽の光が差し込んで机の上のグラスがそれを反射している。鳥の声は聞こえないが、まぎれもなく良い朝だった。大きな欠伸がでた。


「——おはよう」


 壁にかかった時計は、11時を指していた。まだ、眠れる気がする。


「ヨウって布団じゃ寝れない人だった?」

「あ、いや、そんなじゃないんだけど、なんか寝付けなかった」

「そっか。ソファーでは爆睡だったみたいだけど」

「なんか、恥ずかしいな」

「お腹出して寝ているところまでたっぷり見たわ」

「やめてよ!」


 私の悲鳴にクッキーが口を開けて笑った。

 いくら同性の友人だからと言っても、面と向かって言われるのは恥ずかしかった。だが、私だって昨日のクッキーの寝相を知っている。


「クッキーだってお腹出して寝てたよ!」

 

 私の反撃に驚いたのか、クッキーは笑うのを一瞬やめたかと思うと、今度はもっと大きな声でクッキーは笑った。


「じゃあ、お互い様ね」


 なんなんだ。この友人は。完敗じゃないか。クッキーが皿を私の前に置いた。ウインナーと目玉焼きとプチトマトが乗っている。 


「トーストはバターでもジャムでもお好きにどうぞ」

「……ありがとう」


 クッキーが焼きたてのパンを渡してきた。何から何まで至れり尽くせりだ。このまま住み込んでしまうのも、悪くないかもしれない。ありがたく朝食をいただくことにした。

 トーストにバターを塗りこんで口に運ぶ。じゅわりとバターの塩気と小麦の旨味が口いっぱいに広がる。うん。おいしい。


「ヨウは今日どうするの?」


 クッキーがトーストを頬張りながらきいてくる。小さな口でトーストを頬張る姿はなんだかハムスターみたいだ。


「どうって……?」


 何を言われているのか、どうすると言われてもあて・・なんてない。


「あら、研究はお休み?」


 あ、っと声に出かかったがぐっと堪える。そういうことになっているんだ。もう、自分がどこまで何を書いたかうろ覚えの論文の続きをしているという体でこの町に来たことになっていた。と思い出した。


「今日は休みにしようかな」


 なにせ存外、この家の居心地が良すぎる。もとい研究なんて嘘だからだ。


「じゃあ、今日は一日私に付き合ってよ。買い物に行きたいの」


 断る理由はなかった。

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