第46話 【10月16日】

 珍しく長兄から電話があった。「ナオがそっちに行ったんだって?」

「うん。一週間ぐらいって言ってたんだけど、結局二、三日で帰ったよ」ボクは応えた。

「お前は元気なのか?」最近つとに父親に似てきた長兄の声が低くボクの耳に響く。「あいつもなあ…。聞いてるだろ、インドネシア人の話」

「うん」

「親父が珍しくぼやいてたよ。『跡取りが外国人と一緒になるなんて』ってさ」

「兄ちゃんはどうなの?」

「どうって…。あいつはもともと変わり者だったからな。何か嫌な予感はしてたんだ。でも俺は家を出てあいつに跡取りを押し付けた立場だろ。何も言える訳がないよ」 

その言葉はそのまま兄の実直な性格を表しているようだった。

「ボクは良いと思うよ。無責任みたいだけどさ、お父さんだって一時の我慢だよ。『そんなに悪い人じゃない』って電話で母さんも言ってたもん」ボクはわざとあっけらかんと言った。

「うん、そうなんだ。看護師の勉強をしてる人だもんな。そう心配することはないって俺も思うんだけどな」兄は少し持ち直すように言った。

「じゃ良いじゃない。今時国際結婚が珍しいわけじゃないしさ。かえって田舎の方が多いって聞くよ」

「そうだな。まあ、そういうことだな」兄は何か腑に落ちたように言った。「お前、たまには俺の事務所にも来いよ。月の半分は東京(こっち)だから」

 ボクは「そのうち」と明るく応えて電話を切った。なんのかんの言っても、家のこと、両親のこと、そして故郷のことを一番考えているのはやはり長兄なのだ。ボクはいつもの筋トレの後体重の数字を紙にメモりながら、都会の片隅でささやかに奮闘する長兄に胸の詰まる思いがした。

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