I can't live without you.
──レジスタンスは反転攻勢を強め《怪化》した人間の掃討に乗り出した。
***〈Celeste Blue_code:12〉秤屋凛(はかりやりん)の場合***
おかっぱ頭の少女が空中を蹴って東京が一望できる地点まで飛び上がる。青い粒子に包まれた東京全景は妖しげな美しさを放っている。東京スカイツリーは中腹の部分から折れている。そこは初めに《天使》たちが降り立った場所である。《天使》たちは全世界の電波をジャックし、《選別》を行うと宣言した。政府は彼らを敵とみなし東京スカイツリーを標的としミサイルを発射した。命中はしたが、彼らは微動だにせず、《空中銀花》の開花宣言がなされた。開花した《空中銀花》は青い花粉をまき散らし、あっという間に東京は占領された。が、今は《天使》たちはあそこにはいない。少女は何度かそこに行って確かめたが、《天使》たちの痕跡はなかった。そして、人々の《怪化》が始まったのである。
「やっぱり、昨日よりBPの濃度が高まってる.......なんとかしないと.......」
それは、彼女──秤屋凛(はかりやりん)と、東京に住んでいる人類にとっては死活問題なのだ。この青い粒子は濃度が高まると視界だけでなく電波の通りを悪くし、連絡網を遮断される。それによってレジスタンスは連携が取りにくくなり、せっかくの抗戦も散り散りになり効力が薄れる。
空中に留まりながら彼女は対策を考える。レジスタンスのメンバーは日に日に多くなり、今や彼女は1000人近い規模の集団のリーダーとも言える存在になっていた。彼女自身はそんなつもりでは無いのだが、レジスタンスの中では彼女は勝利の女神と言われているのだ。
突然、秤屋の耳につけている特殊な無線機に連絡が入る。
『リーダー! 《怪化》した人間が現れた! 民間人に迫ってる! 俺らじゃ太刀打ちできねぇ! 頼む、来てくれ!!! 場所は江東区の元海浜公園あたり!』
報告を聞くと、少女は空中を思いっきり蹴り、猛スピードでその場所へ向かう。常人ならあまりのG負荷によって内蔵がぐちゃぐちゃになるところだが、彼女にとってはなんでもない。彼女の特殊能力によって護られているからである。
5分と経たないうちに、目的地上空に着く。見下ろすと、異様に濃度の濃い霧がドーム状に海浜公園を包み込んでいる。そしてその中で銃声と、咆哮が入り交じった轟音が聞こえてくる。彼女は迷わずにそこに突っ込んだ。
霧の中に銃を持った見知った男たち──レジスタンスのメンバー達が固まっている。そこ目がけて地面に降り立つ。彼女の姿を確認すると、男たちは安心したように警戒しながらも声を上げる。その中の一人──神田道雄に話を聞く。
「──状況は?」
「民間人は避難させた。だが、ヤツらは止まらない。完全に俺らを標的にしちまってるみたいだ.......うわっ!」
突如、霧の中から巨大な腕が伸びる。が、腕は神田の目の前で止まる。神田が恐る恐る目を開けると、秤屋が手を握り、その周囲の空間ごと腕をがっしりと掴んで止めている。
──秤屋凛の能力は《空間固定・拡散》である。自分の半径数メートル以内の空間を固定する事ができる。固定された空間は圧縮され、秤屋が意識を離すことによって拡散する。それによって、相手を止めたり、吹き飛ばしたりすることが可能である。
「神田! 撃って!」
「おう!」
神田は腕ごと固定された空間に向けて銃を何発か放つ。すると、銃は腕に当たる前に静止する。秤屋が握っている手を開くと、弾丸は速度を上げ腕に炸裂する。グギャア!!!! という叫び声と共に怪物は青い粒子の中に消えていく。
「さ、片付けよう」
少女はそう言うと、残りの怪物たちに悠然と向かっていった。
一匹、また一匹と数が減っていく度、霧が晴れていく。そして、最後の一匹を凛が殴り倒すと、歓声が上がる。
「掃討完了!」
神田の叫び声とともに男たちは雄叫びをあげる。青い粒子は薄れていって、周囲が見渡せるようになる。
「お疲れ様、みんな」
秤屋は一息つき、皆をねぎらう。が、勝利の余韻に浸る間もなく、男たちの顔は浮かない。やがて一人がぽつりと言う。
「秤屋ちゃん、アンタが居ないとオレらはなにもできねぇ.......それが悔しいんだ」
少女はふっと笑うと、再び飛び上がる。男たちはそれを眺めながら、この子がいたら、東京は取り返せる。という確信を胸に抱いた。
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