第11話 姫の誕生日パーティ2
「そういえば」
ゲスールが突然口を開く。
「姫といつも一緒にいた鳥女でゲスが、上級魔族に東の崖に呼び出されて、ボコボコにされてたでゲス」
「スナミちゃん?スナミちゃんは、ど、どうなったのゲスール」
「ゲゲ、羽を全部むしり取られて眼ん玉を潰されて、嬲られた後に溶岩に蹴り落とされてたでゲース。フライドチキンになるかと思って待ってたでゲスが、何も浮いてきやがらなかったでゲス」
「嘘だ、ああ、そんなスナミちゃん。私と一緒にいたから、人間の私と仲良くしていたから殺されたんだ」
うわーーーあああああ。
号泣する姫。
これでゲス、家畜をストレスなく育てて肉の味を高めるように、ストレス無く育てられた姫の絶望も最上級でゲス。
魔族達は姫の叫びにうっとりするのであった。
「さあ姫よ、剣を持ってゴブリンと戦え」
どこからともなく剣が回転しながら床を滑り姫の元で止まった。
剣を持った姫は「私もスナミちゃんの元にすぐ行くからね」
姫は剣の向きを変えて持ち、自分に切先を向ける。
魔王の眼が光る。
「自死することは許さん」
何故だ?これ以上剣を動かすことが出来ない。
「パパをがっかりさせるな姫、先ほどお世話になった魔族の皆さまと言ったな。お世話になった魔族達に絶望、恐怖、悲しみをもって応えよ。それが魔族への感謝だ!」
全然意味がわからない。
「人間が魔族に勝てるわけないわパパ、人と魔族は違い過ぎる」
「お前の父ロランは最後の戦いで、追い詰められる度強くなっていった。あの時のロランの力を持っているとしたら、ゴブリンごときは敵ではあるまい。姫と戦うゴブリンは三匹ずつとしよう。このフロアのゴブリン全てを倒せば姫に生存する権利を与える」
参謀のドゲムは何かを言いたそうにしていたが、そのまま黙った。
「数十匹のゴブリンを私一人で倒すなんて出来るわけない」
姫の近くにいた三匹のゴブリンが前に出てくる。
姫の背丈の半分ほどのゴブリン。
見た目は痩せた年寄りの様に貧弱そうだが固い皮膚で覆われている。中途半端な攻撃では刃が通らない。そしてゴブリンはよく短剣を得物に使う。魔族の中で非力なゴブリンが使うには丁度良い武器だ。ゴブリンは身軽で俊敏なので、フェイントをかけたりトリッキーな動きをしながら一気に間合いを詰め、懐に入って短剣で急所を刺して勝利する。
姫は召使のゲスールとは長い付き合いなので、ゴブリンという魔族を良く理解している。全く侮ってはいない。
私はもう戦うしかないんだ。
剣を中段に構えた姫は、動揺している心を落ち着けゴブリンの動きに集中していた。
それとは対照的にゴブリン達は姫を侮っていた。本気を出さず遊びの延長で手数の多い攻撃を出していれば、いずれ姫は疲れてゆっくりと時間をかけて嬲り殺しできるだろう。
「ぶっ殺せゴブリン。姫のはらわた引きずり出せ」
二階の中級魔族が盛り上がっている。
上級魔族は、姫が何匹ゴブリンを倒すか賭けをしてるようだ。
ゴブリンは側転したり、飛び跳ねたり、姫の方に尻を突き出したりして、完全に舐めていた。
ゴブリンがまだ本気ではないと気付いた姫は、一匹のゴブリンに素早く移動し、思い切り踏み込んでゴブリンの尻に剣を深々と突き刺す。出血した尻を押さえてゴブリンが床でのたうち回っている。
「ケ、ケツが痛え」
会場が大爆笑となる。
「ゴブリン共、本気でやらないと後でわかってるだろうな」3階の上級魔族が嗾ける。
頭に血が上ったゴブリン2匹は、姫に本気で襲い掛かってきた。もし前と後ろで挟撃されたら俊敏なゴブリンを避けるのは無理だ。姫は近くの壁に移動し壁を背にして剣を構える。
前からゴブリンが飛び掛かってくるが、短剣の軌道をよく見ていた姫は、剣の中ほどでゴブリンの短剣を受ける。しかし、これ以上後ろに行けないので、剣の間合いが取れそうもない。
ゴブリンに踏み込まれるまえに移動しなければならない。横目で右を見るとゴブリンが居るが、左を見ると空いてるようだ。姫は前のゴブリンに切先を向けたままま、素早く左に移動する。
しかし、姫は前のゴブリンに気を取られて、左に素早く移動してくるゴブリンに気づくのが遅れた。もうすでに短剣を振りかぶっている。姫は無意識に壁の前の篝火を剣の鍔でゴブリンの方に倒す。ゴブリンの短剣が姫に突き刺さる直前で、篝火の炎がゴブリンに燃え移った。「ギャーーッあつい苦しい苦しいゲー消して消して」
ゴブリンがもがき苦しむ。
篝火に点いていたのは只の炎ではない。久遠の炎と呼ばれる魔王が創り出した対象を燃やし尽くすまで決して消えない炎だった。この炎が点いたものは苦しみ燃え続け灰も残らない。魔王城の至る所で見かけるこの炎を手下の魔族達はいつも心のどこかで恐れていた。
しばらく苦しんだ後ゴブリンは真っ黒になり倒れて動かなくなったが、まだ炎は燃え続けている。
それを見た仲間のゴブリンはすっかり意気消沈していた。
「そこをどいてくれないか君たち」
フロアの奥から声が聞こえた。ゴブリン達を掻き分けて、背の高いゴブリンが姫の方に歩いてきた。白ランを着た金髪イケメンのゴブリンは真っ白な歯を見せながら姫を見ている。
「あなたはナカジマ君」
フフンと笑うナカジマ。
「姫はこのナカジマの美しさに驚いている」
ナカジマは参謀ドゲムに頼み美容整形術を受けていたのだ。
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