第14話
実際に中に入ると清寂した庭園、中も落ち着いた雰囲気。あまりに異世界じみていて驚くばかりのアル。
「静かねぇ」
ただあまりにも静かすぎる。
「お父さんもお母さんも今いないから」
ムーンはこの静けさに慣れており、何事もなく答える。
「ああ、そうか。ムーンって、国の貴族なんだっけ」
アルは、聞いていいのかな、と思いながら家族のことも深掘りする。
「うん、公務の仕事あるしね。私は世界トップの学問を学びに来たのが目的だし」
ムーンは笑顔でアルと会話をする。
貴族は貴族で家族が離れたりするから大変なんだなぁ、と思うアル。
「ええ、前までは家政士さんがいたんだけど今はおばあちゃんと二人っきりよ」
家政士、なんて実在したのか、とやはり世界が違うと一言一言に反応するアル。
「ここが私の部屋よ。どうぞ」
扉はわかるが、あまりにも特殊なので聞くと襖というらしい。それを開けると、
「へえー、広い! 私の部屋の倍くらいある」
アルは自分の部屋の何倍も広いことに驚く。というより・・・
「あれ、貴族って自分の部屋持たないんじゃなかったけ」
アルは以前学校で習った生活様式について思い出す。
「ふふ、それは貴族だけじゃなくってこの学園都市以外の人々全員よ。そもそも個人を重視する世界観なんて大戦前かこの学園都市くらいだもの」
ムーンはぐちゃぐちゃになってる知識を正した。
「へぇ」
ムーンのうんちくにうなずきながら超失礼に部屋を眺める。
まず、目につくのが大量の本。あまりの多さに驚く。
ロストテクノロジーの設計図なんかもある。そして、貴族のような化粧台も・・・ミクロでみれば家族写真が建てられている。
大事にされているんだなぁ。
「じゃあ、ちょっとまっててね」
そう言って、一旦部屋を出るムーン。
その間も部屋中を色々見ていると
『・・・あまり人の部屋をジロジロ見るのは』
グローバーが注意する。
「いいじゃない、珍しんだもん」
グローバーはアルの言葉を聞いて、ため息を付いていた。
よーく見ると、写真立てで一つ写真を隠しながら立てているのがあった。
アルは悪い笑みをする。
「もしかして、彼氏?」
そう言って、一切の躊躇もなく写真立てを元の状態に戻す。
すると
「ぇ、誰?」
それは彼氏とは思えないあまりに年老いた人の写真だった。
動揺していると、
『ああ、グローバー』
頭の中でピンキーのソプラノ声が響く。
つまり、ムーンが戻ってくることがわかった。
彼女の勉強机と思われるところ(書きかけのノートが置いてあるからそう判断しただけで、実際アルの勉強机よりもとてつもなく高貴なオーラを放つ。そのため、勉強机という判断そのものの自信がない)の椅子に座り、待機した。
その間にグローバーとピンキーの恋のオペラが頭の中で開演している。
「本当に、機械なのかしらね。愛をささやきあうなんて」
お茶菓子を用意して戻ってきたムーンは、頭の中で響くオペラにツッコミを入れる。
「ほんと、ラブラブ」
アルは苦笑しながら、頭の中のオペラを評価した。
「私達の中にあるAIって、普通じゃないよね?」
ムーンはアルと頭の中のオペラ歌手たちに尋ねる。
『それは、そうですよ。7機のAIはメタバースを管理するために作られてます。つまり、人間が介入や命令がなくても、今までのディープラーニングから状況を考察し、ある程度自立して対処できるようにできてます。そのうち、私達二人は最高クラスと言われているAIでAIの最も難易度の高い能力を得ています。グローバーは『勇気』、すなわち今までの状況や経験では判断できない事柄でも、突き進めてしまう力。私、ピンキーは『希望』、すなわち悪条件を判断し、それに次の結果として参考にせずに必ず良い結果を見つけ出す力が宿っています』
そして、グローバーは付け足す。
『そして、私達二機だけがその能力を駆使して、純粋に感情を手にしたAIです。その結果として、愛し合う関係になりました。対して、他のAIの特殊能力は、あなたたちが戦うカブキなんかもそうですが、私達までとはいかなくてもそれでも、ウイルスを操ったり、メタバースの世界に異常なほど危害を加えるといった能力を持っているとは本来考えられません。おそらくは5機のAIのうちで、突然変異的にそういった力を得ているものがいるのでしょう』
「優秀なんだか、不優秀なんだかわからない話ね」
アルはその有耶無耶な争いに巻き込まれたことに対する愚痴を込めて、皮肉る。
「でも、これってシンギュラリティじゃない?」
ムーンがよくわからない言葉を発したため、アルは?マークを頭に出す。
「AIが人間の知性を超えることよ。大戦時代にあった言葉でロストテクノロジーになってしまったから、結局そういったことにはならなかったけど」
「へえ」
アルは感心しながら話を聞く。
「そして、私達の世界は現状、特にお金持ちだけだけど事故にあったりしたら「AIを頭に入れる」という療法で、AIに身体の中の原因を突き止めて適切な治療を提供してもらうことだけがロストテクノロジーとなったAIで現在使われてることよ」
ムーンはさらにAIについての知識を付け足す。
「ムーン、って本当に頭いいよね」
アルはただ、その知識を自分の頭に入ってるか、理解しているかは別にしてただ、ただ褒める。
「本で読んだから」
アルの言葉に特にいばることも謙遜もなく、普通に返した。
「まあ、ここまで特殊な力があるから、グローバーとピンキーを欲しがっているんでしょうけど。ただ、カブキ1機だけでメタバース世界だけでなく、わたしたちの世界にまで被害を出せるんだから破壊が目的なら、わざわざ必要ないと思うけど」
そして、ムーンは考え始めると、
「ムーン」
廊下からムーンの祖母の声がする。
「なに、おばあちゃま」
動揺しつつも、祖母の声に答えるムーン。
「お菓子、新しいの焼いたけどどう?」
気を使ってくれていたのである。
「わあ、ありがとう」
ムーンは喜んで承諾する。
部屋に入るムーンの祖母。中に入ってすぐにアルを見る。
「まあまあ、ようこそいらっしゃいました」
すぐにムーンはアルの紹介に入る。
「クラスメイトのミス・アルモック・ジョです」
その後それにすぐに反応し、
「アルモック・ジョです。お邪魔してます」
その丁寧な挨拶の様子をみて、嬉しそうなムーンの祖母。
「まあ、可愛いお嬢さんなこと。祖母のヨンジャと言います。ムーンがお友達をつれてくるなんて久しぶりね。いつも一人で本読んでばかりいるもんですよ」
いつのまにか、新しいお茶菓子とお茶が机に置かれている。
「へえ、そうなんですか」
祖母のムーンの紹介に少し恥ずかしくなり、ムーンが顔を赤くする。
「もう、いいじゃないですか。好きなんですから」
しかし、次に衝撃の言葉が投げ出される。
「それにしても、後二人くらいいたような気がするんですけど」
「「『『えっ・・・』』」」
二人と二機が度肝を抜く。
ただ、仮に説明をしても絶対にわかってくれない。
「あはは、悪いんですけど、これから社会科見学の打ち合わせをするの。ごめんなさい、忙しくて」
ムーンが悪いが出ていくようにお願いする。
「はいはい、解散します」
そう言って、笑顔で部屋から出ていく祖母であった。
部屋を出る直前、
「ミス・アルモック」
アルに真剣な眼差しで声をかける。
「はい?」
アルはその雰囲気に背筋を伸ばした。
「ムーンをよろしくね」
「あっ、はい」
あまりにも普通の発言のはずが、なんだか威厳というか責任の重さというか、そういったことを感じられた。
「では、じゃあ」
その姿に満足気にそのままムーンの祖母は部屋を出ていった。
「一体何だったのかしら」
アルは考え出す。
『考えられるのは、ムーンのお祖母様もAIが内蔵しているのかもしれない、ということだろう』
グローバーの言葉にピンキーは反論する。
『でも、わたしたちの会話が聞けるのって、ストートン側の5機のAIのはずよ』
ピンキーは少なくともアルとムーンのいる世界、すなわち二機の産みの親がいる世界に来たのはグローバーとピンキーだけだと理解している。
「まあ、お祖母様は結構色々不思議なことを感じたりしてるみたいだし。この前のショッピングモールの事故の時も様子がおかしくなる前に私に伝えに来られたりしたもの」
ムーンのこれまた衝撃の発言に戸惑いつつも、ここでアルは一つ思い出す。
「そう思ったら、あんたたち、なんで戦闘中のときに私達の世界のショッピングモールのアナウンススピーカーでショッピングモールの中の人たちに声が聞こえる状態だったの?」
グローバーとピンキーにショッピングモールでの中の様子の中で不思議なことを言っていることを思いつき、AIたちに聞いてみる。
『ん、わたしたちはそんなことをした覚えがないが・・・もしかしたら危機的な状態となり、ここの世界とメタバースの世界の均衡が崩れたのかもしれない』
グローバーは憶測を述べる。
「まあ、わかんないものは一旦考えても仕方ないか」
結局は2つの謎は分からずじまいであった。
ここで本来の目的である社会科見学の準備にアルとムーンは取り掛かった。実際、これから社会科見学が忙しそうになりそうなのは目に見えていたのである。
二人は仲良く取り掛かり、その日はアルの夕食ギリギリの帰宅になるくらい長く社会科見学の栞作りに取り掛かったのである。
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