第19話 王国建国記念日前夜
周辺国の動向が不穏になる中、建国記念日が近付いた。
建国記念日は王国の威光を見せ付ける為、王都では軍事パレードが行われる。
当然ながら、ヴァルキリー達もパレードに参列する。
そして、1か月も前からその為の訓練が行われる。
革命騒ぎがあった為、準備が大幅に遅れているが、それでも間に合わせないといけない。ヴァルキリー達も大慌てであった。
今回のパレードのメインは戦車だ。
先の革命騒ぎでも圧倒的な力を民衆に見せ付けた。
王国軍は国産の新型戦車を参加させる。
数は少ないが、国内産業の技術力を諸外国に見せ付けるためでもある。
ヴァルキリーも国産新型戦闘車を参加させる。
因みにこの新型戦闘車は仔馬を指す『バローテ』と名付けられた。
すでに実戦配備が始まり、軍や警察からも視察を受けている。
王国ではその安さと整備性の良さから、偵察、警備任務に適しているとされ、購入計画が策定されようとしている。
ヴァルキリーは戦車も有しているが、先の革命騒ぎで多くの故障も出ており、バローテの採用と共に、順次、退役させる意向だった。
ヴァルキリー内部でも新型兵装の投入から組織の変更が相次いでいた。
これまでは銃器の修理等は宮殿外の工廠などに送っていたが、戦車や戦闘車などの機械類が多く導入されたことで機械整備、修理が必要とされ、機械工の技能を有したメイドの育成、採用が行われ、新たに機械部が設立された。
先の戦闘で負傷者の救護も戦場において必要とされ、医務室とは別に救護隊がヴァルキリー内に設けられ、メイドの仕事からヴァルキリーの任務へと変わった。
救護隊の鉄帽には赤十字を示す赤の十字架が施され、同じように赤十字の腕章を左腕にしている。彼女達は医務室の看護メイドとは違い、自衛用の武装をしている。ただし、あくまでも任務が救護なので、小銃では無く、腰に拳銃を吊るしている程度である。
ヴァルキリーの規模は1.5倍程度に増加され、1個大隊規模にまで膨らんでいた。これは過去最大規模となっている。
その為、これまでは軍のオマケ程度にしかパレードに参列しなかったが、今回からは一部隊として、参列する事になった。
総指揮を執るモレラ女史は日々、激務に振り回されていた。
宮殿と王城を何度も行き交い、仕事を消化してゆく。
一日が終わる頃にはぐったりとしていた。
だが、それでも目の前の書類は積み重なっていく。
モレラ女史を支えるのは侍女待機室の女官達である。
その殆どは貴族の子弟であるが、事務能力に長けた連中である。
20人近い女官達が書類作成から計算などをしている。
それでも仕事は終わらない。
疲労のあまり、倒れる者まで現れる始末。
それほどに王国建国記念日の祝いの準備は大変であった。
無論、それはメイド達だけではない。
主であるアニエスも同じであった。
新調されるドレス選びから、来賓者のチェックなどなど、王族として、表に立つ以上、粗相は許されないのである。
モレラ女史同様にアニエスも疲労感を表情に出していた。
厳しい訓練が重ねられる。
特に行軍は見た目が重要であった。
一糸乱れぬ動きを見せ付ける事が重要である。
その為の訓練が続けられる。
新たに導入されたバローテの運転席でメアリは緊張していた。
運転席からの視界はかなり狭い。
ほとんど、周囲は見えないと言っていい。
それを確保するのは砲塔から頭を出す車長の役目だ。
彼女からの指示でメアリは車を動かすのだが、車列を乱さぬように走るにはかなりのコツが必要だった。
特に車長との息が合ってないと難しい。
結果、メアリは散々、罵倒されているのだ。
現在、バローテには運転手のメアリと車長のサラ。射手のマッキ。そして、新たに導入された無線機を操つる無線技士のエメラルダが乗っている。
無線機は最新鋭機器の一つだ。ラジオ放送が始まり、無線技術が広まりつつある。
まだ、有線の電話ですら珍しい時代であるが、電波で通信を行う事が出来る。
ただし、音声はまだ、難しい為、トンツーと呼ばれるモールス符号による特殊な通信方法で行われる。無線機自体が特殊な機械である為、それらを網羅した専用の技師が必要とされた為、それらを習得したエメラルダ上等侍女が狭い車内に特別に設けられた座席に座る。
戦闘車両による1分隊は4台。その内の指揮車のみに無線機が設けられ、分隊毎、または指揮所との通信が可能となった。
これは画期的な事だった。
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