第17話 鋼鉄の獅子
革命失敗で王国内の反乱分子は一掃された。
その殆どが他国からの支援を受けた工作員であると判断される。
この混乱での損害は決して低くは無い。だが、それとは別に新たな発見があった。
戦車の功績である。
戦場において、戦車は塹壕突破に有用とはされていたが、市街地において、小型戦車は歩兵に対して、圧倒的な戦力であるとされた。
この事から王国は新たに戦車戦力の整備を行う事を決意した。
それはヴァルキリーにおいても同じであった。
欠陥車と揶揄された1号戦車は確かに有用であった。
小銃弾は装甲を貫通する事は無く、主砲である10ミリ機関砲は遮蔽物ごと敵を貫いた。
故障の問題もあったが、それでも歩兵は戦車に圧倒された。
戦場においては戦車は野砲に負けるとされるが、市街地、ましてやゲリラは野砲など持っていないし、市街地で野砲は扱い難い。
すなわち、無敵なのだ。
王国はすぐに戦車の研究と配備を命じた。
王立工廠は民間企業と連携して、戦車の国産化を目指す。
軍では新たに戦車部隊を創設。戦術研究がなされた。
ヴァルキリーにおいても戦車の有用性は認められたが、やはり、故障の問題と機動性に疑問を抱く。
特に市街地において、無限軌道は石畳の破壊にしか繋がらず、尚且つ、激しい振動で搭乗員の疲労を高めるとされた。
市街地戦が主な役割となるヴァルキリーでは無限軌道では無く、自動車の装甲化に取り組む事が決定された。
すでに戦車が出来る前から装甲車と呼ばれる類の兵器は存在していた。
だが、それは従来の自動車に装甲板を張っただけの物が殆どであった。
ヴァルキリーは専用に設計された装甲車の必要性を求めた。
しかしながら、すでに戦車開発に力を入れている王立工廠にその余地は無く、ヴァルキリーは王国内にある小さな自動車企業のヴァレク自動車株式会社に依頼した。
ヴァレク自動車株式会社は小規模の自動車製造企業であったが、独自に開発した発動機は軽油での高い性能を示し、トラックなどでの売り上げを伸ばしていた。
ヴァレク自動車の代表、アン=ヴァレク子爵は経営者でありながら、技術開発の筆頭であった。
彼はヴァルキリーからの依頼に躍起になった。
確かに時代は戦車であり、戦車開発をする方が良いと思われたが、それはすでに王立工廠や大手企業が独占してしまっており、彼らに付け入る隙は無かったのだ。
だが、装甲車となれば、ヴァレクには勝ち目があった。
そもそも、発動機の多くは現在、ガソリンエンジンである。だが、ヴァレクの開発したディーゼルエンジンは軽油を使う事で、燃料費を抑え、更に高いトルクや燃焼性の低さからの安全性など、戦場を走る車両には最適だと考えていたからだ。
ヴァルキリーからの仕様要望は幾つかあった。
速度は時速40キロ以上。
搭乗員は運転手、砲手、車長の3名。
重量は2トンまで。
装甲は前面が15ミリ砲弾。側面、後方は10ミリ機関砲弾まで耐える事。
砲塔は全周回転可能で搭載する武器は13ミリ機関砲。または10ポンド砲。
これらの要望の中で難しいのが装甲面であった。
仕様に合わせた装甲板となると総重量2トン以下の要求に応えるのが難しくなるためだ。
ヴァレクは装甲面以外の軽量化を考えつつ、試作車の制作に万進した。
仕様書の交付から1か月で試作車が完成した。
無論、試作車故に手作り感は半端が無いのと、未完成な部分は多かった。
試作車は早速、ヴァルキリーの幹部を本社工場に来所して貰い、披露された。
来たのはモレラ女史とサラ、メアリであった。
「まだ、試作車と言う事で、実際に戦車を運用している部隊から連れてきました」
モレラ女史はサラ達をヴァレクに紹介する。
「ご苦労様です。試作車でありますが、我が社のトラックをベースに開発しましたので、走行などは問題がありません」
金属の箱に4つタイヤが付いただけのような車がそこにあった。
「タイヤはむき出しですか?」
サラは大きなタイヤを眺めて言う。
「タイヤを隠すように装甲板を設置する事も考えましたが、大した厚さの板も追加が出来ません上に、パンクなどの交換時に不便になると思いまして」
「なるほど。簡単にはタイヤに弾も当てられないとは思うが」
サラは慎重に試作車を眺める。それからメアリに命じる。
「運転席に座れ、操縦が簡単かどうかを確認したい」
「了解」
メアリはメイド服のままだったが、すぐに運転席に飛び乗る。
戦車に比べて、運転席は広かった。
「大きいですね」
運転席はトラックのまま。つまり、男が普通に乗れるサイズの為、背の低いメアリでは脚などが届かないサイズであった。
「クッションを用意します。あと、調整機構なども考えます」
腰にクッションを置いて貰い、何とか足はペダルに届いた。
操縦自体は戦車に比べて格段に簡単だった。クラッチペダルも戦車に比べれば軽く、ハンドルだけで左右に動かせるのはとても良かった。
メアリ女子も試作車の滑らかな動きに満足した様子だった。
試作車の視察は終わり、第一号車の納品をヴァレクに命じた。
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