第14話 決断
市内各所で銃声が響き渡る。
「奴ら、銃を持っているぞ!応戦!応戦!」
警察官達は数に圧され、劣勢になっていく。
警察による鎮圧が不可能だと判断され、軍が治安維持の為に出動をした。
この流れは宮殿の周囲でも起きた。
銃声を聞いて、駆け付けたヴァルキリー隊は負傷した警察官を救助し、暴徒との戦闘に入った。
扇動されたただの暴徒は銃による応戦が始まった途端、恐怖で混乱した。だが、彼らを盾にして、銃を持った暴徒達は戦闘を継続する。彼らはかなり訓練された手練れの兵士であることは間違いがなかった。
宮殿の周囲でヴァルキリーが戦闘を開始した事はすぐにアニエスにも伝わる。
「暴徒との戦闘が宮殿周辺で発生。暴徒の規模は千人以上だと推測される」
報告を受けたアニエスはその数に驚きを隠せない。
「それほどの市民が暴徒になるとは」
それを聞いたモレラ女史が助言する。
「姫様、あくまでも煽動された者達です。多くはデマによって動かされただけの烏合の衆。実際に戦闘を行っているのは僅かの手勢かと思われます」
「しかし、煽動されているとは言え、彼等も国民。あまり被害が出るのは問題です」
「承知です。国民の被害は最小限に留めるように徹底せよ」
それはこの混乱においてはかなり困難な事だとヴァルキリーを実際に指揮するマリー統括は嘆息するしかなかった。
宮殿の敷地近くにおいて、銃撃戦が行われる。
敵は数人と言ったところだが、混乱した暴徒の群れが射撃を阻害する。
敵は混乱した暴徒の被害などお構いなしで撃ってくるのに対して、ヴァルキリー隊はなるべく、被害を抑えるべく、狙い撃つしかない。
突如、火の手が上がる。火炎瓶であった。
火炎瓶と言っても、アルコールやガソリンを使う程度の物であり、一瞬、燃え上がる程度であったが、それでも混乱した暴徒を更に恐怖に陥れいれる。
「弾薬が足りない。補給を要請しろ」
ヴァルキリー隊は最小限の弾薬しか持ち出せてない為、弾薬不足に陥る。相手は弾数など気にせぬ様子で撃ってくるのだから、少数であるにも関わらず、厄介であった。
宮殿が襲撃を受けている時、国境付近では新たな動きがあった。
グラッカラス共和国の特使が国境警備隊の基地へとやって来たのだ。
彼は政府からの書簡を手にしていた。
国境警備隊の隊長がそれを受け取り、中身を確認すると、そこには王国における民主化革命を憂いて、民主化革命の助太刀の為、援軍を送り出すとされていた。
これを確認した後、特使が馬にて、母国に戻る姿を見送ると、その先には大群が行軍する砂煙が見えた。
国境警備隊から無線にて、王国にこの事が知らされる。
即時に対応すべく、国境付近に配備されている王国軍が出陣するが、すでに相手の方が遥かに早く動いており、国境警備隊が奮戦するも、1時間も掛からずに国境が突破された。
戦争の始まりだった。
戦力で決して、負ける事の無い王国ではあるが、敵はすでに首都にて、革命と称した戦闘を行い、国民の多くが革命に煽動されている現状では戦局は芳しくはなかった。
隣国との戦端が開かれた事はまだ、アニエスは知らない。
現状は宮殿周辺の暴徒を未だに鎮圧が出来ず、ヴァルキリーにも被害が出始めた事に苛立ちを感じ始めていた。
軍が鎮圧に動けば、暴徒は即座に鎮圧されると考えていた。それはヴァルキリーにも当てはまる。暴徒が所有しているだろう武器などたかがしれている。そう誰もが思っていた。だが、想像以上に暴徒の武装は強力で、軍にもヴァルキリーにも被害が続出し、鎮圧どころか、押し返される場面も多々あった。
「おかしい」
アニエスは戦局を知る度に眉間に皺を寄せた。
姫であっても、ヴァルキリー隊を持つ以上、軍事知識は教育される。
圧倒的な戦力差であっても、暴徒がこれだけ抵抗する事に疑問を持たざる得なかった。彼等は負け戦にも関わらず、逃走を始めない。通常ならば、街中へと消えるように逃走を図るはずだ。だが、彼等は徹底的に抗戦をしている。
「彼等は何かを待っている?」
アニエスの言葉に居並ぶ高官達も息を飲む。そして、モレラ女史が答えた。
「不確実な情報ですが、グラッカラス共和国で軍の大規模な移動を確認されたとの情報があります」
「それは以前、聞きましたね。予測では演習では無いかと?」
「はい。演習のための移動・・・だと情報は出回ってましたが、その情報自体、敢えて流されたデマだった可能性も」
「では?その移動している部隊はどこへ?」
「・・・我が王国かと」
「暴徒の加勢に?戦争になると解って?」
「こちらの混乱に乗じて、民主化革命の旗印を上げて攻め入るつもりかと」
「だとすれば、いつまでも暴徒を好き勝手させるわけにはいかない。ヴァルキリー全軍で制圧せよ。抵抗する者は皆殺しで構わない」
アニエスは決断した。この王都で国民の血が多く流れたとしてもそれはこの国を守る為に必要な事だと。だが、その責任は自分が取るつもりだった。
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