第40話大魔女メディオラ


 兄に促されて、大広間の奥に続くプライベートエリアへと向かう。それを他の兄姉たちは憎々し気な目線を寄こしてくる。


 母から直接声を掛けられることなど兄姉たちでもめったにないので、わざわざ名指しで呼ばれたアメリアに対し相当苛立っているようで、憎しみを隠そうともしない。

 とはいえ、アメリアが望んだことでもないのだからどうしようもない。俯いて兄姉たちを見ないようにしてメディオラの居室へと急いだ。


「母上はここ最近ずっと体調不良が続いておられて、仕事は全て断っているため、そろそろ隠居なさるおつもりなのかもしれない。お前が呼ばれた理由は私たちも聞かされていないが……除名したとはいえお前の一応娘だから、引退と何か関係あるのかもな」


 メディオラの居室の扉をノックすると、中から入室を促す声が返ってきた。兄とともに部屋に入ると、ロッキングチェアに座るメディオラの姿があった。

 その姿を見た瞬間に、漏れそうになった驚きの声を必死に飲み込む。


 久しぶりに見た母の姿は、驚くほど変貌していた。


 メディオラはかつて美貌の魔女として有名だったのに、目の前にいる彼女は、肌がひび割れて髪があちこち抜け落ちていて、生気のないその姿はまるで使い古した人形のように見えた。


 七人の子を産んでなお、二十代ほどにしか見えないほど若々しかったのに、会わずにいたこの数年間で一体なにがあったのかと茫然としてしまったが、メディオラが病で臥せっていると言っていたことを思い出して、これはそのせいかと思い至った。


「ああ、あなたがアメリアね。こちらに来て、その顔をよく見せて頂戴」


 久しぶりも元気にしていたかなどの問いかけもなく、顔も覚えていなかったかのような物言いにも面食らう。

 それなのに親し気に近くに寄れと言われ、思わず兄の顔を仰ぎ見たが、顎で『行け』と促されたので恐る恐るそばに歩み寄る。


「髪色も瞳も、私とそっくり同じなのね、良かったわ。あなた魔法は使える? 恩寵は持っているのかしら」

「えっと、ええと……ほとんど、使えなくて……私はメディオラ様の恩寵を受け継がなかったので……」


 持っているも何も、恩寵がないから家から追い出されたのだけれど……と思ったが、余計なことは言わず黙って質問にだけ答えるよう努めた。


「恩寵がないから魔法がほとんど使えないのね。そうね、そうでしょうね。よく分かったわ。ちょっと手を見せて頂戴。ああ、そうね。出口がないから魔法が使えないのね」


 メディオラはアメリアの掌を握ったかと思うと、ひっくり返したり握ったりして観察をしていた。それから、今はどんな暮らしをしているのか、食事はちゃんと摂っているのかなど、子を想う母親のような質問をされ、戸惑いながらなんとか返事をしていると、ようやく満足したらしく、『もう行っていい』と突然面会の終了を告げられた。


 何が何だか分からないまま、下がろうとすると、メディオラはモノリスのほうへ目線を向け、こう言い放つ。


「この子はこの屋敷に住まわせなさい。少し栄養不足だから、食事に気を付けて健康的になるよう丁重に扱って。いいわね?」


「は!? あ、いえ、はい。承知いたしました」


 突然放り投げられた爆弾発言に、モノリスも衝撃を受けていたが、当事者のアメリアが一番驚いていた。

 反射的に嫌だと声をあげようとした口を兄が抑え、勝手に了承の返事をして、アメリアを引きずるようにしてその場を辞した。

 腕をグイグイ引かれながら歩いているうちに我に返り、慌てて無理だと反論する。


「あっ、あの! 私はここに住めないです!」

「母上のお言葉は絶対だ。お前ごときに拒否権があるわけないだろう」


 アメリアの言葉などどうでもいいとばかりに聞き流され、兄は『どうするか……』とブツブツ一人で考え込んでいる。

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