第28話出来損ないの理由
玄関の向こう側はまだ雨が強く降っていて、モノリスは嫌そうに顔をしかめていた。そしてもう一度アメリアを振り返って訊ねる。
「お前、ほんっ――とうに何の能力もないのか? 実は隠しているとかないか?」
「生まれてこのかた恩寵の鑑定を受け続けて、家から追い出される時も鑑定士をとっかえひっかえして嫌と言うほど調べられましたけど、なんっっっにもないと壱ノ家当主様もその目でご覧になったじゃないですか。お忘れですか?」
何百回と訊ねられたことだから、アメリアはかつてないほど饒舌に兄の質問を否定する。妙に早口で返されて若干面食らった様子だったが、まあ期待していなかったがなと呟いてため息をついた。
「分かってはいるのだが……あの母上から生まれたのにどうしても何もないのか理解できないんだよ。まあ、もし万が一、なにかの恩寵が発現したらば、チューベローズ家の筆頭である私に一番に知らせにきなさい。いいな?」
モノリスはそれだけ言うとサッとローブを被って雨の森へ消えていった。それを見送ったあと、アメリアはて扉を閉めた。
「はあぁ~」
緊張が解けて大きいため息をつきながら居間に戻ると、さきほどまでペットの振りをしていた魔物たちが擬態を解いて寛いでいた。
「さっきのってアメリアのお兄さんなの? 全然似てないねー」
「ああ……ええ、まあ」
生返事のアメリアに魔物たちは興味津々で質問責めにしてくる。
「アメリアって家族から絶縁されているの? なにがあったの?」
「つーかめちゃくちゃ馬鹿にされてたじゃん。すげえ感じわりー奴だったな」
あまり話したくない事柄だったが、上手い誤魔化し方が思いつかず魔物たちの勢いに負けて、適当に自分の過去を説明した。
「魔女というのは、母の家系から恩寵を受け継ぐの。でも恩寵をもらえなかった子は、何の才能もないので魔女になれないから、家から除名されちゃうんだよ」
自分は恩寵を持たない子だから家から追い出されたと説明すると、サラマンダーがその話に対して怒りだした。
「んでもアメリアは……ちゃんと魔法使えるじゃん。まあしょぼいけどさ、魔法使えるってことは魔女なんだろ? それなのになんで追い出されなきゃいけないんだよ。人間って、家族の絆とか大事にする生きもんなんじゃないのか?」
「魔法が使えるのは十三の歳まで魔女教育を受けたから。大抵、恩寵がない子は幼いうちに養子に出されるから魔女の教育は受けないんだけど……私は母親がすごい魔女だったから、何か才能あるんじゃないかって言われて……それでありとあらゆる勉強させられたけど、な、なんの才能もなかったから追放された……」
只人はどうか知らないが、魔女の家系は能力があることが最も尊ばれる。血縁は恩寵を継いでいく手段であり、それは情よりも上回る。
「アメリアって才能ないの……? え、嘘でしょ。ちゃんと調べたの?」
ケット・シーが不思議そうに首をかしげる。魔女の事情など魔物にはピンとこないのだろうが、不思議そうにされるのも結構堪える。
「そ、そうだよ。大魔女の娘なんだから何かしら才能があるでしょって言われ続けて、物心ついたころにはもう朝から晩まで勉強漬けの日々だったんだよ。魔法が失敗すると、何故できないのかを責められながらできるようになるまでずっとやらされて、でも上手くできなくて、更に課題が増やされるんだよ。それでも結局ほとんど魔法は使えるようにならなかった。才能の無さが才能だわなんて言われるほど、なんもない、出来損ないの魔女なんだ」
これまで自分の過去を誰かに話したことはなかったが、口にしてみると思った以上に不満満載の言葉が出てきて自分でも驚いた。アメリアの勢いにきょとんとしていた魔物たちだったが、一呼吸おいてどっと笑い出した。
「なにその生活! 囚人なの? アタシだったら一日で逃げ出すわあ」
「なんで我慢してたんだ? アメリアはマゾなのか?」
「朝から晩まで勉強なんて地獄じゃーん」
「いやいやこんなん地獄よりひどいですよ」
ヘルハウンドが地獄は割と就労規則がしっかりしていて、ちゃんと休みがもらえるなどと言い出し、魔物たちが大爆笑している。でもアメリアは己の環境が地獄よりひどいと言われ笑うどころではない。
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