第24話天に召されるほど辛い
薬屋を出てすぐの角のところに、『地獄の料理店』と書かれた真っ赤な看板を掲げた店が見えてくる。辛い物好きがわざわざ別の町から訪れるほど有名になったようで、いつも混み合っているが、すでに数名が店の前で列を作っている。
「……さいこー」
もう漂う香りすら目が痛いほど辛い。
店に並ぶ客も、歴戦の猛者のよう見た目の屈強な男ばかりで、列の後ろにアメリアが並ぶと、すでに並んでいた男たちがギョッとした顔になった。
「……お嬢ちゃん。この店で食事すんのか? あのなあ、悪いこたぁ言わねえ。子どもには無理だから別の店にしな」
アメリアの一つ前に並んでいたスキンヘッドの男性が声をかけてきた。
「あ、だ、大丈夫です。私、一番辛いのでも食べられますから……」
「一番辛いって……10辛の『昇天』のことか? おいおい、嘘だろ……」
店の料理は辛さが選べるのだが、一番辛い10辛は、食べると死ぬ辛さと言う意味で、別名『昇天』と呼ばれている。それをこの少女が食べたのかと、前方に並んでいた男たちも驚いてみんなでアメリアに詰め寄ってきた。
「本当に昇天を完食したのか? お嬢ちゃん嘘はいけねえぜ。あれは店主ですら、『食う奴の気が知れない』とかいうような辛さなんだぜ? とてもじゃねえけど信じられないなあ」
誰かが言った言葉に周囲の男たちはうんうんと頷く。どうやら、大抵の人は5辛でギブアップして、特別辛い物好きでも8辛が限界らしい。だからアメリアが10辛を食べられるわけがないと皆口々に言っている。
「え……そんなに辛いですか……? ちょっと喉が熱くなるけど、そんなに言うほどでは……」
アメリアの言葉に周囲からどよめきが上がる。
「発言がもう猛者のソレじゃねえか……。こんな可愛い嬢ちゃんが激辛食うとかおもしれえなあ。よし、じゃあおっちゃんが10辛奢ってやるから一緒に食おうぜ」
10辛を食べるところをそばで見てみたいから、とひとりの男が言うと、他の者も『俺も俺も』と、勝手に盛り上がり始めてしまった。
いや、一人静かに食べたいから……とモゴモゴ言うアメリアの言葉は盛り上がる彼らには届かないらしく戸惑っていると、最初に言い出した男にぐいと手を引かれて肩を組まれた。
いきなり知らない人に距離を詰められて、アメリアは恐怖で固まってしまった。
声も出せずぐいぐい肩を抱き込まれて、吐きそうなほど怯えていると、ふいにアメリアの腕を別の者がつかみ、男たちの輪から引っ張り出された。
「脂っこい手でアメリアに触んじゃねーよ!」
「バウバウッ!」
アメリアを背中に庇い、男たちを怒鳴りつけているのは、さきほど撒いてきたサラマンダーだった。その横でヘルハウンドが牙をむき出しにして威嚇している。
突然現れた大柄な男と大きな犬に、先ほどまでアメリアを取り囲んで盛り上がっていた男たちはすくみ上って、慌てて謝ってきた。
サラマンダーは男たちをぐるりと一瞥して、アメリアを抱き上げてさっさとその場から離れて大通りに向かって歩き出した。
しばらく無言のまま歩いていたが、サラマンダーは呟くようにアメリアに訊ねた。
「どうして勝手に移動したんだ? 心配しただろ」
「……えっと……」
「まあいいや。とりあえず昼だし飯食いに行こう」
サラマンダーがあっさりと話題を切り替えたので、怒られると思って身構えていたアメリアは肩透かしを食らったような形で、謝る機会を失ってしまった。
だますような形でいなくなったのに、彼らはアメリアを心配して探してくれていたのを思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
でも今更なんて言って謝ったら良いのか分からず、結局アメリアは、小さな声でごめんなさいと呟いたが、彼らの耳に届いたかは分からなかった。
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