「『愛の束縛』。俺様の精液は対象の体質を変化させるほどの特殊な魔力が込められているのは、お前も知っての通りだ」

「ああ、そうだな。こいつが...」

ハナクソ狼は先程俺から奪った精液入りの袋を揺らし、

「多くの魔獣や家畜を、かつて類を見ないほどに凶暴化させ、王宮シキとその周辺を混沌に落としいれた」

それから、俺様を睨む。だが、それはひとまず無視して話を続ける。

「ヴァルドボルグ12世。つまり親父の代に、解析にかけられたことによってこの事実が判明してしまった。出産の時、選ばれた花嫁を孕ませる時以外、外に出ることのなかった精液が……何かの原因で外に漏れたらしい。それからは、不正に精液を手に入れようとする奴が魔族の間でうじゃうじゃ湧いてきた。親父はそれを危惧した」

「なるほど。だんだん話が見えてきたな」

うるせえなこいつ。黙って聴け。

「...そこで使われたのが、『愛の束縛』だった。この魔法は表皮に紋章を作り、生殖器に及ぶ。...心の底から愛されている相手にでなければ、精液を出せないという制約がかかった」

「不正な入手を防ぐためか。なんか、曖昧な定義な魔法だな……だが、ヴァルドボルグ。今のお前にはその制約が掛かっていない。まさか…」

「人の話は最後まで聞くもんだこの野郎。だが…そうだ。お前の察した通りだよ。この魔法は既に突破された。返す返すも屈辱的な思い出だ。俺はもう二度と」

「…おい、なんだ。どうした？黙りこくって」

………。

「もう寝る」

「おい、今一番いいところなんだ。寝ないでくれ。未知の魔法が、未知の方法で突破された。興味が尽きないね」

「喋りたいくないんだよ。察しろ」

俺様がそう言うと、意外な事にやつは目を丸くして、それから、しゅんとしてしまった。

「すまない。その手の気遣いが出来ないと昔からよく言われるんだ。その…すまない」

　以外だ。てっきり、今までのように皮肉であしらわれるとばかり。だが、今がチャンス。この精神的なアドバンテージが取れている間に、なるべく立場を上に保たねば。

「ふん。素直でよろしい」

「それ言われるとめちゃくちゃ腹立つな」

わかりゃいいんだよ、わかりゃ。

「ヴァルドボルグ12世。君の父親が全盛期、突如失踪したのとも何か関係があるのか？」

おいおい、こいつ全くわかってねえな。気遣いゼロか。

「それも後で話させろ。今はいやだ」

「そうか。ほい」

「うぎゃ！！！」

なっ、スーパーデフォルメの魔法！！何故今なんだ！？

「ベッドは一つ。お前から精液貰うっていう目的も果たしたことだし、お前は俺の甲冑の中ででも寝てろ」

「嫌だよ、そんな臭えところ」

「臭くはない。洗浄済みだ」

「それはそれ、これはこれだろうが。誰が人の甲冑の中なんか...」

「じゃあ、俺とベッドで寝るか？」

「誰が！！お前が俺様にベッドを寄越せ！」

「今のお前にそれができると思うのか？続きの話は、そのうちしてくれ。それと、お金稼ぎにクエストを一つやるから、それも大人しく手伝うこと」

「はいはい。わかったよ畜生。今日のところは甲冑で寝てやる」

もぞもぞと、甲冑の中へ。そこに、ボロ切れを何枚か重ね、簡易的な布団にする。暗い、狭い、鉄と汗の混じった匂いがする。地獄のような睡眠環境だ。やっぱり、ベッドで...

「いやいや。誰がそんなこと」

「なんだ、やっぱりここで寝るか？」

うげ。聞いてやがったのか？性格悪いなあいつ。

「断る。今夜はここで寝る」

「そうか。それじゃ、お休み」

そう言うと奴はひらひらと手を振って睡眠に入る。

「クソが」

　股間を撫で、小さくなったブツから汁を垂らしながら、甲冑の腕を通す部分から顔を出し、すぅ、と静かな寝息を立てる奴の足の裏を睨む。乱雑にかけられた薄くてボロい布団から肉球のついた足裏がはみ出ている。

　こんなにも隙だらけだってのに、俺様と来たら…

「ちっ………いつか、お前も狂わせてやる。首洗って待ってろ」

　ふっ、と眠くなる。ああ、一発派手に出した分、反動が来たんだな。

「寝るか。...おやすみ」

そうして、一つ夜があけていく。翌朝、俺様たちはクエストをこなすため、街へ出て行くことになった。