渾神烈騎グラディオス ~Gladi'oath~

志乃木千進

序章

唯一無二の、その”意地 たましい”に懸けろ

#0 相克闘来




西暦20XX年 6月6日 1時36分


日本 関東地方 S県西部


二間市ふたまし 下赤津場しもあかつば "旧開発区"きゅうかいはつく




――――その夜、空の向こうには白銀とも黄金ともつかない、艶やかな真円しんえんが浮かんでいるはずだった。


今宵は満月だった。


ただ太陽光を照り返しているだけと思えない光輝を闇夜に行き渡らせ、その下の有象無象うぞうむぞうをも鈍色にびいろに浮かび上がる。


だが、生憎と今宵は、その模様をじっくり見ることは叶いそうも無い。


何故ならば、空にはすみを吹き流したような暗雲が立ち込め、朧月おぼろづきとなったそれは、本来の眩さを半分も現してはいなかったのだ。


最も、今や随所が人工の建造物で埋め固められた時世では、昼夜問わずに灯る文明の光で、月光が無くとも十分に明るいのだが。




――――しかし、そうでない場所もまた、今も存在していた。


この街にも、それは例外無くあった。


S県郊外の街" 二間市ふたまし "。


首都・東京の西端に接し、周囲を山岳に囲まれた盆地ぼんちにある、中規模のベッドタウン。


昼も夜も、人の営みの灯火が途絶えることのない街だった。


だが、そんな煌々こうこうとした街並みに、常闇のゴーストタウンがぽっかりと存在していた。


周辺の活気とは裏腹な静寂せいじゃくに沈む、影のような廃墟の群れ。


そして、その何者も立ち入らないような沈黙の領域には今宵こよい夜鷹よだかよりもはやく、雄々しく舞い上がる、幾つもの影形かげかたちがあった。




・・・・

・・・

・・




それらはビルの上からまたビルの上へ、時に空中で激突しながらいた。


然り、影形かげかたちの動作とは、まるで重力など振り切ってみせたとりを思わすような、軽やかなものではなかった。


周囲の建物を打ち崩しかねない威力でむことによる大跳躍だいちょうやくが、その正体である。


幾つもの影形は、一様に信じ難い身体能力を発揮し、この世のどんな生き物より高く、速く飛翔し、激突していたのだ。


幾度もの打ち合いの末、やがて示し合わせたかのようにそれらは集結する。


随所にひび割れやフェンス、ブルーシートといったものが放棄されたような、一際大きな廃ビルの屋上。


決着けっちゃくの場に選ばれた其処そこに、影形は”対照的な音”を響かせ、降り立った。


< グルルル・・・・ッ >


重く、激しい音を伴って降り立ったのは、巨大な"獣"けものであった。


うずくまっているようだが、それでも体高2mに達さんばかりの巨躯が、3つ。


月の光に照らされ、それらの手に生やすなたのように肉厚な爪が、ギラリと光る。


闇の中でその全貌は明らかでないものの、それでも一目でそれとわかる異形いぎょうのものであった。


この世に存在する如何なる生物とも合致しない、さながら神話の中から抜け出た怪物達だ。


「・・・・・・・・・」


対して、それらの前へ軽快けいかいな音と共に降り立ったのは、人影ひとかげであった。


長身にしてたくましい体躯を持ったその"男"は、まるで幽界ゆうかいに灯る業火ごうかのような、”くれないひかり”の流動りゅうどうをその身にたたええていた。


さながら心臓しんぞうから全身へと駆け巡る血潮ちしおかのように、光はかれの体表面を脈打みゃくうち、煌めく。


そして、それによって象られるシルエットは、よろいでも着込んでいるのように肥大している。


首筋には、揺らめく火先ほさきの如くひるがえる、幽光ゆうこうを纏うマフラーのような長布。


右腰には刀剣とうけんらしき長い物体を提げて、人影は堂々、仁王立つ。


暗闇で顔立ちは伺い知れない。


だが、まるで火の玉のようにあかく、爛々らんらんと光る"ただ1つの眼光がんこう"が、巨大な獣共を射抜くように見据えていた。


< グオオオオッ!!!! >


<< オオォォゥゥ・・・・ッ!! >>


異形の獣達が唸りを上げ、共鳴する。


どんなたけくるう獣よりも凶暴で、そして生者を絶望の闇へ呼び込むかのような狂騒きょうそうだった。


されど、向かい立つおとこの眼差しは、尚も揺らぐことはなかった。


腰に提げた”細長い物体”へ左腕ひだりうでを伸ばし、そのを握り込む。


<グゥゥゥッ・・・・!?>


刹那、抜き放たれたその刃より、真紅しんくほのおが吹き上がった。


その威容いようを前に、居並んだ獣共けものどもは、まるで弱りきった小動物に変わってしまったように、一様に震え、おののき出していた。




――――男が引き抜いたのは、一振りの曲剣。

いな、大人の背丈に迫る全長を持った、大刀おおがたなであった。

そしてその刃はあかく、あつく燃え盛っていた。

飾り気の無いさやは、黒くただれた岩石がんせきをそのまま削り上げたように無骨なもの。

だが、間違いなく大業物おおわざものと呼ぶに足る鋭い刀身は、赫々あかあかかがやいていた。

空気すらも焼き尽くさんとする、凄まじい熱量ねつりょうが、その正体だった。

まるでそれは、持つ者の熾烈な闘志の具現。

まるでそれは、龍の憤激と共に放たれる火炎の結晶。

尽きること無い炎熱えんねつ神霊しんれい化身けしんごときを、ただかたなしょうしてしまうのはもはや、不敬ふけいとさえ言えた。

それは、りゅう威力いりょくを身に宿す、緋炎《ひえん

》のやいば

即ち、"緋龍刃ひりゅうじん"とたたえるのがまさに相応しいだろう。――――




夜闇をみ、鮮烈に光るその霊刀れいとうに、異形の獣共はおびただしく恐れ、呻いていた。


じりじりと後ずさる異形達。


それを追うように、男は一歩いっぽを進めた。


「逃げようなどと思うな」


<グ・・・・ッ!!>


よく通る、きびしい声が再び響く。


3体がかりの異形達だったが、その宣告に気圧されたかのように身体を更に縮こませる。


男は、それを油断無く、あかい眼光で見据え続ける。


地面に伏せた獣の姿は、まるで土下座でゆるしをうているようにも見えた。


だが、ジャリ、と僅かにつちむ音が聞こえた、その刹那。




< ガアアアアァァァァッ!! >




異形の獣は雄叫おたけびを上げ、男を目掛けて飛び掛った。


6m近い距離があるにも関わらず、男へ肉薄するのに要した時間は僅か一瞬。


いったいどれ程の力が掛かったのか、コンクリートの足場は怪物かいぶつ足蹴あしげりを受けるや、呆気なく砕け、崩れ落ちた。


だが、それを目にしながらもおとこは全く動じることなく、龍刃りゅうじん正眼せいがんかまえる。


< ジャアァッッッッ!!!! >


耳をつんざく咆哮と共に、猛烈な勢いで大爪おおづめが振るわれた。


男のかざした龍刃と接触し、凄まじい火花を散らす。


< ガギィッ!!!! >


空気がぜ、衝撃が砂塵さじんを巻き上げる。


先陣を切ったのは異形いぎょうの内、もっとも身体の大きいものだった。


正面から打ち合った男は僅かに押し戻されるが、すぐに体勢を立て直して龍刃を構える。


生じた一瞬の隙を逃さず、異形は長い腕を下からすくい上げるように振るった。


コンクリートの床を引き裂いて迫るを龍刃で打ち払い、軌道を僅かに逸らせて回避。


そのまま異形の死角しかくへと踏み入った男だが、その構えはそとを向いていた。


その先で爪を振り上げるは、もう一体の異形。


<ガオオオオッ!!>


瞬速で迫る爪腕だが、男はことげに再び弾く。


小柄なぶんはやさにひいでるらしいその異形は、素早く男の動きを追う。


次々と、槍の穂先のように爪が突き出される。


だが、男の体捌たいさばきは更にその上を行き、連撃の全てを見切みきり、いなし、かわす。


間隙かんげきい、独楽こまのようなえんの動きで異形の左方に躍り出る。


そこを狙い、横合いから爪腕の追撃ついげきが尚も突き出される。


最後に控えていた異形だ。


一斉に群がるのではなく、緩急かんきゅうをつけて次々と襲いかかる。


仲間のすきかばい、そして同時にその好機こうき一斉いっせいに仕掛ける。


ただ群れている訳ではない、知能ある連携れんけいがそこにはあった。




龍応顕武りゅうおうけんぶ




だが、この獣共の不運ふうんとは然り、相手がだろう。


男は不可思議な、しかし厳然げんぜんたる宣誓せんせいのような一声いっせいを発した。


玄流げんりゅう


自己暗示のように静かに唱え、意識いしきをその手の龍刃りゅうじんと同じく、熾烈しれつに研ぎ澄ます。


龍刃を正眼に構え、迫る爪腕が間合いに入った、その刹那。


「 鳴応めいおう 」


くれないの剣閃が、螺旋を描いた。


峻烈しゅんれつ回転斬かいてんぎりが、突き出された爪腕をいなしざまに斬り飛ばし、更にその先の異形の身体へも、多数の斬撃ざんげきを刻む。


<グギャァッッッッ>


続けざま、その竜巻の如きのこなしを乗せた、上下二段の袈裟斬けさぎりが駆け上がり、異形を深々と斬り裂いた。


<―――― ッアアアアァァァァッッッッ !!??>


異形は絶叫して転げ回る。


刹那の内に刻まれた、致命傷でもおかしくない幾多いくたの傷。


しかも、その傷痕は龍刃りゅうじんの帯びる高熱で瞬時にかためられ、倍以上の激痛を放つのだ。


まんまと神速の返し技の餌食となった異形を、しかし責めることなどできないだろう。


電光石火でんこうせっかとは、ふせぐどころかそのうことすらも不可能であるのだから。


仲間の悲鳴と同時、1体の異形いぎょう狂乱きょうらんのままおとこの背へ食らいつかんとする。


その口を大きく割り開き、巨大な顎と牙で迫る。


しかし、男は後方への鋭い宙返ちゅうがえりでこれを避ける。


異形はそれに尚も追いすがり、巨大な腕を猛然と振り下ろす。


「遅い」


<ドンッ>


着地ちゃくちを狙った的確な行動だったが、しかしそのうでが叩きつけられる寸前、おとこさきんじて地を蹴り、動いた。


「!?」


激しい音を立てて男に、異形は一瞬、大きく戸惑う。


故に、自らの巨腕きょわんで死角になる後方こうほうで、瞬時に膨れ上がった闘気とうきに反応することができなかった。


<ザシュウッ!!>


背後に回った男の龍刃りゅうじんが、灼光しゃっこうを纏ってはしる。


紅の剣閃は無慈悲に、異形の"右肩みぎかた"をえぐるように斬り飛ばす。

 

<ア"ア"ア"ア"ッ!!??>


肉の焼ける異臭と白煙、そして怨嗟えんさの叫び声が響き渡る。


瞬く間に2体の異形を斬り裂き、圧倒する剣技を見せたおとこだが、しかしこの無残な有様を見ても尚、手を止めようとはしない。


間髪入れず、さきの最も大きな異形へ赫の眼光をばした。


その異形いぎょうは牙を打ち鳴らし、爪を振り翳し、既に狂乱きょうらんきわめた様子だった。


それでも、男は的確に、冷酷なまでに対応して見せる。


刹那、男は右肩を失った1体へ規格外の膂力りょりょくで蹴り込み、最大の異形へと吹き飛ばす。


避ける間もなく激突し、もつれ合う2体。


その無防備な瞬間へ、男は既に肉迫し、間合まあいにとらえていた。


<ギギャッッッッ>


手前の1体は、悲鳴を中途半端に途絶えさせながら絶命した。


剣閃けんせんが2つ走り、1つは異形の首を飛ばし、もう1つは唐竹割からたけわりにその体躯を両断したのだ。


ふたつ」


残った異形は、仲間の死体を跳ね除け、男目掛けて爪腕を突き出す。


だが、その力も速さも、男には通用しなかった。


いとも容易たやすかわすや、男は龍刃のきっさきを異形の胴体へ突き刺す。


ひとつ」


間髪入れずにやいばえぐげて異形の正中せいちゅうを引き裂き、止めとばかりにその顎を蹴り飛ばす。


一瞬の連斬に、自分のすら理解しがたいようにもがいた異形だったが、しかしやがててんあおいで重々しく倒れ、絶命する。


果たして、廃ビルの屋上はもはや焦熱地獄の様相ようそうを成していた。


この世のものと思えぬ怪物かいぶつが八つ裂きにされて転がり、その凄惨せいさんな切断面からは高熱のけむりと、胸の悪くなる異臭が立ち上っている。


その中でも、やはり男はその眼光がんこうを少しも揺るがせる事なく立っていた。


淡々と、もはや死に体となってのたうつ最後の異形へ、厳然げんぜんとしてを進める。




「消え果てろ。

現世げんせを蝕む"晶獣しょうじゅう"を、俺達"威武騎いぶき"は決して見過ごさん」




だが、その時。


その足取りは、なかばで不意に止まっていた。


神速の剣技に斬り刻まれ、片腕をも落とされた異形は、息も絶え絶えながらに立ち上がっていた。


その、”あかひか双眸そうぼう”は殺意によって満たされ、未だ衰えを見せてはいなかった。


「逃げずに来るか」


男は、冷ややかに呟いた。


「――――それほどに、ひとにくむか、けもの


その時、どこまでも苛烈に戦ってきた男の”あか眼光がんこう”に、僅かながらに感情かんじょういろめきが、寒々しく揺れていた。


だが、それもあくまでほんの一瞬いっしゅんのことだった。


薄く降り注ぐ朧月おぼろづきひかりの下、龍の刃を携えた男は再び歩む。


その様はまるで、罪人を裁かんとする死刑執行人。


あるいはまた、地獄道じごくみちを往く修羅しゅら威容いようであった。


<グ・・・・オ・・・・オォ・・・・ッ>


男は、どこまでもたぎ灼炎しゃくえん刀刃とうじんを、頭上まで掲げ、腕に力を込める。


「逝け」


そして、爆ぜる火炎の音と共に、龍刃は振り下ろされた。


猛然と、直下ちょっかはしるる刃が、異形の頭部へ突き刺さる。




< グオオオオォォォォッ!!!! >




――――その寸前。


突然に、男の背後に新たな異形のけものが降り立ち、爪を唸らせながらおどりかかった。


明確にきょかれてしまった男は、側面へ大きく踏み込んで回避せざるを得ない。


だが、その間に手負ておいのけものは失ったうでを庇いながら逃走を図った。


即座にそれを追おうとする男だが、その前に乱入らんにゅうしたもう1匹の獣が立ちはだかる。


男は、堪りかねて大きく舌打ちをしていた。


感傷かんしょう、か・・・・愚かしいな」


おのれの”らしくない失態”に毒づきながら、男はふといた右手みぎてを上げ、横合いにかげした。


するとその途端、一瞬のひかりまたたいたと同時に、まるで魔法のように”新たな武器”が現れ、逆手さかてに握られていた。




――――それは、三日月型みかづきがた肉厚にくあつやいばを、手当たり次第に刀剣とうけんに仕立てただけ、という風な無骨ぶこつな武器であった。

鈍く光る1枚の鉈刃なたば後端部こうたんぶをくりき、あつらえた太く握り込めるの他に、特筆すべき点はない。

つばに当たるものすら無く、柄尻つかじりまで伸びた刀身が環状の護拳ごけんに見えなくもない、という程度。

即ち、かざなど微塵も無いに代わり、重厚さと強度とを極限まで追求した、全くもって正しい"武器ぶき"の姿がそこにあった。

左手に握る、火神かじん宝具ほうぐの如き龍刃りゅうじんとは、なんとも対照的。

刀剣とうけんという道具どうぐの歴史、そしてそのかくの部分のみを見出し、削り出したのような頼もしい戦鉈せんしゃだったのだ。――――




男は、それら2つを構え、征矢そやのように乱入者のふところへ飛び込む。


「玄流」


その軌跡に、鮮明すぎるほどの紅い残光ざんこうを描き、双刃そうじんは奔る。


あたかも怒れるりゅう一咬ひとかみかのように、刃は急速に交差こうさし、異形の獣へとつらなり、突き刺さる。


「 裂咬れっこう 」


瞬間、くれないひらめきが起こり、強烈な熱波と衝撃が吹き上がる。


灼炎しゃくえんけん重鉄じゅうてつやいばの激突が大気たいきじ斬り、その断面に狂おしい爆炎を生じさせたのだ。


< ギャアアアアッッッッ!!!! >


尋常ならざる”火力”を受けた獣は、一溜まりもなく身を砕かれ、上半身を欠損けっそんさせられながら息絶える。


しかし、容赦ない男の武威ぶいは未だ止まず、続けざまにそのを逃げ延びようとする獣へ向けた。


<グオォッ!!!!>


そいつは、瞬く間に同族を葬った男を警戒し、のは諦めたらしい。


男から距離をとって威嚇する姿は、逃げ腰と言うよりなにかを仕掛ける”機会”を伺っている様子だ。


すると突如、異形はあごを大きく開いた。


そこから吐き出されたのは咆吼ではなく、人の頭程もある"何か"。


その物体ぶったいは弾丸のように高速で飛翔し、真っ直ぐに男へとせまる。


は奴らの”切り札”。


当たれば、コンクリート程度なら簡単に撃ち抜く飛び道具だった。


もちろん、そうとっている男は、迷うこと無く突進とっしんした。


龍刃を振るい、飛翔物を真っ二つに切り捨てる。


おそらく、これは単にげるための布石。


向こうもで仕留められるとは思っていないことだろう。


しかしながら、もしも他の何かに当たって無用むよう被害ひがいが出ないとも限らない以上、無視は出来ない。


狙ってやっているのかどうかはともかく、"足止め"としてはわりに有効な行動ではあった。


但し、それが”結果”に結びつくかどうかは、別の話である。


神話の怪物をも蹴散らす、武神ぶしんの如きこの男にとり、それも悪足掻わるあがきにも満たない小細工でしかない。


そして、刹那せつな


男の身体を紅色くれないいろ極光きょっこうが包む。


稲光いなびかりの如く、見る者の目を眩ませ、一瞬の眩惑げんわくをもたらす。


そして直後、男の姿形すがたかたちは其処からえていた。


あたかもそれは、夢の景色がまぶたを開けばえてしまうかのように。


姿も影も、身に纏うくれない残光ざんこうすら残さず、男は忽然と消え失せていた。


異形はそれに惑わされ、動きを鈍らせる。


そして、消え失せた筈のおとこが、瞬時しゅんじに異形のに現れ出たのは、それとほぼ同時だった。


ね」


十数mの距離をにし、死角を取った男の一太刀ひとたちが、力強く振り下ろされる。


龍刃りゅうじんは、混乱のただ中にいる異形を迅速に両断した。


焦熱のあかい軌跡は相手に悲鳴すら上げさせること無く、最期さいごを与えたのだった。




「・・・・殲滅完了」




果たして、男は徐ろに2つの刃を下ろしていた。


不思議な事に、その身体にはいままで凄絶せいぜつに仕留めてきた異形達の返り血のたぐいなどは、一切無かった。


いや、それだけではない。


静寂を取り戻したそのには、気付けば斬り裂かれた怪物のむくろ、肉片や血の一滴いってきすら、どこにも見当たらなかった。


ただ、地面に刻まれた幾つもの刀傷かたなきずだけが、その場に”何か”が存在していたと示すようにっていたのだ。




「・・・・しかし、未だ氷山の一角、か」




舌打ち混じりに男が呟いた途端、辺りの明るさが増した。


月にかかる雲が晴れたのだ。


すると、まるでそれにらされ浮かび上がったかのように、廃墟はいきょでは無い"生きた街並み”が、男のに写っていた。


ひとの営みの光が煌々こうこうと灯り、多くの命が息づく街。


そして、今やこの世ならざる"モノ"すらも跋扈ばっこする街。




「・・・・逃がしはせん。

この世は、彼奴きゃつらの在るべき場所ではない。

それを示すが、俺達の”宿命”であるのだからな」




・・・・

・・・

・・




――――今宵、この時。

この場で起こった、超常ちょうじょうたたかいとは、ただ”呼び水”である。

それは、宿命しゅくめいによって遥かいにしえより続く、つぶいの一端。

それは、この世を呑み込まんとする大きな災禍さいかの始まり。

そして、決して侵されぬべき平穏をまもらんとした、強きちかいの息吹いぶき

ひとけもの、対極の存在のぶつかり合うところ、数多あまた因果いんがの集いゆく。

有り得ない筈の出会いが起こり、旧き宿縁しゅくえんに逃れ得ぬ決着が訪れる。

それはまた、ひとが”ひと”として生きる為の想念そうねんの在ればこそ。

いざ、今、紐解こう。

これは、戦いの先にひかりを求む者達が、刻み込む伝説。

ゆずれない核心のもと邪妖じゃようくだし未来をつむぐ、 勇壮たる戦記。

 ”意地”と、"力"。

これを誓いて戦う者Gradi'oathの、つづ凱歌がいか。 ――――



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