第67話 別方面での襲撃
メリアが星系間を移動するためにワープゲートを目指している一方、ファーナやルニウのいるアルケミアの船内では、新しい部屋の用意が進められていた。
なんでも屋の新しい仕事として、訳ありな子どもを一時的に預かるというのを、事前に知らされていたからだ。
「よし、掃除はこの辺りで済ませるとして、細々とした物は……本人が到着してから聞けばいいか」
「ルニウ、洗濯物の乾燥が済んだので畳んでおいてください」
「はーい。乾燥機はいいよねえ。学生の頃、乾燥機が壊れたせいで部屋干しすることになったけど、その日は少し雨が降ってたこともあって臭くなったし」
洗濯物を取り出しながら、ルニウは自分が学生だった頃の話をする。
「学生とは言いますが、どのような学校でした?」
「いやいや、履歴書にばっちりと書いたのに。セレスティア帝国の有名なところなのに! ファーナも目を通したでしょ?」
「……今再生します」
「ま、まさか、覚える価値もないとか言ったりしない? うぅ、そんな扱いなんて私は悲しい」
わざとらしい演技を交えつつ、そこまで悲しくなさそうに言うルニウに、ファーナはやや面倒くさそうな態度で接する。
「わたしでもちょっとどうかなと思うことを、あの時メリア様に語ったのが悪いのでは?」
「いやいやいや、ファーナがあんな質問をしてきたから、話す流れになったんでしょうが」
言い合いをしながらも、作業自体は問題なく進んでいく。
そしてすることがなくなったあと、船内の食堂で向かい合うように座ると、ルニウから口を開いた。
「あとはメリアさんが到着するのを待つだけ。というわけで、さっきの続きから」
「わざわざ話さなくてもいいのでは?」
「だって退屈だし」
「……とりあえず聞くだけは聞きます」
ファーナが動かす少女型の端末は複数ある。
そのうちの一つを話し相手として置きつつも、残る端末はメリアからの連絡が届くのを待ったり、周囲に怪しい船が近づいていないか警戒していたりする。
「んん……私は両親に求められて、とにかく良い学校に入りました。親のために一生懸命勉強して、より上を目指し、その結果、大学を二十歳の時に卒業するに至ったわけです」
「それなりにあることですね」
宇宙は広く、それぞれの国は数百億もの人口を抱えている。
これほどまでに人がいるなら、飛び級できるような者はそれなりに出てくるため、ファーナは当たり障りのない感想に留めた。
だが、ルニウにとってそれは期待していた反応ではないのか、自分が入った大学についての話に移り始めた。
「ただの大学じゃない。帝国の首都星セレスティアにおいて、一番難しいとされるファリアス大学で早期に卒業したんです。大昔の、えー、なんとかという皇帝陛下が設立した大学で、遺伝子調整の有無は関係なく、とにかく色々な部分が優れた者だけが入って卒業できるところなんですよ!」
「確か帝国では、遺伝子に手を加えた人は忌避されたはずですが。というか名前を忘れるのはいかがなものかと思います」
帝国貴族は、遺伝子調整をしていない者に限られている。もし結婚などしようものなら、貴族の地位を剥奪されてしまう。
それゆえに、帝国貴族は遺伝子調整した人との関わりを避ける傾向があるのだが、ルニウはにやりとした笑みを浮かべた。
「それは表向きのこと。ファーナが知ってるのは、表に流れてる情報だけでしかない。結局、貴族としても優秀な手駒が欲しいわけで。能力があって忠誠心もあるなら、遺伝子調整なんかどうでもいいという貴族はいるわけですよ」
「そういうことを口にするルニウは、良さげな貴族がいなかったようですが」
良い大学を卒業しても、海賊となった末にここにいる。
ファーナがそれを指摘すると、悩ましげな表情が返される。
「それはまあ、仕えてもいいかなと思える人がいなかったのが悪い」
貴族に仕えることができれば、帝国の一般人よりは良い生活が送れる。裕福な経営者には届かないとしても。
だが、ルニウはそれを選ばなかった。選べなかった。
「ずっと上を目指して色々頑張っても、私以下の人しかいないのに。そう考えた結果、適当に宇宙を巡る仕事をしようとしたら、海賊だったというわけですよ」
「なかなかに無茶苦茶では? いくらなんでも適当過ぎます」
「いやあ、そういう年頃だったもので」
本心であるのか、誤魔化しであるのか。
どちらにも思えるルニウの様子に、ファーナはわずかに目を閉じる。
「……しばらく前、カミラという者を排除したあとのことですが、メリア様のところで働きたいと言いました。あの言葉には、どれだけの嘘がありますか?」
「両親に知られることはどうでもよかった。この人は私よりも上の人間だ。そう思えたから、とにかく近くにいたかった」
そう話す姿に、嘘は感じられない。
ただ、面倒くさい人物であるという印象は強くなった。
しばらく無言のまま、お互いに見つめ合うが、突然船内が揺れたせいで、それどころではなくなる。
アルケミアは一キロメートル級の大型船であり、シールドや装甲は大きな船体に見合ったものがある。
にもかかわらず、中にいる者が自覚できるほど揺れてしまうのは、明らかに異常だった。
「……これはまずいです」
「ファーナ、いったい何が?」
「光学迷彩のある船が、このアルケミアを攻撃しています。しかも特殊な弾頭を使っているのか、シールドを貫通して砲台が潰されている状況です」
「あーあ、どこの誰が仕掛けてきたのやら。メリアさんが戻る前に仕留めないと」
なかなかに厄介な状況だが、ルニウは鼻歌混じりに格納庫へと向かう。
ファーナの方は、相手が内部に侵入するのに備えて各種ロボットを起動させつつ、アルケミアの残存する武装で反撃を行う。
相手は透明で姿が見えないが、どこから攻撃が飛んできたかはわかる。
大型船だけあって、大量にある砲台が火を吹くと、光学迷彩によって隠れている船が何隻か爆発を起こしてバラバラになる。
「ルニウ、船内での戦闘に備えてください」
「あー、もしかして突破されちゃう?」
「初手で砲台をいくらか潰されたせいで、迎撃が追いつきません」
「了解、格納庫付近は任せて……っと、言ってる間にお出ましだ」
アルケミアは加速するも、大型船だけあって速度が出るまでには時間がかかる。
その間に次々と何者かがアルケミアに取りつき、内部へと侵入してくる。
ルニウは格納庫内部にある人型の作業用機械に乗って火器を選んでいるところだったが、格納庫の扉はそこまで分厚くないため、すぐさま敵と遭遇してしまう。
「あらら。パワードスーツに機甲兵、お金ありそうなところが襲ってくるとは、ね」
小型の機関砲を撃ち続けながら横に薙ぎ払う。
これで第一波は蹴散らせたが、後続となる者が次々にやって来るため、ほどほどのところで後退するしかなくなる。
「ごめん、格納庫はこれ以上無理。放棄する」
「それでは、他のロボットと共にどうにか足止めを。まずは包囲から脱出します。その後、内部の掃討に移るので、すぐに脱出を」
「おお、怖い怖い」
味方はわずかで敵は大勢。
そうなると、どのような手段を使おうが問題は起きにくい。
ルニウはわざとらしく怖がってみせたあと、ビームガンに持ち変え、船内の通路で撃ち合いに徹する。
「ファーナ、何が起きてる?」
少しすると、アルケミアのいる星系に到着したメリアからの通信が入る。
遠く離れていても、レーダーによって戦闘状態かは判別できるためだ。
「メリア様、謎の襲撃者と戦闘の最中です」
「手伝おうか?」
「いえ、必要ありません。包囲を抜けたあと、一掃する手っ取り早い方法がありますから。実行する際、船内に人間の味方がいると巻き添えになるので、途中でルニウを放り出します。メリア様の方で回収してください」
「……もうこの時点で恐ろしい方法が思い浮かんだわけだが」
「それは見てのお楽しみです」
「見たくない惨状になるだろうに」
アルケミア内部に侵入してきたのは、およそ百人近く。
入る前に迎撃したものや周囲にいる船を含めれば、数百人が今回の襲撃に参加していることになる。
普通ならば焦る状況だが、ファーナは至って平然としていた。
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