3章

第61話 なんでも屋としての初仕事

 銀河には大勢の人々が暮らしている。

 居住可能な惑星以外にも、宇宙空間に存在するコロニーや、小惑星を利用した基地などにおいて。

 それだけ大勢の人々がいれば、当然のように数多くの問題が発生する。


 「なにい!? 飯が奪われただあ!?」


 ホライズン星間連合は、帝国という強大な相手に対する寄り合い所帯であり、帝国から共和国が分離してもそのままの体制を維持している。

 だが、その実態は複数の国がバラバラに動いていると言えるような有り様で、それぞれが独自に未開拓な惑星への入植を進めていた。

 そんな惑星の一つでは、軌道エレベーターの建設が地上と宇宙の両方から行われていたのだが、宇宙の方では通信機に対して怒鳴り声が響く。


 「はい。皆様のために用意した一週間分のミールキットですが、輸送していた船が海賊に狙われまして」

 「待て待て待て。じゃあ次の輸送船が来るまで、今の食料だけで耐えろと? 地上と宇宙の労働者、船や車両の操縦、オペレーター、護衛の船にいる者たち。それらを合計したおよそ一万人。とてもじゃないが足りんぞ!」


 未開拓の惑星への入植を進めるためには、軌道エレベーターの建設は必須。

 宇宙から大気圏へと突入し、再び宇宙へと出ていくというのは非効率であるがゆえに。


 「耐える……そうなる可能性はありますね。ならない可能性もありますが」

 「その言い方からすると、そうならない可能性について詳しく聞きたいが」

 「一万人分のミールキットを一週間分。そんな大量の積み荷がある輸送船を、海賊から取り戻すよう依頼を出しました」

 「どこに?」

 「ここ最近現れた、アルケミアというなんでも屋に。大型船一隻と小型船二隻があるので、試しに依頼してみた次第です」


 平然と返される答えに、建設現場の責任者たる男性は怒鳴りそうになるも、それはギリギリのところで気合いによって止められる。


 「……星間連合の軍を動かすのは手続きなどで時間がかかる。だからといって、そんな怪しげな奴らに頼るのはどうなんだ」

 「上手くいけばよし。上手くいかない場合は建設が延期されるだけ。そうでしょう?」

 「……とりあえず、上手くいかないのを前提に予定を組むぞ」

 「お願いします」


 現場の苦労というのは、そのまま伝わることはない。通信機越しではどうしても薄まってしまうものだ。

 そのせいか、現場の責任者たる男性は通信が終わったあと、苛立たしげに席を立った。




 軌道エレベーターの建設現場から遠く離れた宇宙空間。

 同じ星系内とはいえ、恒星を挟んだほぼ真反対側という、だいぶ離れたところにある巨大なガス惑星の周囲では、複数の宇宙船による戦闘が起きていた。


 「ファーナ、例のターゲットの位置は?」

 「未だにガス惑星のリングから出ていません。このまま追い込めばいいかと」

 「よーし、ルニウはファーナと共に外側にいる奴らを相手しろ。あたしは内部から仕掛ける」


 ガス惑星の周囲には、大小様々な小惑星がリング状になって漂っている。

 それなりの密度があるため、レーダーはあまり効果がなく、内部に潜れば自分の目しか頼れるものはない。


 「あの、なんで最初の仕事が海賊とやり合うことなんですか。これじゃ前とあまり変わらない気がします」

 「うるさいね。何かの大会に遅れるからといってタクシー代わりに利用されるよりはマシだろ」

 「それはまあ……依頼料も違いますけど」


 二十万食以上のミールキットが積み荷となっている輸送船。

 海賊に奪われたその輸送船を無事なまま取り戻してほしいという依頼を受けたため、メリアはこうして奪還に動いていた。

 もしこの仕事がなければ、もっと微妙な仕事を受けるしかない状況だったのだ。


 「さて、話してる間に海賊を見つけた。通信は終わりだよ」


 わざわざリングに隠れるだけあって、海賊の規模はわずかなもの。

 軽く牽制の攻撃をするだけで逃げ出すが、徹底的な追撃をしたりはしない。

 目的は海賊の討伐ではなく、奪われた輸送船を積み荷ごと無事に取り戻すこと。

 罠に警戒しつつ、あとを追うメリアだったが、しばらく宇宙での鬼ごっこを楽しんでいると突然船に衝撃が訪れる。


 「罠があるということは、そろそろか」


 衝撃はそのあとも続き、船を守るシールドの残量はどんどん減っていくが、少しすると罠は尽きたのか衝撃はなくなる。

 メリアの操縦しているヒューケラは定期的な改修が行われているため、普通の船よりは強固なシールドをしている。

 正規軍の軍艦と比べれば劣るが、海賊相手なら十分な性能であるわけだ。

 計器でシールドが回復していくのを確認しつつリング内部を強引に進むと、意図的に人の手が加えられたやや広い空間へと出る。

 そこは海賊による簡易的な基地となっているようで、二隻の海賊船と一隻の輸送船を発見することができた。


 「そこの船、見逃してくれないか?」

 「輸送船を積み荷ごと返すなら」

 「それはできない」


 通信が入るも、すぐに交渉は決裂。

 宇宙船同士での撃ち合いになるも、メリアは今の座標をファーナたちに送る。

 すると、リングを貫くようなビームの雨が降り注ぎ、海賊船はぼろぼろになったあと降伏を申し出た。

 これにて輸送船の奪還は成功するも、まだ大事なことが残っている。

 それは、積み荷がどのくらい無事か確認すること。


 「ルニウ、海賊船がおかしな動きをしたら撃っていい」

 「ふう……それはそれで緊張しますね」

 「ファーナは輸送船内部の調査を。もしかしたらまだ抵抗するのがいるかもしれないから」

 「では、端末を複数送り込みます」


 輸送船をアルケミア内部に格納したあと、人工知能であるファーナの操る端末が、輸送船内部へ侵入していく。

 少女の姿をしながらも、その性能は圧倒的。

 機関銃を撃ち込まれようが、ビームを当てられようが、まともな損傷を受けないほどの耐久力。

 それゆえに危険な調査を任せることができる。


 「生命反応は……無し」


 大量のミールキットを保管するためなのだろう。内部は冷凍庫のようになっていた。

 出入口近くのは減っているため、既にいくらかは海賊に食べられてしまっているようだった。

 それから数分ほど、複数の端末があちこちを移動するが、誰もいないのが確定するだけ。


 「メリア様、海賊らしき姿はありません。ただ、既にいくらか食べられてます」


 ファーナは通信をしながら、目の前にあるミールキットを手に取る。

 各種料理に必要な食材が一纏めにされており、レシピに従って作れば、無駄を出さずに美味しい料理を味わうことができるという優れもの。

 少し離れた方に目を向ければ、ミールキットとは別に、お菓子やお酒を目にすることができる。

 こちらは冷凍というよりも冷蔵となっている区画であり、どうやら料理以外の嗜好品も輸送されている様子。


 「まあそれはしょうがない。依頼人に報告といこう」


 輸送船内部の調査が済んだあとは、依頼人である企業へ連絡をする。

 すると、軌道エレベーターを建設している惑星に送り届けるようお願いされる。

 海賊については、警察が回収するのでワープゲートまで連れて来るよう求められるため、あとはのんびりと宇宙空間を飛ぶだけ。

 大型船であるアルケミアにより、一日で目的地となる惑星付近に到着すると、輸送船を積み荷ごと小規模な艦隊に引き渡す。


 「お届け物だよ。少し減ってるけど」

 「いやあ、助かった。しばらく貧相な食事になるかと思うと憂鬱で」

 「娯楽も何もないだろうしね。それじゃ、次は迷惑な海賊を、臭い飯が食えるところに送り届ける番だ」

 「ははは、星間連合の刑務所はなかなかにきついからな。帝国や共和国のがマシに感じるほどだ。ちょっと立ち寄っただけでそう思えるから、中に収監されたら……うーん、想像するだけでぞっとするね」


 他愛ない会話のあと、軌道エレベーターの建設現場から離れようとするメリアだったが、再び通信が入る。

 それは建設現場の責任者からのもの。


 「助かった。一万人分の食事を海賊から取り戻してくれて。改めて感謝の言葉を伝えたい」

 「そういう仕事を受けただけでしかない」

 「そうか。正直なところ、なんでも屋とか胡散臭いと思っていたが、あんたのところは信用できそうだ」

 「依頼があるなら歓迎するよ。高いならさらに良い」

 「ああ。機会があればな」


 通信が終わったあと、メリアたちの乗るアルケミアはその場を離れる。

 中にはヒューケラなどの小型船を格納しており、他の星系へ繋がるワープゲートを通ると、星間連合の警察が待ち構えていた。

 捕まえていた海賊を引き渡すと、数時間後、会社用の口座に報酬が振り込まれているのが確認できた。


 「結構な金額だね」

 「次はどんな仕事にしますか?」

 「いっそ人を増やすというのも」


 なんでも屋として最初の仕事は成功に終わる。

 とはいえ、これはまだ最初の一歩を踏み出しただけに過ぎない。

 海賊から足を洗っても、完全な一般人として暮らすためには、もう少し武力を使わないようにする必要があるためだ。

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