第26話 夢か現か

2泊3日の徳島の旅。


1泊2日では旅を楽しめない、せめて2泊くらいしないと。


徳島ラーメンや、屋台での料理をつまみながら

阿波踊りを踊ってひとときでもいいからバカになる。


会社では真面目な人間で通していた僕が

めずらしくバカになった瞬間でもあった。


山行バカ一代、それで結構じゃないか。


阿波踊りをして浮かれた翌日に、剣山の頂上を目指す。


剣山登山口に行くまでの道のりが険しいが、

剣山を登ること自体はそう難しくはない。


この山に関して言えば単騎で頂上に行くことができた。

百名山と呼ばれるだけあって、素晴らしい絶景。


もう少し長く堪能していたいが、

帰りのバスの時間もあるので早々と山を下山する。


なにしろバスが2時間に1本出るか出ないかだから。


剣山から徳島市に戻ったあとは阿波踊りを楽しんだ。


翌日においては帰りの飛行機は席が取れなかったので焦ったが

徳島からバスで神戸まで行くルートがあったので

神戸まで行って、そこから新幹線で関東まで戻った。


こうして百名山のうち2つの制覇に成功した。


ーこういった具合に休日の山登りで浮かれているものの

平日になると真面目モードで心が死んでいく。


阿波踊りであれだけ浮かれた自分はどうした??

山頂に到達して得意げになった自分はどこへ行ったのだ???


平日の仕事とはあまりにも温度差がありすぎる、

その違和感がどうしても拭えなかったのだ。


平日は与えられた仕事に対して黙して心を殺して働く。


社会人にしてみればほんのわずかしかない

自由に動ける時間である土日祝日に向けて、

平日でも水面化で、山登りについてどういう動きにするか検討しながら進めていた。


僕自身は山登りのジャンキーになるのと並行して

コーチングというものを学び、自らに実践していた。


コーチングとは自分の本来向かいたい方向に対して導いていくスキルである。

近代では社内研修において導入されることも珍しくない。


だが会社におけるコーチングの立ち位置はまた別のもので

会社においては、会社の地位においてどういう仕事をしていたいか、

あるいはどのようにプロジェクトのゴールに導いていくか、というベクトルのもの。


本来の使い方で言えば、会社とかそういう枠を外して自らのゴール設定をするものだ。


そんなわけで、自分のゴール達成において

コーチングというものをやればやるほど


これまで距離が近かった同僚とも

距離が少しずつ離れていくことになった。


それはコーチングでいう「コンフォートゾーン」と言われる

自分が慣れ親しんだゾーンのことで

ゴール達成においてはそのゾーンから離れる必要があるから。


自分の設定したゴールには、会社の同僚である彼らは誰も存在しない。

あくまで会社という場所で自分が金を稼ぐための

一時的な仕事相手に過ぎず、本来の自分のゴールへの協力者でない。


それにコーチングを知ってからは

コーチングを学んでいる人との会話が

自分の気持ちを上げるものだと知ったので


会社の飲み会だとか、ひたすら自分を下げてしまうような会話が出る局面で

同僚と時間を同じくすることが

時間の無駄、苦痛にすら感じるようになってきた。


同僚とは適当に必要最低限の会話だけ交わして

あとは撤収するという日々が立て続いていた。


これまでは愚痴を投げ合っていた同僚とも距離を取るようになってきた。


ひょっとして、土日祝日という夢を見させられているのだろうか?

普段は気持ちが死んでる方が現実じゃないのか?


土日祝日と平日のギャップがあまりにも大きかったのが

僕の首を強く締め付けていたー。


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