短編エトセトラ

ばりばち

超激烈強士キングコブラマスク

 20025年!!!

 200世紀の未来世界では、プロレスリングを源流とする格闘技、超激烈強斗ザ・レスリングが格闘技界の一台ムーブメントとなっていた!

 富豪達は闇賭博として、子供達は希望と羨望の目をその試合に、リングに照らされ戦う超激烈強士ザ・レスラーに向けていた!

 

「シャアァァァァァァッ!」


 この物語の主人公、キングコブラマスクもそんな超激烈強士の一人である!


「ダブルクラッチ・クラッシュアクション!」

「うぅ! 」

ベキ! バキ!

『おーっと! 腰と膝の砕ける音! しかもこの技は、あのフェイバリットへのプレリュードだ!』

「シャアァァァ! 行くぞーっ!」

「ぐあっ……」


「オメガ・カタストロフ・クラーーーーッチ!」


『キングコブラマスクのオメガ・カタストロフ・クラッチがきまったーーーっ!

 かけられた相手の骨がΩの字に丸くべっこり折れてしまう事から付けられたこの殺人ホールド! 返せるか船村!』


 キングコブラマスク!

 数ある超激烈強斗ザ・レスリング団体のうち、ヒール(悪役のこと)団体に属する売り出し中の人気超激烈強士ザ・レスラーである! 影を感じさせる寡黙なスタイルから、試合が始まると荒々しく奇声を上げ相手に向かっていく! しかしファンサはちゃんとする! そしてプライベートと試合を分けており、ワタクシの部分は決して表には出さない! そのギャップ、しっかりした所がまた萌える! 彼をヒールである事を問わずして推しているファンは多い!


「グゥゥゥ……!」

『船村これは苦しい!』

『背骨がΩのアーチを完全に描いていますね。 あとは彼の強化骨格がいつ折れてもおかしくありません。 それまでに脱出方法を見つけなければいけませんが、キングコブラマスクは脱出を許さないでしょう。』

『新人賞を飾った船村銃撃朗左! 得意のデリンジャー・ショットも攻略されこのまま押し切られてしまうのか!』

「シャアァァァァァァ!!!」 

 ベキ ボキ バキ!

『あーっとこれはいけない! 背骨の折れる音!船村の背骨の折れる音です!』

「うわーーーっ!!!」

『強化骨格はベキ割れて大出血!これはいけませんね、決着でしょう』


 カン! カン! カン!


『勝者! キングコブラマスク!

 今日も魅せてくれました残虐ファイト! 彼の快進撃を止めるヒーローは現れるのか!?』

『名のあるベビーフェイスやランキング上位の超激烈強士ザ・レスラーはワールド・ゼクスドレスリング・エキスポに出征してしまっていますからね。 ランク下位、2軍のエースに甘んじていた彼が目の上のたんこぶ達がいなくなって大活躍するのはある種当然と言えるでしょう。 キングコブラマスクにとってはスター達が戻ってくるまでに脚光を浴びておきたいという所でしょう』


 ギッ!!!


 解説の声を聞くなり、キングコブラマスクはコーナーポストに立ち、インタビュー用のマイクをひったくり叫んだ!

「シャァ!

 俺はヤツラのいないうちの空き巣のスターで終わるつもりはねえ! ヤツラが戻ってこようとこのリングを荒らし続けてやるぜ! 今はそのための研鑽の時ってわけだ! そしてやがては俺の名を、このキングコブラマスクの名を世界中に響かせてやるぜ!

 見てろよお前らーっ!」


 ウオォォォォォォッ!


 湧き上がる観客席。

 今日の試合も大盛況のまま幕を閉じた。







 キングコブラマスクの控え室。インタビューを軽く終え、マネージャーに人払いさせ、一息を吐く男が一人いた。善の白に馴染まず、悪の黒に染まらず、我が道を征く蒼の3色のキングコブラマスク。それを取り、シャワーを浴び終えた屈強な男。

 巳沢ミサワ 黒影クロエ

 どこか影を感じさせる整った顔と黒髪。引き締まった肉体の超激烈強士。

 試合の熱を冷ますように、瞑想の段階に入っていた。

 そんな折に、彼の控え室をドンドンと乱暴なノックが響く。

「やあやあ巳沢クン! 絶好調じゃあないか!」

 プロモーターのリオン・風間・スケールレイヤーである。 キッチリ決めたスーツが似合うビジネスマンという印象の容姿の整った男だ。

「快調でなにより!

 試合後にキミが言ってくれた通り、今は本ブレイク前の助走なんだからね、このまま勢いに乗って頼むよ!」

「ああ…」

 ぶっきらぼうに返す巳沢。

「釣れないなあ…

 まあいいさ。 次の試合は一ヶ月後。 今度は女子の新人賞の子だよ。 ちょっと期間空くけど…君なら心配ないか。 ストイックすぎるもんなあ」

「……」

「体だけは壊さないように頼むよ? 僕は君のプロモーターであると同時にチーフマネージャでもあるんだ、何かあったらすぐ報告してね? たとえば……」

「わかってる……過保護なんだよお前は……」

「だって君熱中すると周りが見えなくなっちゃうんだもん…-… 試合では省みてるんだから、私生活でももう少しねえ」

「いいんだよ、そんなことは……」

「やれやれ……変わらないな、君は」

「……」


 会話が止まり、沈黙が流れる。

 呆れつつ信頼の目で巳沢を見るリオン。 その視線を感じつつ、自己の思案に没頭する巳沢。


 彼らは小学生からの古き友人であった。 だから互いにそっけない態度が取れた。 

 巳沢は子供の頃を試合の度に思い返す。 超激烈強士ザ・レスラーの道を進もうと思えた、あの日あの頃の事を。







 巳沢黒影ミサワクロエ、小学一年生。

 内向的な性格だった彼は、当時から外骨格改造や強化など外的要因に限らず強靭な肉体を持つ自然の強者だった。 そんな図体を持ちながら、大人しかった彼は案の定イジメの対象となった。 

 そんな彼を変える出会いがあった。

 ある日の事。

 また学校に行けばイジメられる。 それが嫌で家は出たものの近所の公園で一人シーソーをしていた巳沢。 

ギーコ、バタン。 ギーコバタン。

 一人の公園にシーソーの軋む音が鳴っていた。 父母は共に我道を邁進する人で、自分の事は自分でしろという完全な放任、頼れない。 学校の先生はやったらやり返せ!やり返すならその時は事件になっても不問にしたるから!という教師にあるまじき実力主義だった。

 自分の味方は誰もいない。 生きるのが、辛かった。

 何となく泣き出しそうになっていた、そんな時。 彼は、出会った。


「ねえ!」

 意識外の声だったので、驚き声の元を探すのに時間がかかった。 自分の真後ろにいたと気づいた時には焦るあまりシーソーの掴む手を離し後ろに転げ落ちる形になった。

 彼女はそんな巳沢に、手を差し伸べた。

「一人で遊んでたら、さみしいでしょう?

一緒に遊ぼうよ!」

 それは、巳沢の運命を変える出会いだった。


 少女の名前は、地原ちはら 夜夢美やゆみといった。

 父サイボーグ母ヒューマンのハーフノイドで、性格は子供ながらにしてており、まさしく陽のギャルといった振る舞いで、明朗快活でどこにも馴染むような人気者だった。


「なんで、僕にはなしかけてくれたの?」

「だって面白そうだったから!」

 夜夢美は小学校入学の頃から巳沢のことを見ていたという。 他者を圧する大柄な恵体を持ちながら、勉強が好きで、読書が好きで、他者と絡まない巳沢を不思議に思った、と後に彼女は語った。


 その出会いは、巳沢の心を照らすものだった!


 一緒に夏休みを過ごした。

 花火大会に行き、夜の闇の中花火の光に照らされる彼女の横顔を口にアイスを齧りながら見た。

「きれいだね!」

 君の方が、綺麗だった。


 一緒にプールに行った。

 元来要領は良い方だったので、すぐに泳ぎ方を覚え、どちらが早く泳げるか競走した。

「たのしいね!」

 君といるから、楽しかった。


 一緒に学校に通った。

 夏休みが終わり、宿題を教えあったり、授業中に寝る夜夢美を起こしたりした。 彼女と遊んでいくうち、内向的な性格が変わっていくのが自分でもわかった。 

 リオンという友達もできた。 彼は自分より大人しくなまじ顔は良かったためにイジメられている同じような境遇だった。 それを夜夢美と一緒に止めた。 夜夢美だけではまだ「なんだお前!」とオラつく相手が自分を見た途端に青ざめて逃げていった。

 自身の暴力性には、この頃から気付いてた。




 ある日の事。 夜夢美がいない時に囲まれた。 でかい図体の割に金魚のフンをしている自分が気に食わなかったらしい。 押され、蹴られた。 それは我慢できた。

 彼女の、悪口を言われた。

 それは、我慢できなかった。



 気付いた時、巳沢黒影は自分を囲んでいたイジメっ子たちを返り討ちにしていた。 真っ赤に染まる手に、震えた。



 幸い教師の言う通り子供の喧嘩という事で事態は沈静化させられた。 

 それ以来、巳沢はイジメられる側になる事はなかった。 他者を意図的に圧する事を覚えた。

 それ以来、巳沢は夜夢美の事を素直に見れなくなった。 真っ当に明るい彼女のそばにいるのが、怖かった。

 そうして、小学校を卒業し、離れ離れになろうとした時。

 学校の大きな桜の樹の下で。


「巳沢くん!」

「! ……」

「やっぱり、話せない、かな?

……良いよ、無理しないで……」

「……ごめん……」

「……ねえ! 巳沢くん!」

「?」

「もしさ! また、巳沢くんが怒りたくなっちゃったらさ!

その時は、!」

「……?」

訝しむように、顔を上げた。

「知ったよ! 私の為に怒ってくれた事!

それを自分で自分が怖くなっちゃったんでしょ? でもそれは大丈夫! その喧嘩は、あたしが許してあげる! だからさ! これからは、誰かの為だけに怒って!


……あたしが好きだった、優しい巳沢くんでいてね!」

「……!」

「それじゃ!」

彼女は走り去った。 その表情を伺う事はできず。 ただ、呆然と立ち尽くす愚かな少年が、そこにいた。







 そうして今、プロ超激烈強士ザ・レスラーになった巳沢黒影は想う。

 あの時から、俺は変わらない。 俺は、俺を見てくれる皆の為に、戦う。

 自身の原体験の一つを、確かに想い返していた。




「……瞑想終わった? 良い顔になってるよ。」

リオンが肩をすくめて言う。

「待ってたのか? 案外暇なんだな」

「暇じゃないけどね!? 社長業ならマネージメントに、キミの友達と、さ。」

「フ……ありがとうな」

「ン! ま、まあその素直な所はキミの美点だよね」

「さて、次の試合に備えて…… どんな奴なんだ?その女子新人賞」

「えーとね、破竹の勢いで上がってきた謎の覆面女子らしいよ、リングネームは……」


「氷海の魔女、といいます。

お見知りおきを」


「!?」

「シャアァァ……異性の選手の控え室に来るとは、ずいぶん肝が据わってるんだな。」

 声の方を見ると。

 とんがり帽子に目元が隠れる無限大方マスク。胸元が空いたグレーのリングスーツの女性がいた。

 リオンがふと巳沢の方を見やると、開ける前に気配に気付いていたのかキングコブラマスクをつけている。臨戦体制のようだ。



「宣戦布告を、と思いまして……」

「何?」

ツカツカとキングコブラマスクの方に歩み寄り、肩を掴み。 他の誰にも、少なくともこの部屋の外からは聞こえない声で、言った。

「負けないよ、くん」

「ッッッ……!!」

キングコブラマスクの正体は、チーフマネのリオンと限られた一部人間しか知らない、それをこいつは……!


「お前は、何者なんだ……!?」

 魔女は、クスリと笑い。

「リングで会いましょう。 運命の蛇よ」

 魔装束を翻し去っていった。






「あいつは一体……」

「なんだか、一波乱ありそうだね……」

超激烈強斗ザ・レスリング。そのリングと、それを巻き込む世界に。

「フフフ……」

運命という名のゴングが、鳴らされようとしていた……!





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