第20話
ルザルは、都の外れの郊外に、従者もつけずに1人で訪れていた。王族の者にしては異常ともいえるほど質素なものを好む彼は、馬車さえも使わず、自らの足でここまで歩いてきたのだった。
道中、困っている人民はいないかを自らの目で確かめながら歩いてきたが、誰もルザルの正体に気づかなかった。ルザルは服装も王族とは思えないほど質素であったし、顔も父やテレスと比べて派手ではない。その柔和な顔つきが、ルザルの人間性そのものを表していた。
ルザルがこの地に来たのには、ある人物との約束があったからに他ならない。ルザルは先ほど、老婆の荷物を運ぶのを手伝い、それによって予定よりも大幅に遅刻してしまっていた。これは彼にとっては日常茶飯事といっていい。もっとも、ルザルのこの辺りの性格は父やテレスから疎まれる要素のひとつとなっているのだが。待ち合わせの時間を1時近く過ぎてしまったというのに、相手はまだ待ち合わせの場所に着いていないようだった。
10分ほど待っていると、向こうから走ってくる若い男の姿があった。それは間違いなくタッカーであった。
「すみません、遅くなってしまいました!」
かなり息が上がっている。タッカーは庶民なりのみずぼらしい服装を身に纏っているのだが、急いでいたのだろう、走ってきたせいでさらに乱れてますます薄汚く見える。
「いえいえ。私もたった今到着したところですから問題ありません。それにあなたのことだ。約束の時間に遅れたのも、何か理由があってのことでしょう」
「へへへ。わざわざ人に言うことではございません。それにしても、私をバレンシア家の使用人にしていただいたのも、あなたのお力があってのことです。いま一度、心から感謝申し上げます」
タッカーは深々と頭を下げた。
「何を今さら。そんなことよりも、本日の要件を伺いたいものです」
ルザルは至って真面目な調子で答えた。タッカーは周りに目をやり、ひと気の少ないことを確認すると、ルザルの方に少しだけ歩み寄り、声をひそめて言った。
「バレンシア伯爵の件です」
「やはり。薄々は感じておりました」
ルザルはタッカーの言葉に少しの意外性も感じなかったようで、淡々と返事をした。
「ここでそのことを話すのは不都合です。どうぞ、私の事務所へ」
ルザルとタッカー。この2人の繋がりはいったいなんなのだろうか。ただ言えることは、ルザルはどうやらただの間抜けではないらしいということと、タッカーはただのひょうきんものではないということである。
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